偉大なる可能性〜'あんぜんバンド'(99.08.21)

 まだまだ残暑が続く今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか??
さて、9月23日日比谷屋音にて開催されるチャリティーコンサートに久々に四人囃子佐久間坂下森園岡井佐藤、各氏でのメンバー構成で出演します。
このライブには、四人囃子の他にも'60年代から'70年代の日本のロックを彩ったJOHNY吉長やジョー山中等々、多数のミュージシャンが出演しますが、そのなかで筆者が四人囃子以外に注目しているミュージシャンが二人います。
一人は、先日高橋ゲタオさんのライブで強烈なパーカッションを披露した大儀見元氏(でも彼は'90年代のミュージシャンだし、ロックっつーよりもラテン系なんすけどね)、そしてもう一人はあの'あんぜんバンド'ホーンスペクトラムで活躍した中村哲氏であります。
彼は、このサイトでも紹介したように'
ゴールデンピクニックス'期の四人囃子でもゲストとして参加、特に'泳ぐなネッシー'でのソプラノサックスソロは名演の一つと言えましょう。
(9月の屋音、中村哲氏のサックス付きで’泳ぐなネッシー’、やってくんないかな......筆者の願望)
そんな中村哲氏がメジャーシーンに登場したのは、今回紹介する'あんぜんバンド'への参加がきっかけでした。
後に'助教授’とも呼ばれるようになる中村哲氏が参加していた'あんぜんバンド'とはいかようなバンドだったのか??、今回はその辺を紹介していきませう。
では。


ALBUM A'あんぜんバンド'は、’71年頃に当時東洋大の学生だったギターの相沢民夫を中心にベースの長沢博行(後の長沢ヒロ)、ドラムスの伊藤純一郎の3人で結成されました。
後にセッションメンバーとして相沢友邦がギターとして参加し、ツインギター編成でアメリカンロック系の音を出していました。
この当時から、コンサート企画集団'浦和ロックンロール・センター(URC)'のバックアップを受けており、各地の学園祭で活躍していたそうです。
(残念ながら、この当時のライブは筆者未聴なのです)
特に’70年代初頭という事でいわゆる学園紛争の残り火が未だ残っていた時期と言うことや、'あんぜんバンド'自体、どちらかと言えば当時はラジカルなバンドだったそうで、一時期は安全BUNDとか名乗っていた事もあったそうです。
(ちなみに、''あんぜんバンド'’という名前の表記も’安全バンド'であったり'安全BAND'であったり色々で、それはデビュー後も色々でありましたが....)
そんな'あんぜんバンド'も、サックスとキーボードを演奏するマルチプレイヤーの中村哲氏がゲストとして参加し、次第に音の方も固まり、’75年に当時上田正樹とサウス・トゥ・サウスウェストロード・ブルース・バンド、そしてを擁して日本のロック系のレーベルでは評価の高かったBOURBONレーベルから'
ALBUM A'を発表、メジャーシーンに浮上してきたのでした。
日本のロックもかなりの数がCDで復刻されたのですが、何故かこのアルバムは未だCD化が実現していません。
実は筆者もこのアルバムを数年前にようやくある中古盤屋で入手する事が出来たのです。
とにかく、オープニングの'けだるい’がどうしても聞きたかったんですよね、これ(^^)。
さて、収録曲と音のほうですが、音としては未だ過渡期にあったようです。
それは、やはり相沢友邦中村哲がゲスト扱いに近く、基本的にはギタートリオもしくはツインギター編成としてのレコーディングだった事が各曲の演奏ラインアップの表記で判ります。
又、'あんぜんバンド'はどちらかと言えばドゥービー・ブラザーズグレイテフル・デッドの影響の強いアメリカンロック系のバンドであったようで、このアルバムではその影響がそこかしこに伺え、正直完全な'あんぜんバンド'としてのオリジナリティー確立のホント一歩手前の状態だった事が良く判ります。
ただアレンジメント的にはそうであっても、収録曲は一曲を除いて長沢博行氏の作品で、曲自体は非常にオリジナリティーの高いものだったのも事実で、名曲の誉れ高き’けだるい'や'13階の女'、そしてラストの'月まで飛んで'等、楽曲の質は非常に優れた作品が収録されています。
(でも、未発表に終わった'殺してやる'とか、'あんたが気にいらない'みたいな過激な曲も聞きたかったねー!!)
まあ、'けだるい'のシンセサイザーの使い方はもろにデッドだし、'めかくしランナー'のイントロは殆どドゥービーの某名曲のパクリ臭いですし、エレピにしろオルガン(多分ハモンドでしょう)の音もアメリカンロックや、当時出始めとも言えたいわゆるクロスオーバー的な響きを持っていて、この辺は当時の状況が良く伺えますし、やはりこの当時メンバーへの海外のバンドからの影響が並大抵のものではなかった事も良く判ります。
この当時、そんなアメリカンロックの影響をもろに受けていたのは他にもセンチメンタル・シティー・ロマンスめんたんぴん等、かなりの数のバンドが挙げられます。
(まあ、アメリカンロックと一言で言っても、ウェストコースト、イーストコースト、シカゴサウンド等々、当時も色々あって一緒くたにすんのはいけないんだろーけどね)
ただ、一つだけ'あんぜんバンド'がそれらと違ったパーソナリティを作り出せたのはやはり長沢博行氏の書いた詩の世界でしょう。
さほど難しい言葉を使わず、それでいて内省的な世界はまさに'あんぜんバンド'のパーソナリティそのものだったのではないでしょうか??
また、簡単な言葉ながら暴力的かつ残酷な色合いも特徴でしょう。
そしてもう一つ挙げるならば、'あんぜんバンド'の個性を形づけようとしていたのは、中村哲氏のサックスだったんじゃーないでしょうか??
この当時、ホーンセクションとしてでなくリード楽器としてサックスを導入していたのは、非常に珍しい事でした。
そして、そのサックスによって彩られたサウンドは、次作で大きく開花するのであります。
さて、'あんぜんバンド'はこのアルバムにゲスト扱いで参加していた相沢友邦氏と中村哲氏が正式メンバー扱いとなり、ワールドロックフェスティバル等の他、精力的にライブを行いました。
その後、相沢民夫氏が脱退、ラストアルバムとなったセカンドアルバムのレコーディングに入ったのでした。


あんぜんバンドのふしぎなたび+1'あんぜんバンド'は、’76年春に結局ラストアルバムとなってしまったセカンドアルバム''あんぜんバンド'のふしぎなたび'のレコーディングに入ります。
筆者は残念ながらアナログ盤ではなく、'89年に発売された再発CDしか所有していません。
まあ、購入した当時はそれでもボーナストラックとしてシングルバージョンの'13階の女'が入っていると言うことで、喜んでいたのですけど後で書きますが正直、このシングルバージョンは'ちょっと待て!!!!'というような出来なのですけど....
さて、このアルバム、やはり'あんぜんバンド'がアメリカンロックの影響を受けていた事は十分に匂わせているのだけど、それに加えてブリティッシュロック的な陰影が見え隠れするような、そんなサウンドに長沢ヒロ(長沢博行より改名??)の詩の世界が加わり、まさに'あんぜんバンド'の個性が完全に確立されたといえる、そんなすばらしい出来のアルバムとなりました。
収録曲はインストの'果てしなき旅'でスタートし、ラストの名曲'偉大なる可能性'までバラエティーに富んだアレンジで一気に聞かせてくれます。
2曲目の'時間の渦'や4曲目の'闇の淵'の陰鬱さ、アメリカンロックのようでありながら中間部のコーラスメロトロンとソリーナが美しい'夕陽の中へ'、ポップなくせに凝った作りの'おはよう'、中村哲氏のペンによる軽妙なインストナンバー'ANOTHER TIME'(何とこの曲、前半は完全なクロスオーバーなのにリリカルなピアノソロ以降は一気にカンタベリーサウンドになるんです!!)、相沢氏のマウスワウを使用した名曲''、ファンクに琴をフューチャー、その上伊藤純一郎秋田弁が軽妙な'お祭り最高'と各曲文句なしの出来です。
そして、ラストの'偉大なる可能性'、路線としては前作の'月まで飛んで'系と見て良いのでしょうけど、とにかく中村哲氏の(多分テナーだろうけど)サックスがソロにオブリに大活躍します。
すてきなメロトロンとソリーナ、アコースティックピアノが色を添えます。
ちなみに、このアルバム発表後に何度かテレビにも出演(といってもコンサートライブのダイジェストなんかが多かったと思うのですが)しており、特に何とあのTBS銀座NOWでは'偉大なる可能性'をフルコーラス演奏して、そのときは筆者、ホントにたまげました。
ちなみに、当時の銀座NOWの司会者(誰か覚えてませんが...)が、一言'
KING CRIMSONみたいなバンドですね'と言うようなニュアンスの発言をしたのを良く覚えております。
まあ、確かに編成的には似てはおりますが.....
さて、CDではボーナストラックとして納められたシングルバージョンの'13階の女'、これは正直困りました。
もう、甘ったるいストリングスを配して完全なポップナンバーにしようとしたレコード会社側の意図が見え見えなのです。
ファーストアルバムのバンドアレンジのほうが、どれだけ良い事か.....
無理矢理ビートルズみたいなストリングアレンジを入れられた'たま'の'さよなら人類'のやはりシングルバージョンと同じようなわけです。
さて、そんな'あんぜんバンド'も、結局このアルバムリリース後、しばらくして解散してしまいます。
長沢ヒロ氏はその後、ヒーローを結成、日本青年館で大々的にデビューしましたが後が続きませんでした。
(ちなみに、四人囃子佐藤満ヒーローにもゲストでライブに参加しておりました)
中村哲氏はホーンスペクトラムで、そしてアレンジャーとして現在も活躍している筈です。
でも、もう一度、'あんぜんバンド'の曲をライブで聴いてみたいものです。
これだけ素晴らしい曲達が埋もれていくのは悲しい事じゃーありませんか....
まさに'偉大なる可能性'を持った曲の数々だったのです。

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