第十九回大会


 2004年9月30日。その年の半期を持って難波システム社は正式に事業を停止した。実の所、同社の業務は既に行われていなかったのだが、それでもストライク・バック第19回大会へのエントリーは事前に行っており今回が同社としての最後の事業活動になる。

「結局、こういうことになっちまったんだなぁ…」
「まあ、仕方ないっス。どうせ潰れるなら一花咲かせたいってことなんじゃないっスか?」
「つってもなぁ。今までの4倍の『デバイス』使うってのはやりすぎじゃねぇのか?」
「おかげでウチは先輩と私だけになっちゃいましたしねぇ」
「次はオマエがパイロットとして搭乗するんだろ?」
「そうっスね。今までやってきたことを考えれば、それも仕方ないっス」
「本当なら若いヤツにやらせる仕事じゃないんだけどなぁ。他に任せられるヤツもいないしなぁ」
「いいっスよ。ここに配属された時から、ある程度はハラくくってましたから」
「俺にはまだアプラが人型を捨てていいのかどうかわからねぇんだよ。人間が人型じゃないアプラに乗ることがどういうことかはわかっているつもりなんだがなぁ」
「結局、コレも兵器じゃないですか。人を殺すためのものなんだから、それを使う側にもリスクがあるのは自然なことだと思いますよ」
「なんか、オマエにしちゃ哲学的だな」
「まあ、ダメになるってわかってれば、私でもそれなりに考えもしますよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんっス」
「はっ。まあ明日はせいぜい頑張れよ。俺はコイツの最終調整をしてから上がるわ」
「うっス。じゃ、お先におつかれっス」
「おう。おつかれ」

 本日早朝、難波インダストリ敷地内の一角にて、難波システム社員の瀬山圭蔵さん(58)が首を吊って死亡しているのが発見されました。警察では現場の状況から自殺として調べを進めています。遺書などは見つかっていませんが、難波システムは一昨日に倒産が決まったばかりで、このことが動機の一端ではないかと見られています。なお、遺体の発見者である同社アルバイトの女性は、ショックが大きく近隣の病院で診察を受けている模様…。


 中本工業主催ストライク・バック第一シーズン。人型汎用兵器による一対一の対戦競技大会はひとまずその最終戦となる第19回大会を迎える。当然の企業群活動として、特殊重機開発の技術力アピールと資本調達を目的として開催される大会の成果は驚くべきものであった。わずか5年もしない間に複雑な駆動・推進系制御技術の向上、特殊環境下における人体への影響と行動生理学的なレポート、更にそれらを統合する有機的なロジテック開発…これらがレールシャトル「幻影の城」に乗って衛星軌道上にまで打ち上げられ、人は遂に地球という領域の外へと足を踏み入れようとしているのである。
 既に次回ストライク・バック大会が開催されるであろう、巨大ステーションの建設映像が送られるようになってきていた。協賛スポンサー名を記した人型重機の群が宙空を飛び交い、都市ほどもある建造物が形作られていく様は確かに壮観この上ない。

「約束ってのはなぁ…する時より、破る時の方が刺激的で面白れえんだぜぇ〜!! 」

 何の約束をしていたのかは良く分からないが、今大会では一部ファンの間で人気の新庄=ゴステロ=ジュンペイが愛機ダルジャンを駆って久々に登場する、筈であったがそれに真っ向から立ちはだかったのが無頼兄(ブライアン)・龍波であった。自称天駈けるモノノフ、宇宙侍としては卑劣な悪者であるゴステロの存在が我慢できなかったのであろうか、元来リザーバである新庄=ゴステロ=ジュンペイのトーナメント出場権を賭けて、大会は特別試合から開催される。

特別試合 ダルジャンvsオーガイザー

 どちらも超攻撃型機体の両者、ゴステロ=ジュンペイの搭乗するダルジャンは更に能力を攻撃特化し、無頼兄騎乗のオーガイザーは重装甲・重兵器と近接格闘戦能力を突出させている。
 オープニングマッチとなる対戦は中間距離、ダルジャンのレーザードバズソーが先制の砲火となってオーガイザーに命中した。続けて砲撃、これも命中するがオーガイザーもガイ・ブレイザーで反撃、やはり連続で命中させる。両者接近、メタルクローと鬼皇剣(きこうけん)が交叉、切れ味に勝るオーガイザーの鬼皇剣が装甲を派手に削ると開始わずか4分で両者の装甲ダメージは50%を超える。
 離れてレーザードバスソーとガイ・ブレイザーは相打ち、装甲に勝るオーガイザーは押し切るつもりで接近し、鬼皇剣で切りつけると再度離脱、相打ち承知のガイ・ブレイザーでダルジャンを機動停止に追い込んだ。これでトーナメント進出権はオーガイザーが獲得する。

○オーガイザー(9分機動停止)ダルジャン× 2vs-2


トーナメント一回戦 トータス号32型vsオーガイザー

 ここで会場の照明が戻されると、改めてストライク・バック第19回大会の開催が告げられる。参加は全14機、前回優勝の現役横浜市長中田宏と、準優勝のシャル・マクニコルがシード権を得てのトーナメントとなる。舞台は第一回大会と同じく球形エネルギー・フィールド競技場「輝ける銀の銃」。一回戦最初の対決はコルネリオ・スフォルツァ駆るトータス号32型。スポンサーは白河重工(SRI)、「怪奇を暴く科学の光」がキャッチフレーズ。対するは先に新庄=ゴステロ=ジュンペイを撃破し装甲修理を終えたオーガイザーである。
 近接距離から開始、オーガイザーの必殺鬼皇剣をかわしたトータス号は至近距離からこうもり男を発射、厚い装甲に阻まれ軽微とはいえ先制のダメージを与える。続けて牽制、距離を離して得意の伝送装置で捕捉した相手に冷凍光線発射、だがこれもオーガイザーの重装甲、魂鋼(たまはがね)に弾かれて損害軽微、その間にガイ・ブレイザーの反撃を受けペースを戻される。薄氷の上の優勢にあるトータス号は得意の戦法でペースが掴めないことに反応が遅れ、そこに接近したオーガイザーが先の特別試合同様反撃を無視して鬼皇剣で切りつける。斬撃、返しの攻撃まで直撃してこれで一気に優勢になったオーガイザーはとどめを狙って攻撃するが、トータス号もこれを懸命に回避。一撃憂ければ破壊されるであろう装甲の状態で5分近くも攻撃を避け続けると、中間距離に離れて再び伝送装置で相手を捕捉、冷凍光線を発射する。3弾を命中させたトータス号は勝負の接近戦、同時発射したこうもり男を5発まで命中させるが、鬼皇剣の刃もかわしきれずに装甲破壊、両者機動停止。最後の一撃の攻撃力の差によってオーガイザーが勝利を納めた。

○オーガイザー(13分両機起動停止による判定)トータス号32型× -3vs-5


トーナメント一回戦 ヴァンデミエールvs○式

 パイロット技量を十全に活かした有効距離確保戦術の確立。ロストヴァ・トゥルビヨンは間違いなくその開祖であったが同時に対戦相手の神城進は全距離対応と攻勢装備による制圧前進戦術のスペシャリストである。

 神代「今度のメカは0式(ぜろしき)か・・・なんかこ〜お子様向けな名前だな。」
 整備「いえ○式(まるしき)です。」

 彼らの目の前には黄金に輝くボールの雄姿が・・・。

 神代「黄金のボール・・・きん○ま・・・」(がすっ!)
 整備「とりあえず気絶してるうちにコックピットへ放り込んでおこう。」

 そんなやり取りがあったらしいが、宇宙戦を想定してか今大会には人型を多少逸脱した機体の参加も見受けられる。無脚型ボールタイプの○式に搭乗する神城と、対する中距離の女王はやはりスポンサーからの貸与機、ヴァンデミエールに騎乗する。
 中間距離から開始、ヴァンデミエールはブリュヴィオーズ、○式もグレイバズーカを発射、双方の重い弾頭が相手の装甲をたたく。両者が中距離主体での撃ち合いを選択、確実な回避と狙撃を狙うロストヴァとひたすら攻勢、火力勝負に出る神城。だがロストヴァの戦法は常に自分の神経を削る方法である。移動攻撃の隙を狙われてグレイバズーカを受けたヴァンデミエールはバランスを崩し、更に追い打ちを命中させられる。

「しまった…!?」

 すぐに体勢を立て直してブリュヴィオーズで反撃、続けて命中させるが○式は損害を意に介さずグレイバズーカで押し切る。一瞬のミスが命取りとなったロストヴァは畳み掛けられるかたちでの悔しい敗戦となった。

「実績が泣くわね…」

 自嘲気味に笑いながら首を振るロストヴァ。
 一回戦は神城進が突破を果たした。

○○式(6分機動停止)ヴァンデミエール× 16vs-8


トーナメント一回戦 アプラ・ツイvsりふぁいん・どんきほーて弐号

「つまらんオチやったな」
「むしろ好都合だったかと。口を封じる手間が省けました」
「どうせ死ぬんやったらヨソで死ねばええのにな。コレでレジとの合併にケチついたらかなわんわ」
「まったくです。しかし、これでシステム社の人間はいなくなりました。既にストライクバック参戦権だけを引き上げる手筈は整っていますので、我が社の損害は軽微だと思われます」
「アンタのキモは本物やな。これだけの大バクチ打って眉一つ動かさん」
「お褒めにあずかり光栄です。ただ、これからが本番ですよ」
「アンタがいれば安心や。本当に頼むで」
「はは。お任せください。全ては良い方向に進めてみせます」
「……お、試合が始まったで」
「難波システムの仇花ですね。まあ、頑張ってほしいものです」

 某所での会話である。倒産、事業停止の決まった難波システムの最終機体、アプラ・ツイはセンチネル機の原形をとどめないほどにカスタマイズされ、ただの金属の八角柱といった外観をしていた。重力制御されたエネルギー・フィールド内に浮かび上がる幾何的な姿は一種異様な感覚を与える。対戦相手のベアトリス・バレンシア、自他ともに認める明るく能天気なラテン系小娘も何か見てはいけないものを目にしてしまったかのような感覚を覚えていたかもしれない。

 対戦は近接距離、アプラ・ツイの汎レンジ兵器、チェインソードは既に剣のような形状ではなく帯電する金属球の姿をしている。予測のつかない軌跡を描いて襲いかかるチェインソードと可変武器であるがらがらへびのつるぎが交錯、互いの装甲を深々と削り取る。尋常ではないアプラの出力に場内がざわめいた。
 空中を漂うように距離が離れたアプラ・ツイから更にチェインソードの光球が襲いかかる。どんきほーてはこれを受けながらもばっくどらふとの炎の舌を浴びせかけるが、損害が全く視認できない。接近してふたたび斬撃、だがチェインソードの直撃を受けるたびに不思議な失調感により操作系が乱れる、そこにとどめとなるチェインソードが突き刺さった。

「おいおい、あまり勝ってもうたら…」
「ご安心を。手は打ってあります」

○アプラ・ツイ(4分軌道停止)りふぁいん・どんきほーて弐号× 13vs-8


トーナメント一回戦 ガルガンチュアvsメガロバイソン1

 メガロバイソンプロジェクト予算委員会。真っ暗な会議室に集まり、赤と青と緑と黄色でライトアップされている怪しげな男たちが、スケジュールの速やかな遂行とかシナリオの大幅修正とかこの席での偽証は死に値するぞとか、一見壮大なようで実はなんの意味のない会議を繰り広げている。

「やはり新規参加の付け焼き刃では限界があろうて」
「さよぉ」
「射撃戦を主体にするのは良い。だが出力の優先バランスは」
「今からの仕様変更は大丈夫か?本年度の予算は…」
「さよぉ」

 そのような会議を反映しているのかいないのか、マック・ザクレス搭乗するメガロバイソン1は肩口に長距離砲塔を搭載しての出陣である。対するネス・フェザードは愛機ガルガンチュアに騎乗、高出力化を果たしたセンチネル系機である。
 まずは中間距離、ガルガンチュアのグラビティナックルが先制で襲いかかるがバイソンはこれを確実にかわし、すぐに狙撃体勢でレーザービームファイヤーを放つがガルガンチュアもすでに防御姿勢をとってこれを回避する。堅実なヒット&アウェイ行動から一転して撃ち合い、ナックルとファイヤーが双方命中、それが3撃続いて一気に装甲を削る。わずかに優勢だったのはメガロバイソン。
 ここでバイソンは距離を離してカノンショットバスターで狙撃、だが遠距離から装甲を弾いただけ。ガルガンチュアのサイドワインダーも命中するがかすっただけで損害は軽微。続けての砲撃は両機回避に成功。更に両機ともに驚くべき回避性能と機体操作によって互いの攻撃を回避し続けるが、アドバンスシステム、エンド・デバイスの影響で駆動部の損耗が激しいガルガンチュアはやはり不利な状況にある。
 決定打が出ないまま遠距離戦、両者の砲撃はやはりかすっただけで、前進、レーザービームファイヤーを回避攻撃で命中させたバイソンに今度は反撃のサイドワインダーが突き刺さる。一進一退だが常に不利にある状況に焦ったガルガンチュアは砲撃を続けるが、一撃、二撃、三撃と食らいながらも直撃を避け続けたメガロバイソンがついにカノンショットバスターでとどめを刺した。

○メガロバイソン1(14分軌道停止)ガルガンチュア× 12vs-5


トーナメント一回戦 猫たーぼTWXvsGM寒冷地仕様

「え、次の機体のテストですか?バカンス付き!?」  今大会が最後の地上戦とあって、極地仕様テストを北極で行っていたらしいGM陣営とジム。涼しいところでのバカンス付き機体テスト、と称してパイロットとひと悶着あったらしいがそれはそれとして寒冷地仕様での登場である。一方の猫たーぼシリーズはKUSUNOTECの今後の方向性を占いたい、攻勢と機動性双方を限界近くまで追求したスタイル。いつもの通り山本いそべ社長自ら騎乗しての参戦である。
 開始遠距離、猫たーぼは子猫分離射出式の新型猫ろけっとぱんちを射出、直撃の破壊力にGMは構えたシールドごと吹き飛ばされながらも反撃のグレネードランチャーを命中させる。だが接近、マシンガンを抜いたところでこれを射線ごと予測した猫たーぼは回避攻撃でカジキぶらすたーを抜き撃ち。見事に命中させてペースを掴んだ。GMは接近戦に活路を見いだそうと前進、ビームサーベルで切りつける。機動性を駆使して回避されながらも一撃が命中、薄い飛燕系の装甲を大きく削り取った。
 だが反撃もここまで、距離を取った猫たーぼは指向性の高いカジキぶらすたーを命中させると、更に離れて猫ろけっとぱんち。GMの撃破に成功した。

○猫たーぼTWX(7分軌道停止)GM寒冷地仕様× 22vs-1


トーナメント一回戦 ゲウシュ・ウルヴァンvsぷにぷにエターニア

 先の特別試合で敗退した新庄=ゴステロ=ジュンペイと縁故があるかもしれない両者、スウェット姿が似合うらしいテムウ・ガルナは横浜市長の活躍に自信を奪われつつあるらしい遠距離主体パイロット、静志津香は人当たりが良く誰にでも好かれるタイプである。

 テムウ騎乗のゲウシュ・ウルヴァンは自信を失った本人が近接戦を希望したこともあって、それなら是非今回もと遠距離主体の通常仕様。だが試合はその遠距離戦から開始、多角光学レーザー、パラダインブロウがフィールド内を無作為に飛び交うと、乱反射したように見えながらただ一点に収束されて襲いかかる。独特の軌跡を描く砲撃に歓声が上がるが、エターニアも光条を確実に回避しつつ一部は装甲で弾き飛ばし、損害を最小限に抑える。砲撃を回避したエターニアは前進、移動攻撃でフレアブラスターを発射。ウルヴァンのコンダクトサンダーと相打ち気味に命中しながらも出力では優勢。
 だがウルヴァンは離れて再びパラダインフロウを照射、フィールド外縁を利して巧みにエターニアを追い込むと光条を次々と命中させる。危機を感じたエターニアは再び前進、コンダクトサンダーを受けながらもフレアブラスターで反撃、更に相手の攻勢範囲の及ばない近接距離まで接近すると高熱鋼線のフレアバインドでゲウシュ・ウルヴァンを捕捉、フレアグレネードを炸裂させる!装甲の上で連鎖するように爆発が生じるが、とどめを狙ったところで周囲を覆った白煙によって互いの距離が離れてしまう。抜き撃ちぎみに発射した両者の砲撃は外れ、この機を狙って距離を離したウルヴァンがパラダインブロウを一斉射出!装甲にかすらせながらもそのことごとくを回避するエターニアだが、続く第二射、第三射と八方から襲いかかる光条についに装甲が耐えきれなくなり、機動停止に到った。

○ゲウシュ・ウルヴァン(9分機動停止)ぷにぷにエターニア× 6vs-2


トーナメント二回戦 横浜中華GUYvsオーガイザー

 一回戦が終了し、いよいよ無敵の現役横浜市長、中田宏の登場である。「宇宙ステーションを横浜の姉妹都市に」のキャッチフレーズを掲げて登場するは前回、前々回の大会を制した横浜中華GUY。基本セッティングはそのままに、今回は地元スポンサーの派手派手しい広告を多数、機体に貼りつけての地域密着型登場である。対するはここに来るまでに既に2戦、それも激戦を勝ち抜いてきた無頼兄・龍波とオーガイザー。だがモノノフには連戦による疲労の影さえも見えない。
 その無頼兄が開始早々、近接距離からの鬼皇剣を命中させて先制に成功する。遠距離主体の中華GUYにとっては誤算に近い展開だが、みなとみらい線でらくらく後退すると肩口から砲門とスピーカーが開かれた。

「八景島シーパラダイスファンタジードルフィンキィィィィィーック!」

 スピーカを通して市長のよくとおる声が競技場内にこだまする。どうやらスポンサーとの契約条件で、技名を正確に叫ぶ必要があるようだ。並みの男であれば思わぬ相手の言動にペースを乱されるかもしれないが、無論無頼兄・龍波は並みの男ではない。

「ガァァァァアイ・ブレイザァァァァァァッ!」

 対抗して発射されるガイ・ブレイザーが中華GUYに命中、相打ちであれば装甲でも出力でも勝るオーガイザーが有利であり、思わぬ苦戦を強いられる中田宏と中華GUYだが更にみなとみらい線でらくらく距離を離すと待望の遠距離戦へと移行する。近接仕様のオーガイザーがこの距離での反撃の手を持っていないことを承知の上での、会心の表情をコクピットで浮かべる現役横浜市長中田宏。

「南YOKOHAMA3(サン)セットプラン〜秋得バージョン〜シュゥゥゥゥゥートッ!」

 これもスポンサー仕様なのであろう、開かれた砲門から複数の光条が計算されつくした軌跡を描いて射出されると、オーガイザーの装甲が虹色の光彩に包まれる。だが中田宏にとって誤算であったのは、オーガイザーの重装甲、魂鋼の予想以上の頑丈さであったろう。確実に全弾命中しながらその損害は軽微であった。
 それでも相手に反撃の手が無い状況は変わらない。中華GUYは秋得バージョンの名を叫びながら次々とオーガイザーの装甲を光学レーザーで彩っていく。辛うじて距離を確保したオーガイザーがガイ・ブレイザーを放つがこれは掠っただけ、すぐに遠距離に戻すと3(サン)セットプランを一方的に放ち続ける。

 開始15分、オーガイザーの装甲は中華GUYの猛攻に耐え続けており、開始早々の鬼皇剣のダメージが未だ大きいほどであった。だが中田宏の狙いはもう一つにある、アドバンスシステム「熱血BGM」を搭載したオーガイザーにとって長期戦はそれだけ損耗が続くということでもあるのだ。ガイ・ブレイザーによる反撃は今度は外れ、駆動系の損耗も少しずつ蓄積している。それを避ければ一方的な光条の雨にさらされるだけのことだ。状況に迷う必要を認めなかった無頼兄は前進、長期戦の展開に優位にありながらも焦りのあった中華GUYが攻勢に出ようとした隙をついて近接格闘戦に持ち込むと再び鬼皇剣の斬撃、一旦離れるが逃がすまいと食らいつき続けて二撃、三撃目の鬼皇剣を命中させて遂に中田宏と横浜中華GUYの撃破に成功した。

○オーガイザー(22分機動停止)横浜中華GUY× 19vs-8


トーナメント二回戦 ○式vsアプラ・ツイ

 一回戦を突破したセンチネル系両機の対戦、だがそれに気づく者は少ないだろう。帯電する八角柱アプラと黄金色の球形作業コンテナ、○式との対峙はある意味では宇宙戦を想定した次世代ストライク・バックを思わせるものであったろうか。

「・・・・・・・・・・」
「何か喋ってますけど…」

 アプラの表面で不可思議な光のパターンが明滅し、空気をふるわせる振動が神城の耳には音声めいて聞こえたのかもしれない。困惑の中で試合開始、○式は中間距離からのグレイバズーカを連射し、これを命中させる。アプラからぎこちなく飛んでくるチェインソードは堅実に回避。
 離れての撃ち合い、全面攻勢が基本の○式はバズーカランチャーを発射、八角柱の表面に爆発を起こす。アプラの汎レンジチェインソードの球体も○式を捕らえるが、放電が安定せずメッキ塗装の装甲にも遮られて損害軽微。再び○式はグレイバズーカを発射、着弾して一方的にアプラを攻めたてる。アプラは一回戦の戦いが嘘のように動きに精彩がなく、不安定にチェインソードを振り回しているがまるで効果がない。続けてバズーカランチャーの連打を受け、最後も反撃の素振りを見せるものの砲弾を直撃されてあっさりと機動停止してしまった。

 重力制御されたエネルギー・フィールド内とはいえ無重力空間な訳ではない。機動停止したアプラ・ツイは八角柱の表面を激しく明滅させながら、ゆっくりとフィールド下方へと落下してゆく。それが地面に落ちた瞬間、常ではありえないような爆発が起こった。
 競技場のエネルギー・フィールドはアプラの爆発にも充分に耐えたが場内は騒然、明らかにセンサー装甲の爆発ではなく、内部機関の異常が生じたのであろう。アプラ機は回収されたがパイロット大宮笑の安否が気づかわれるところであった。

「いったい、どないしたいうんや?」
「いえ、ここにたまたまアプラシリーズの設計書があるんですがね。完全全方位推進システムを組み込んだアプラ・ツイには思わぬ欠陥があって、ごく稀に重力制御場を機体内部、それもジェネレータ周辺に発生させてしまう可能性があることが判明したんですよ」

「あらー、それは怖い欠陥やな。パイロットは無事やろか」
「全くです。ストライク・バックのコクピットは頑丈に出来ていますが、搭乗者に後遺症が残らないと良いですね」

 難波システムの報告によると、大宮笑は無事救出されインダストリが産業医契約を結んでいる関連病院に搬送されたとのことである。アプラ・ツイの機体は破損が激しく、難波システム最後の機体はそのまま廃棄が決定されることになった。

○○式(6分機動停止)アプラ・ツイ× 34vs-4


トーナメント二回戦 メガロバイソン1vs猫たーぼTWX

 メガロバイソン陣営の整備室。パイロットのマック・ザクレスに小柄でほこりっぽい白衣の女性が力強い声をかける。

「マックさん!準備できました」
「サンキュー、メージ。調整は問題ないかい?」
「ワタシを誰だと思ってるんですか!?」
「わ、悪かったよ…そーいう意味じゃ」
「さっさと用意しねーか!手前ぇでチェックできない奴にパイロットの資格なんざねぇぞ!」
「すいません!おやっさん」

 ストライク・バックでチームとして正式に登録できるのはオーナーを除けばパイロットとメカニック、そしてオペレータの3名である。無論その他に裏方となるメンバーも存在するが、パイロットのマック・ザクレスと小柄で自信家の女性プログラマー、ジアニ・メージ、そして熟年の技術屋めいたザム・ドックを合わせた3人がメガロバイソンチームであった。それにしてもどうして体当たり兵器が無いのでしょうか?というメージの声を後ろに聞きながら、マックはコクピットに乗り込むと機体の最終確認を行う。
 一方KUSUNOTEC猫たーぼチームの準備も既に完了していた。粘性流体によるショックアブソーブシステムのコクピットに入浴、でなく搭乗するとシステムオールグリーンを確認する。両機を乗せたカタパルトはそのまま競技場射出口へと移動し、カウントダウンの完了とともに対決が始まるのだ。専用に設けられたモニターブースから、指示を送ることができるのはチームのメンバーだけである。

「ミドルレンジ、−35、+20!」

 専用通信回路で敵の位相を受け取る、メガロバイソンのレーザービームファイヤーを確実に回避した猫たーぼは反撃のカジキぶらすたーを発射、直進性の強化された熱線がバイソンを捕らえて先制に成功する。距離を取った猫たーぼは猫ろけっとぱんちで追撃、バイソンは初撃の回避には成功するが二撃目は回避失敗、反撃のカノンショットバスターも外れてペースを掴めない。

「攻勢、来ますよ!」

 メージの言葉に反応したマックは機体が悲鳴をあげる程の動きでバイソンを制動し、カジキぶらすたーを回避すると同時にレーザービームファイヤーを発射する。これが猫たーぼの薄い装甲に直撃して状況は五分。その後は両者が最大限に機動性を駆使して相手の砲撃回避に専念する展開となった。巧みに距離を入れ替えつつ神経を削り合う。
 均衡を崩したのは猫たーぼである。一瞬、狙撃を狙った相手の隙をついてカジキぶらすたーを再び抜き撃ち、これをついに直撃させたのが開始11分過ぎ。体勢を立て直すために後退を図る猫たーぼの行動線を読んだバイソンはバイソンは起死回生を狙ってカノンショットバスターで狙撃、これを命中させるが猫ろけっとぱんちの回避に失敗、逆転の望みを絶ちきられた。

「もあ、すぴーどーぉ(山本いそべの勝利コメント)」

○猫たーぼTWX(15分機動停止)メガロバイソン1× 23vs0


トーナメント二回戦 ゲウシュ・ウルヴァンvsドミニオンMk2

 二回戦最後の対決はもう一方のシード機、ドミニオンMk2と騎乗するシャル・マクニコルの登場である。対するは一回戦で辛くもエターニアを撃破したテムウ・ガルナとゲウシュ・ウルヴァン。近接系機体と遠距離系機体の激突である。

 相対距離はウルヴァン得意の遠距離から、早速パラダインブロウが一斉射出されるがドミニオンはその全てを完全回避。反対に仕様変更に向けて試験投入した新兵器、アルベー(鉄蝗)を撃ち出す。かすっただけで損害は軽微、だがドミニオンの動きに場内歓声。近接戦闘への移行を狙って接近するがこれはウルヴァンが完全に予測し、罠に誘い込むようにコンダクトサンダーの砲撃の前に引きずり出すと直撃する。主天使を雷にとらえた雄牛は距離を離して再びパラダインブロウ、アルベーの反撃を受けながらも光条をドミニオンに命中させる。手数では圧倒的にウルヴァンだが、ドミニオンは回避性能が高い上に一撃の出力では圧倒的に勝る。双方の戦況はほぼ互角。
 10分過ぎ、それまで遠距離の撃ち合いに終始していたドミニオンが遂に待望の近距離へと移行する。ウルヴァンの砲火を受けながらも強引に突進、十字架剣を振り回すがこれは移動攻撃にバランスを崩したか命中せず。だが離れて発射されたコンダクトサンダーを落ちついて回避すると、再び接近した主天使は今度は十字架剣を二撃、巧みに命中させて激戦に終止符を打った。

○ドミニオンMk2(17分機動停止)ゲウシュ・ウルヴァン× 7vs-1


トーナメント準決勝 オーガイザーvs○式

 いよいよ準決勝。連戦の上、現役横浜市長中田宏を破ったオーガイザーと無頼兄・龍波対アプラシリーズ最後の機体を撃破した○式騎乗の神城進。両機とも攻勢型の機体、恐らく激しい削り合いによる短期決戦が予想される組み合わせであるが出足は意外な展開となった。オーガイザーのガイ・ブレイザーは○式のメッキ塗装された装甲が弾いて損害なし、○式のグレイバズーカも回避行動をとったオーガイザーに避けられてしまう。

 双方とも静かな展開による技術戦が展開されるかと思われたが、次の瞬間には一気に距離を詰めたオーガイザーが鬼皇剣を○式の肋骨に突き立てていた。続けて一撃、二撃、三撃、一方的に斬りかかるオーガイザーに○式が反撃の砲火を放ったのは開始5分もたってからのことである。鬼皇剣の残撃を受けながらも近接戦闘用のビームマニュピレーターで掴みかかる、本来が作業用アームの怪力と破壊力はすさまじく、オーガイザーも捕捉されると装甲にばきばきとひびを入れられてしまう。
 それでも退かないのがモノノフ流か、鬼皇剣の残撃をゆるめる様子も見せずに相打ちの斬り合いを続けると、ダメージの蓄積していた○式の装甲が耐えきれずについに機動停止、意気あがるオーガイザーが堂々決勝進出の権利を獲得した。

「グルワ〜ッハッハ〜ッ!!当〜然だあっっ!!」

○オーガイザー(8分機動停止)○式× 8vs-8


トーナメント準決勝 猫たーぼTWXvsドミニオンMk2

 準決勝もう一戦は猫たーぼとドミニオン、実力機同士の対戦となる。ドミニオンにとっては先のゲウシュ・ウルヴァン戦に続いて遠距離機体との対決。  やはり猫たーぼ得意の遠距離から開始、飛来する猫ろけっとぱんち、更に空中で分離射出される子猫ろけっとぱんちまでを回避するドミニオン、だが反撃のアルベーも猫たーぼに回避される。近接機でありながら遠距離対応策を設けてきたドミニオンは足を止めての撃ち合いに応じ、猫ろけっとぱんちとアルベーが交錯して相打ち。装甲の薄い猫たーぼに対して有利かと思われたが、飼い猫ミケの野獣の本能をサンプリングしたと言われる動態予測システムに的確に捉えられたドミニオンは思った以上の着弾を受けて損害は同等。すかさず猫たーぼは高出力カジキぶらすたーを射出してこれを直撃、一気にペースを握る。  だがここでドミニオンは近接格闘戦への移行に成功、十字架剣で斬りつける。一撃、二撃、三撃と立て続けの斬撃を猫たーぼは回避、この距離での反撃能力を持たないために一方的な守勢に追い込まれるが、スティグマ(聖痕)と呼ばれるアドバンスシステムはもともと損耗の大きかったドミニオンの身を削り続けていた。回避性能に自信のある猫たーぼがこのまま逃げ切れば、ドミニオンには自滅の道しか残されていない。  開始7分、唯一の手段である圧倒的な攻勢を続けるドミニオンの十字架剣がついに猫たーぼに命中、返しの一撃も命中させてわずか二回の斬撃で一気に相手を機動停止寸前に追い込む。だが主天使に残されている力も少なく、両機とも一撃受ければ次は耐えきれないであろう。猫たーぼは落ちついて十字架剣をかわすとようやく距離を離してカジキぶらすたー、これもドミニオンは回避する。きしむ機体を休ませようともしない主天使の接近、十字架剣の斬撃を猫たーぼは巧みにかわしつづけるが、天使が墜ちる直前、遂に捉えた十字架の切っ先が勝敗を決した。シャル・マクニコルとドミニオンが前大会に引き続いての決勝進出。

○ドミニオンMk2(13分機動停止)猫たーぼTWX× 2vs-8


NAKAMOTOストライク・バック第十九回大会決勝戦

 第一シーズン最終戦となる第19回NAKAMOTOストライク・バック大会決勝戦。連戦に次ぐ連戦を肉を斬らせて骨を断つとばかりに身を削りながらも突破してきた「天かけるモノノフ」無頼兄・龍波とオーガイザー、対するは第1回大会からの参加者、これまで二度の優勝経験を持ち先の第18回大会でも決勝進出を果たしているシャル・マクニコルと「主天使」ドミニオンMk2である。
 両者ともセンサー装甲の修復と機体の最終チェックが行われ、特にアドバンスプログラムで損耗した駆動部の修復が入念に施される。接近・格闘・突破。ともに攻勢のスタイルが重なっており、恐らくは正面きっての削り合いが行われるであろうことは予想されていた。短期決戦に必要となる爆発的な出力を万全に確保するために、メカニックに率いられた整備班は制限時間のぎりぎりまでを何重ものチェックに費やしている。

「よし、行くよ」
「さーあ、あと一回で優勝だぁっ!!」

 パイロットが搭乗した機体がカタパルトごと移動、「輝ける銀の銃」のフィールドに向けた射出装置に乗ると既にカウントダウンが開始されている。視線の先、競技場には彼らの戦いを待ち望んでいる観衆がいる筈であった。GOの合図がかかり、カタパルトが球面フィールドの内壁に高速で打ち出されると壁面に沿って滑り始める。視界の反対側では相手機が同様の状態でフィールドを滑り、既にこちらの位相を捕捉しようとしている。3・・・・2・・・・1・・・・0、機体とカタパルトを吸着させていた磁力が遮断され、慣性のままに両者は戦いの場へと飛び立った。いよいよ決勝戦の開始である。

 開始と同時に両機は示し合わせたように急速接近、上段から振り下ろすオーガイザーの鬼皇剣に、ドミニオンは十字架剣を下から振り上げる。互いに命中、だが装甲で劣るドミニオンがより派手に損害を被った。その場で足を止めて斬撃、至近距離にも関わらず両者ともにこれをかわす。続けて鬼皇剣の軌跡をかわしたドミニオンは十字架剣をこちらは命中させ、わずか3分で両者の装甲は50%近いダメージを受けるが、ここまで状況はほぼ互角。戦前の予想どおり出力に勝るオーガイザーと回避性能に勝るドミニオンの真っ向勝負となった。
 両者ともに距離を取るつもりはなく、目の前にいる相手との技量勝負に挑む。鬼皇剣と十字架剣の斬り合いは双方が回避する、オーガイザーに比べるとドミニオンの剣筋はやや安定しないが、確実な回避性能がそれを補っている。7分過ぎ、遂に均衡を破って十字架剣を命中させたドミニオンは続けての斬撃も命中、アドバンスシステムで損耗しているオーガイザーには後がなくなった。だが超攻撃型を自認するオーガイザーも鬼皇剣で反撃、強力すぎる一撃を直撃させてドミニオンの翼をもぎとろうとする。
 最後の一撃。鬼皇剣と十字架剣が斬り交わされ、勝敗を決めたのはわずかの差で斬撃をかわした主天使の刃であった。可変する剣に装甲を貫かれて地に墜ちる巨人と、十字架を掲げる天使。

 こうしてドミニオンMk2とシャル・マクニコルが最終戦の優勝を飾ったのである。

○ドミニオンMk2(10分機動停止)オーガイザー× 5vs-9

cut


総合成績

優勝 シャル・マクニコル    ドミニオンMk2        飛 3戦3勝通算36戦20勝
2位 無頼兄・龍波       オーガイザー          ド 5戦4勝通算07戦05勝
3位 神代進          ○式              セ 3戦2勝通算29戦15勝
3位 山本いそべ        猫たーぼTWX         猫 3戦2勝通算31戦22勝
5位 中田宏          横浜中華GUY         ド 1戦0勝通算14戦09勝
5位 大宮笑          アプラ・ツイ          セ 2戦1勝通算13戦06勝
5位 マック・ザクレス     メガロバイソン1        ヨ 2戦1勝通算05戦03勝
5位 スウェットさん      ゲウシュ・ウルヴァン      ド 2戦1勝通算33戦18勝
9位 コルネリオ・スフォルツァ トータス号32型        ヨ 1戦0勝通算22戦11勝
9位 ロストヴァ・トゥルビヨン ヴァンデミエール        ド 1戦0勝通算40戦25勝
9位 ベアトリス・バレンシア  りふぁいん・どん・きほーて弐号 飛 1戦0勝通算29戦11勝
9位 ネス・フェザード     ガルガンチュア         セ 1戦0勝通算27戦11勝
9位 ジム           GM寒冷地仕様         ド 1戦0勝通算08戦02勝
9位 ふわふわおねーさん    ぷにぷにエターニア       ド 1戦0勝通算29戦14勝
−− 新庄ゴステロ=ジュンペイ ダルジャン           飛 1戦0勝通算11戦01勝
−− ウツギ・シェーラ     **              * 0戦0勝通算01戦00勝
−− アナイス・ランゲマルク  **              * 0戦0勝通算02戦00勝


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