ようやく工事中を脱した、'The Musical
Box'。
第一回は、このWEBページのタイトルの基にもなった英国Canterbury Musicが生んだ、筆者の大好きなバンド'Hatfield and the North'について色々と記して行きたい。
この'HatField and the North'は、1973年にアルバム'Hatfield and the North'でVirginレーベルからデビュー。
メンバーは、Richard Sinclair(Base,Vocal),Phil Miller(Guiters)、Pip
Pyle(Drums)、Dave Stewart(Organ,Pianos,Tone Generator)の4人。
元々は、Dave加入前には元'Caravan'のDave Sinclair,Philの兄弟のSteve
Millerが参加していたが脱退、Pipの電話で'EGG'を解散、浪人状態のDave
Stewartの参加が決まり、ロンドンのサウス・モダン・カレッジ(麻酔医学学校だったそうな)でライブデビュー。
(この辺の話は、'Hatfield and the North SHORT BIOGRAPHY'を見ると良く判る)
その後、当時の新興レーベルVirginと契約、ファーストアルバム'HatField
and the North'を発表する運びとなるのでした。
このアルバム,このアルバム以降、殆どレギュラー扱いとなる女性コーラス'THE NORTHETTES'や、当時事故で脊髄を痛め、ドラマーとしては引退を余儀なくされながら、後に素晴らしいボーカリストとして復帰する元'Soft
Machine'のRobert Wyattがボーカルで参加している。
音、演奏はというと、一言で言えば以前某雑誌でも書かれていたように、まさに'金字塔'その1というしかない。
Jazzのようなスタイルを包括した良質なポップなメロディー、そして良く聞くと解る複雑怪奇なリズム。
ユニゾンやカウンターメロディーが縦横無尽に使われ、非常にユニークなサウンドが、ここに誕生したわけである。
こう書くと、何か聞きづらいようにも聞こえるが、全然そんな事はない。
とにかく、スリリングかつ非常に気持ちの良い演奏が展開され、時には曲間に必死に走ってドアを開けて演奏を探すコラージュ等、楽しい仕掛けも用意されている。
こんなコラージュも'Pink Floyd'や'Faust'あたりがやると、何か神妙な仕掛けになるのだけど、'Hatfield
and the North'がやると、何せジョークの帝王Pipがいるのだから、クスクス笑うのが逆にマナーというものだろう。
(実際、ライブでも色んな、でも単純な仕掛けを使って、非常に楽しいステージを繰り広げていたそうな....)
ちなみにDaveはE.Pianoの演奏を始めたのは'Hatfield and the North'からで、このアルバムでは、やはりOrgan(当然HAMMOND、多分L型の筈)のほうがこなれた演奏をしているようだ。
バンドは、フランス等の大陸側ではライブの入りも良く、人気も高かったのだけど、何故か本国の英国では、ライブの本数もレコードの売り上げも今一つだったそうである。
(個人的には、Virginのプロモーション能力にも問題があったと思うのだけど....)
やはり、経済的な問題は頭をもたげて来たのである。
しかも、先のファーストアルバムの著作権印税はVirginに握られ、レコードが売れても収入が入らないのに、英国本土でのライブの本数が少なかったのは致命的だった筈である。
(著作権収入を取り替えす努力も、結局Virginからの短期間の週給しか確保出来なかったそうな...)
実際1970年代初頭のバンドの経済状況の一般的な支えは、コンサート収入でバンドを維持し、レコード収入で収益を上げるのが一般的であったから、'Hatfield
and the North'の経済状況は押して知るところである。
そんなさなか、1975年にリリースされたのがセカンドアルバムの'The Rotters'Club'であった。
このアルバムも'金字塔'その2であった。
より達者になった演奏とアレンジ、素晴らしい完成度をもったアルバムなのである。
特に'SIDE TWO'の'Underdub'、そして'Mumps'は最高の出来で、'Mumps'のテーマ部分'Your
Majesty Is Like A Cream Donut'は、メロディー、アレンジ、演奏とも完璧で、筆者のフェイバリットナンバーのひとつだ。
あの、頭のユニゾン部分は何度聞いてもスリリングである。
前作よりもアレンジが多彩かつ効果的になったホーンセクションや'THE NORTHETTES'のコーラスも、このアルバムを'金字塔'にした重要な要素である。
PhilのGuiterも前作よりオリジナリティー溢れる演奏だし、Daveも前作から弾きはじめたE.Pianoを完全に自分のものにしている。
しかし悲しいかな、このアルバムも売れなかった。
時代も良くなかった。
この1975年と言えばパンクブームの真っ盛りで、演奏で売るバンドにはあまりにも状況が悪かった。
せっかく前作ではVirginに握られていた著作権を取り替えすも、経済的な助けにならなかったと言う。
実際、その当時既に家族を抱えていたRichard Sinclairなどは、アパートを追い出され空き家に暮らしていたという。
このような状態では、バンドは続く筈もなく、音楽的な対立も表面化し結局Daveが脱退を表明、しかしバンドはアメリカでアルバムが売れはじめた事もありVirgin側が続ける事を提案したが各メンバーもその気はなく、あえなく2枚のオリジナルアルバムを残して解散してしまったのであった。
ベスト盤の'Afters'が1980年に発表されたが、このアルバムにはあまり意義を感じる事は出来ない。
確かに、アルバム未収録のシングルやレインボーコンサートのライブ等も聞ける事は聞けるのだけど。
結局、1975年の時点でバンドは解散したわけだが、1990年の過去のバンドの際結成ブームは、何と'Hatfield and The North'にまで及んだ。
驚いた事に、英国のTVで再結成ライブを行ったのである。
ただ、この再結成ライブにはDave Stewartは参加しておらず、KeyBoardは代わりにPipの彼女でもあるSophia
Domancichが務めた。
一応、Jazzフィールドで活躍しているらしく、無難にDaveの代役を果たしている。
この当時、Dave自身は'Stewart & Gaskin'として活躍していた事もあったのだろうが。
しかしこの再結成、結局これ一回きりで終わっている。
(同じように再結成されたCaravanは、この後レギュラーバンドとして活動を続けており、現在でも本業の合間をぬって、ライブやレコーディングを行っている〜ついでに日本に来ないかな....週末バンドじゃ無理か??)
又、このライブでも曲の何曲かは、その当時ソロアルバムを発表したRicahrdの曲が収録されていることもあって、厳密'Hatfield and The North'の復活ライブとは言い難い部分もある。
このTV放送は、何と日本でもWOWWOWで放映されたらしいし、演奏は'LIVE 1990'としてCDが発売された。
それでも、正規のフル・レングス・ライブを発表していない'Hatfield
and The North'の唯一の正規ライブ盤という事で、良しとしようか。
でも、BBCあたりにスタジオライブが残っている筈だから、それを正規発売してくれるともっとありがたいのだけど....(パイレーツ盤は持ってるけどね....)
とにかく、わずか2枚のアルバムで解散してしまったのだけど、その質の高さはそこらのビッグネームと同格以上のアルバムだった事は、現在も多くのファンが本国英国以外にもいる事が証明しているのではないかな???
(筆者も勿論、その一人である)