Peter Gabriel再び....(2000.01.15)
今年初の'The Musical Box'、今回は筆者の大好きなボーカリストがまもなくニューアルバムを発売する事もありまして、その大好きなボーカリストのPeter
Gabrielを取り上げませう。
昨年末には出るかと思われていたニューアルバム'UP'もようやく完成したようで、発売に合わせてツアーに出る事でしょう。
(この事とSealとのツアーがFripp翁にTony Levin抜きのCrimsonを決断させた理由の一つのようです)
で、今回はPeterのソロキャリアのスタートとなったファーストアルバムと、その直後のプロモーションツアーのお話を書いていきませう。
では(^^)/。
Peterのファーストアルバムは、'77年初頭に発表されました。
日本でも、差程間が空かずに発売されたと記憶しています。
筆者もGenesisは好きなバンドでしたし、結局Peter在籍時には来日は叶いませんでしたがPeter在籍時のGenesisは実際ステージを見たいバンドの一つでもありました。
(結局今となっては細切れの映像が収められたLDとブートビデオ程度でしか見る事は出来ません〜それでもLDでは動くSlipperManを見る事が出来るのは凄い拾いものですが...)
結局Genesisの初来日公演はSteveもいない三人Genesisでしたが、まあ当時のUSツアーと異なり、レーザも一本だけというショボイものでしたが、それでもサポートメンバーの腕と練習熱心なGenesisのライブと言うことで、十二分に楽しめるものではありました。
さて、Peterのこのファーストアルバム、プロデューサにKissやAlice
Cooperをプロデュースしていた当時としては売れっ子のBob Ezrinを起用しています。
この起用が正解だったかどうかは、後においてもかなり疑問視されていました。
事実、Peterをどうプロデュースしたのかと言う点で見るとアプローチ的には先に挙げたKissやAlice
Cooperと同じように、いかにドラマティックにしたてるか??と言う一点に集中していたようです。
ただ、Peterも実はGenesis以外のメンバーとレコーディングを行うのは初めてでしたし、加えてこのアルバムに参加したFripp翁の言葉で言えば'アイディアは沢山出てくるが、それをどう生かすかを判断する事が苦手'というPeterでしたから、外部プロデューサ、しかもそれなりの大物を起用したと言うことはあながち間違いでは無かったでしょうし、レコード会社側もある程度保証が欲しかったのも良く理解出来る話です。
しかし、PeterはPeterであってAlice Cooperでは勿論ありませんし、当時英国で受けていたグラム以降の流れをPeterに求めるのも実は無理があったようにも思えます。
確かに、Genesis時代のPeterと言えば、そのドラマティックかつファンタスティックなステージングが特徴だった訳ですし、その面を一人で担っていたのはPeter自身でした。
とは言え、Peterはそれが嫌になってGenesisを辞めた訳ですから、そこから考えてもBob
Ezlinの狙いでは、かなり食い違いが生じた事は否めません。
加えて、Boz Ezlinの独裁的なプロデューススタイルはあのFripp翁を激怒させ、一時はレコーディングを拒否したという話もあります。
(レコーディング終了後もFripp翁は自身の名前のクレジットを拒否したとの事です)
ただ、それでもPeterもようやくソロアーティストとして独立したばかりであり、自身のスタイルを改めてシーンに登場するのも正直無理もあったとも思えます。
又、先に述べたようにPeterはGenesisのメンバー以外とプロフェッショナルなスタジオミュージシャンと一枚のアルバムを仕上げるというのは初めての試みだった訳ですから、Boz
Ezlinが居た方が都合も良かったとも思えます。
さて、このレコーディングでは後にPeterとツアーやレコーディングを現在迄付き合っているTony Levinが多分当時様々なレコーディングセッションで組んでいたBarbershop
Quartetを引き連れて参加しています。
有名どころはFripp翁一人だけ、加えてSynergyのLarry Fastもシンセサイザー担当で参加していますが、Larryも五作目のライブアルバム迄、Peterに付き合う事になります。
さて、収録曲を見ていくと、先にも言ったBobの意図とPeterの意図がきっちり合った部分とどうもしっくりこない部分がかなりはっきり判るのもおもしろいところでしょう。
オープニングの'Moribund the Bargermeister'なんかは、Peterが自分に未だ自分のスタイルに自信がないのか、かなりGenesis色の強い曲ですが、多分Boz
Ezlinの狙いとしては'Modern Love'や'Slowburn'、'Down
the Dolce Vita'、そして'Here comes the Flood'のようなドライブ感、そしてドラマティックな演出が狙いだったことが良く判ります。
後に、Fripp翁のソロアルバムではその反発から静かに歌い上げるバージョンの'Here comes the
Flood'が収められたり、ソロツアーでもピアノの弾き語りで演奏したことからPeterの意図にそぐわないアレンジだったのでしょう。
しかし、これらの曲は良くも悪くもPeterの新しいダイナミックな歌が楽しめ、それなりに仕上がっているのがおもしろいところと言えましょう。
しかし残念ながら'Down the Dolce Vita'のロンドンフィルの導入は失敗だったようです。
アレンジ的には悪く無いのですけど、残念ながらミックス的にはオーケストラの音とバンドサウンドが完全に遊離していて非常に不自然なのです。
多分、Peterとしては'Excuse Me'や'Waiting for the Big
One'のような曲のほうにプロデューサの意図に反して注力したのでは??という雰囲気も伺えます。
まあ、'Excuse Me'でTonyにチューバを吹かせ、Fripp翁にバンジョーを弾かせた、ジャグバンドスタイルはやりすぎとも言えなくもありませんが....
特に'Waiting for the Big One'のような曲は、後の名作'So'でのソウル、R&Bのスタイルに繋がる曲だと言えます。
そんなBoz EzlinとPeterの意図が唯一ぴったりはまったのは、多分'Humdrun'では無いでしょうか??
個人的にもこの曲の静かな盛り上がりや中盤の地中海、もしくは中東的なフレージング、そしてラストと文句の付けようのない仕上がりです。
歌詞自体もかなり意味深なラブソングですが、筆者には自分を消し去ろうとする、まるで自殺の歌のように思えてしまいます。
確かに、初のソロヒットとなった'Solsbury Hill'(最高位13位〜英国)はライブでやらざる負えない曲と言うこともありますが、あの'So'以前のツアー迄'Humdrun'は初期の重要なライブナンバーでした。
このファーストソロは、それなりの成功を収めたのですが、Peterにとっては望むべき成功を掴んだとは言い難かったようです。
事実、このアルバムの製作やプロモーションツアー等を行う資金は、相変わらずGenesis時代の印税だったそうですから。
Peterはアルバム発表後、'77年3月にプロモーションのためにUSツアーに出ました。
バッキングはファーストソロのメンバーがほぼそのまま参加しています。
演奏したのはファーストソロの全曲がメインでしたが、残念ながら1ステージ行うには曲が足りない事もあり、R&Bのスタンダード'ALL
DAY AND ALL NIGHT'、Genesis時代の'BACK IN N.Y.C'(ファンサービスも兼ねて、Raelの衣装とメイク付き)、そして'ON
THE AIR'、'INDIGO'(この頃は歌詞も別物でタイトルも'A SONG WITHOUT
WORDS'となっています。ちなみにアレンジ的には弾き語りスタイルなのですけど、何とノーマルなボーカルと共にシンセサイザーのフィルタを同時に通すというかなり過激なアレンジでした)のようなセカンド用の曲が演奏されました。
ちなみに、後にライブの定番となる'ON THE AIR'は未だリズムアレンジがあのドライブ感のあるアレンジでは無く、正直こねくりまわしすぎたブレイクが多用されたりしています。
一応、ツアー自体はそれなりの反響はあったようですが、残念ながら米国でのアルバムセールスは芳しく無かったようです。
ちなみに、Fripp翁も友人の頼みと言うことでこのツアーに参加していますが、あのBob Ezlinとの確執と自分のスタイルで演奏が出来なかった事に余程怒っていたようで、ツアーではアンプの影やステージ隅で隠れて演奏しており、加えて演奏中のメンバー紹介でも一切自分の名前はコールさせず、何と'Dusty
Load'と言う仮名を使用する始末。
まあ、自分の名前で商売されるのが嫌だったらしいのですけど、ちょっとやりすぎとも思えます。
ちなみに、このCDでも収録されているようにライブの最初に'Here
comes the Flood'を'Exposure'スタイルで演奏して憂さ晴らしをしています。
(ただ、この曲はこのようなピアノでの弾き語りのほうが、圧倒的に存在感があります)
さて、このCDですが、ちょっと変だと思った方は、それは正解。
Peterの正規のライブアルバムは五作目の'Plays Live'そして'US'発表後の'SECRET
WORLD LIVE'、他にはビデオ作品が幾つかといったところですが、このファーストソロのプロモーションツアーのライブは本来発売されていない事になっています。
だけど、このCD、一応正規発売のライブアルバムなのです。
からくりを明かせば、'80年代後半というと未だCDに関する著作権がはっきりしていない時期だったのです。
加えて、このCDはイタリアで作成されたものですが、イタリアというのは同時に著作権関連の法律がかなり問題があった国なのです。
例えば、録音後20年か25年だか過ぎた音源は制作者及び演奏者の著作権が消滅するとかで、その関係で'60年代後半から'70年代初頭のライブ音源が大量に市場に正規盤として出回った事もあります。
(あの有名なBlack Pantherレーベルなんてのは、Pink Floydのパイレーツ音源を堂々と発売、何と日本にも正規に輸入された事もあります)
このGREAT DANE RECORDSもそんなレーベルの一つで知る人ぞ知るレーベルでして、なんとご丁寧にCDの表面にはイタリアの著作権管理団体'SIAE'の名前さえ印刷されています。
当然、パイレーツ盤にありがちな'Promotional Only'なんてのも印刷されていません。
ただ、演奏も音質も正規盤一歩手前くらいの出来なのが、嬉しいところでしょう。
さて、まもなくニューアルバム'UP'でシーンに戻ってくるPeter Gabrielの20年以上前のアルバムのお話、いかがでしたでしょう??
しばらく続けようかな??って気もしてますので、次回をお楽しみに??と言ったところで、今日はここまで。