何故かドイツのゴールキーパのような名前のボトル(98.04.05)

 最近、見かけることが無くなり、筆者が残念でならないボトルがある。
そのボトルに出会ったのは十年程度前のことで、学生時代の痛手から就職してしばらくハードリカーから遠ざかっていたのが、ぼちぼちとハードリカーが飲めるようになり(でもジャパニーズウィスキーは角瓶かブラックニッカしか受け付けなかった....)、バーボンやコーンウィスキー、そして今では自分のレギュラーリカーになっているスコッチに手を出し始めた頃の事であった。
その当時、それまで通っていた渋谷のバー、某S(あれ??そのまんまやないか??)から、今は無き某PS-Clubというバーに初めて足を踏み入れた時、それまで飲んでいたものと違うものが呑みたくなり、現在は六本木で腕を奮う当時のメインバーマン(筆者はバーテンとかバーテンダーというのは嫌いである。彼らはバーマンと呼ばれる事が相応しいと思っている)F氏にそのことを告げると出てきたのが、今回のお話の主役のボトルであった。
 こいつはハードリカーであり、ウィスキーであったのだけど、正直なところこういうボトルにはそれまで出会った事はなかった。
こいつは、米国の'バーボン法'で定めでいえば'ライウィスキー'である。
それまでも、例えば'Beams Rye'や'Turkey Rye'、そして'Old Overholt'、'Winter Rye'らの'ライウイスキー'の存在は知ってはいたのだけど、こんなボトルは知らなかったし飲んだ事も無かった。
'バーボン法'の定めでいけば、米国のハードリカーには大体2種類の分類が存在する。
一つはストレートウィスキーというスタンダードもの、もう一つは'Bottled In Bond'と呼ばれる単一年度の酒で作られたもの(加水調整はされてはいる)の2種類である。
この日、初めて飲んだものはスタンダードのもので、確かアルコール度数でいうところの40度のものであった。
飲んでみて、その非常に軽やか且つ、ちょっと癖のある味に非常に驚いた。
とにかく、呑みごこちが良い。
それに香りもライでありながら、ちょっと華やかな香り(というよりこれがライ麦から作ったウィスキーの香りなのだろう)がある。
当然、バーボンらしさとも違うし、コーンウィスキーとはまったく違うし、スコッチとも違う、非常に楽しげな感じがグラスから伝わってくる。
この日は、レギュラーを飲んで非常に満足して帰った。
 後日、このライウィスキーには'Bottled In Bond'も存在することを同じ店で知り、試してみる事となる。
これが先日のレギュラーと異なり、軽やかさだけではなく度数の関係からか味に腰を感じ、スタンダードでは知る事の出来ないこのボトルの本当の世界を感じる事が出来た。
この瞬間、このボトルは私の大好きなボトルの一つに加わったのである。
 しかし、このボトルの入荷は短命であった。
そのころはまさに日本はバブルの真っ盛り、アルコールの世界もご多忙にもれず色々なボトルが彼の地を踏んだわけであったのだけど、かなりのボトルは今ではお目にかかる事が出来なくなった。
(それでも、最近はボトリング業者や並行輸入業者が又頑張り始めたみたいだけど...)
このボトルも自分で手に入れようと考えた頃には、ほぼ入荷が完了していたようで、有楽町の某酒蔵(これも名前がわかっちゃうなー)に探しに行ったところ、何と既にこのボトルは赤札が張られていたのである。
まあ、買う方にとってはうれしいのだけど...結局何度か通って、3本程を消費したのだろうか??
その時も最後に買った時は、赤札が二重になっていたと思う。
そう、それほど人気は無かったようだ。
しかし、不思議な事に購入したボトルは、友人知人との集まりで皆に紹介し、誰もがその味に感心したのである。(筆者の友人は、アルコールと料理に関しては、お世辞は絶対に言わない連中が殆どである)
 数年の後、そのボトルがまだ存在するらしいとの話を聞いた。
それは、渋谷の某WEと言う筆者が今でも良く行くバーのバーマンが見つけてくれたのだ。
スタンダードとともに筆者の大好きな'Bottled In Bond'もバーマンは揃えてくれた。
ただ残念な事に'Bottled In Bond'は一本しか無かったそうで、その二本を飲み干すと入手可能なものは
スタンダードのみになってしまった。
(そのスタンダードも2本目で打ち止めになった)
その時の空瓶は、今でも自宅にあるのだが、確かに最初に飲んだ時期に日本に入荷したもののようだ。
(ラベルの色の落ち具合からそれが見てとれる。しかし代理店は違った??))
ところが、4年程前に何と横浜の輸入代理店がこのボトルを輸入したようで、何と自宅の近所の酒屋Kにて入手することが出来た。
味は変わっていなかった。
結局、2本を入手した後、やはり輸入のルートは途絶えたようだ。
これを最後にこのボトルとはお目にかかっていない。
今でも友人付き合いをさせて貰っている現在は銀座でマネージャを勤めるバーマンや、横浜の古株のバーマンにも、このボトルを試して貰ったが、皆良い酒であると言ってくれた。
決して味が悪いわけでもないのである。
しかし、やはり日本では定着しなかったボトルなのだ。
もし、このボトルがまだ存在する店やバーがある事をこのページを見られた方で知っている人がいるのなら、是非知らせて欲しい。
このボトルの名前は'RITTENHOUSE RYE'、初めて飲んだ時私の友人が言った言葉が'なんか、ドイツのゴールキーパみたいな名前だな??'
多分、特に意味は無い。

To Eau de Vie