昨年末から発売の話のあった第一期CrimsonのメロディーメーカだったIan
McDonaldのソロアルバムが発売されましたね。
早速、筆者も購入した次第なのだけど、ちょっと内容にかなりの'?'が付いてる気がするのです。
参加メンバーもそれなりに充実しているし、何とCrimsonの初代ドラムス、そしてMcDonald
& GilesでIanとコンビを組んでいたMichal Gilesまで復帰するというおまけも付いております。
それなのに、筆者にはどうもしっくりこないのです。
ちなみに、このアルバム、風の噂ではかなり前に出来上がっていたらしく、だけど残念ながら発売してくれるレコード会社が無くてかなり苦労したらしい。
で、日本では何とテイチクレコードが版権を買ったわけだけど、これってほんとワールドワイドで発売されたのかどうか......
まあ、そういう状況的なものは置いておいて、何が筆者にしっくりこないのか、ちょっとおつき合いの程を....
このアルバム、収録曲は全11曲、さすがに前時代的な10数分の曲なんてのは収められておらず、どの曲もほぼ5分以内に収まっています。
一曲目の'OVERTUTRE'等、数曲ではストリングスセクションを配して、かなりポップな仕上がりになっているのだけど、どうもしっくりきていない。
特に一曲目の'OVERTUTRE'でテーマのオブリをシンセサイザーで入れているのだけど、音色もフレーズも、それに演奏事態も、バックに合っていない気がしてしょうがない。
2曲目や3曲目のボーカルナンバーのほうは、ノリも良いのだけど、どうもアレンジもサウンドもすごく古くさく感じる。
これは、別に'60〜'70年代のノリと言うわけでもなく、変な表現だけどノリは良いけどいつの時代にもマッチせずに古くささを感じさせているといったところか。
そんな感じで収録曲が進む訳だけど、一番の問題曲はIan自身がCrimson
Songと言っていたという'FOREVER
AND EVER'だ。
確かに、Ianに対して第一期のCrimsonの陰を求めているファンは多いとは思うのだけど、こんな風にあからさまにやられるとリスナーのほうも困るというものだ。
Ianが作曲し、John Wettonがボーカルを取るというのも確かになかなか貴重な取り合わせと言えなくもないのだけど、正直なところ曲、アレンジともに水準に達しているとは思えない。
そして、'SATURDAY NIGHT IN TOKYO'などという日本市場をあからさまに意識したタイトルも何とかならないものか....(テイチクレコードのご意向じゃーないだろーな???)
そんななか、'STRAIGHT BACK TO
YOU'はボーカルがLOU GRAMMと言うことで、まんまForeignerそのものの曲とも言い切っても良いのだろうけど、このアルバムでようやく安心して聞ける曲とも言える。
'IF I WAS'も、化石のようなPETER
FRAMPTONのギターソロなどが意外な程に良く溶け込んでいて良く出来ている。
そして、McDonald & Gilesの復活!!!というのが一応の売りであろう'DEMIMONDE'なんだけど、これも両手を振って喜んでコンビ復活を祝す訳にいかないような出来。
確かにGilesの切れの良いリズムキープが健在なのは良い事なのだけど、ほんとリズムキープに徹していて、Gilesの特徴とも言える軽やかなフィルは殆ど無い。
それに、エレピによるメロディーも何か浮きまくっているし、サックスでのリフもしっくり来ていない。
はっきり言おう。
この曲は、McDonald & Gilesの復活の為のデモテープだ。
さて、ラストに収められたのが、Gilesとともに最初期にIanとコンビを組んでいたPeter
Sinfiledが作詞を行った'LET
THERE BE LIGHT'だが、これはこのアルバムで唯一ストリングスがマッチした、ちょっと劇的なナンバー。
曲の終わり方もなかなか唐突で良く出来ている。
さて、アルバム全体を通じて言えるのは、とにかく録音及びマスタリングが良くないというか、何かどの曲もデモテープをそのままプレスしたようなサウンドに聞こえてしまう。
プロデュース上の問題か、はたまたサウンドトリートメントの問題か、良く判らないがこれが第一の問題点。
そして第二の問題点は、曲のおもしろさに欠けるものが多いというところ。
これは、私見でしかないのだけど、IanもTVやCMの仕事をやりすぎたのが原因じゃーなかろうか??
TVやCM向けの音楽というのは、短い時間でインパクトを与えるメロディーやリフに重点がおかれて曲としての構成は二の次にされるのだけど、何となく今回のIanの曲もそのようなバックグラウンドを持ってしまって曲の展開や構成のおもしろさが欠けていると思うのだ。
だから、逆にボーカルナンバーの場合は何とかなるのだけど、インスト系の曲ではその点が顕著になっているのじゃなかろうーか??
まあ、Ianが、そしてGilesが健在だというのが判るだけでも良しとしたほうが良いのだろうか??
さて今回のセッションが縁となり、もしかするとMcDonald
& Gilesが再結成されるかもしれないそうだ。
まあ、レコード会社が興味を持ってくれるかどうかという問題もあるだろうが。
そんなMcDonald & Gilesが'70年にCrimson脱退後に発表した唯一のアルバムを紹介しておこう。
グループ名と同じタイトルを持ったこのアルバム、正直言ってその発売は当時それなりに話題にはなったようだけど、残念ながらセールス的に思わしくなく、おまけにMcDonald
& Giles自身も殆どプロモーションらしい事もせず、グループも空中分解するという結末も迎えている。
しかし、そんな問題もあるけど、作品の出来としては超一級のものだ。
当時としては16チャンネルのマルチ録音(Crimsonの場合は8チャンネルで、しかもトラック数をかせぐ為にベーシックトラックはメンバー全員での殆ど一発録りに近かった)を行い、それによりIanのマルチプレーヤーぶりがより一層発揮されたのも特徴の一つだろう。
さすがにこの時代のアルバムなので、曲もインスト部分が多い大曲揃い。
ちなみに、Crimsonとの間で曲と歌詞を分け合った'FLIGHT
OF THE IBIS'、つまり'CADENCE & CASCADE'と美しいバラード'IS
SHE WAITING'の二曲は小品ながら、非常に品が良い。
Michael Gilesの'TOMMOROW'S PEOPLE'は、ちょっとアレンジのスタイルが古い(この当時でという意味で)感じもするのだけど、メロディーの良さは十分生きているし、オープニングの'SUITE
IN C'はノイジーなボーカルから不思議なインストパートに入り、ゲストのSteve WinwoodのハモンドとGiles兄弟のリズムセクションの絡みは非常に魅力的。
しかし何と言ってもこのアルバムのすばらしさを決定づけたのは、B面全てを費やしたIanとPete Sinfieldのペンによる'BIRDMAN'だろう。
曲のスケール、アレンジ、構成、どれ一つとってもMcDonald & Gilesの一番良い面が発揮されたと言って良いだろう。
前半のちょっとユーモラスな演奏から、Giles兄弟の軽やかなリズムとともにIanのFlute等のメロディー楽器が絡む。
そして、後半のストリングスを交えた大団円、どこをとっても素晴らしい出来。
このアルバムを聴くと、Crimson脱退直後に'もっと人にやさしい音楽をやる'と発言していたのも頷けるというものだ。
さて、このMcDonald & Gilesのファーストは一応CD化もされてはいるのだけど、旧作のCD化というのはリマスタリングやリミックスを行わずアナログマスターそのままというのが殆どで、このアルバムもその一つだった。
(ここ数年、リマスター盤がブームになっているし、Crimsonのオリジナル作も秋にはリマスター盤が出る予定)
しかし、ATLANTICレコードとの交渉がまとまればIan達の手でリマスタリングが行われた形での再発が行われるそうだ。
これが実現すれば先のMcDonald & Gilesの再活動とセカンドアルバムもあり得ない話ではないだろう。