いやー、ここんとこ面白いというか何というか'60〜'80年代のいわゆる貴重なアルバムがどんどん再発されています。
ご存じのように、なかには当時のLPの特殊ジャケットを再現したもの、リマスタリングやリミックスを施されたものから、そこまではやらないまでも、かなりの低価格での再発等、ファンとしては嬉しい限りですけど、サイフの方はどんどん軽くなっていきます。
そんなさなか、筆者が大好きだった'70年代のフェイクバンド/SAILORの、それも本国英国でさえ発売されなかったアルバムが日本で再発されたのです。
今回は、そんなある種の幻のアルバムと、3月には再発される傑作といわれたセカンドアルバムを中心に紹介しようと思います。
では(^^)/。
SAILORは、'74年にデビューしていますが、その時所謂バンドの成り立ちにちょっとしたお話を盛り込む事により、ある種のフェイクバンドとしてデビューしました。
これが有名な'船乗りを意味するフランス/パリのカフェLa Matelot最後の水夫上がりハウスバンド'というくだりな訳です。
これは、レコード会社のプレスリリースにも書かれたプロフィールであり、バンドのメンバーもそれらしい衣装やインタビューの受け答えさえ、そのプロフィールに沿っていたのです。
ちなみに、今回のタイトル'だけど僕らはしがない船乗り'のくだりも、当時のMusic Lifeに掲載された(出元は、英国の音楽誌でしょう)インタビュー記事のジャックで、実際インタビューの締めを飾ったセリフでありました。
しかし、SAILORも三作目あたりまでは、そのフェイクのコンセプトに基づいた曲と歌詞を使っていましたが、さすがにそれをいつまでも使い続けられるネタでも無かったのでしょう、四作目そして今回紹介する所謂第一期SAILORのある意味不運なアルバム'HIDEAWAY'では、自分達のルーツミュージックとSAILORのオリジナリティ、そして当時の音楽シーンを取り入れた作品に仕上げています。
先にも書いたように、このアルバムは何故か本国である英国では発売されず、オランダ等の欧州市場の一部でのみ発売されました。
何故こうなったかはアルバムのライナーノーツにも書かれていますが、どうも先行発売したシングルが英国で不評の為、国内発売が見送られたというのが真相のようです。
ちなみにシングルとして発売されたのは、このアルバムのトップナンバーでもある'GIVE ME SHAKESPEARE'なのですけど、この曲は従来のSAILORのサウンドスタイルを取っています。
正直に言えば、英国では新味が見られないと取られたのかも知れませんが、アルバムの流れから言えば、トップナンバーとして、悪い出来ではありません。
実際アルバムのトップから三曲目までは、これまでのSAILOR独特のスタイルとも言えるフロアタムとバスドラムを中心としたリズム構成にピアノとアコースティックギターを中心に据え、シンセベースでチューバのような音で曲の土台を造ったスタイルで、これはSAILORデビュー当時からの特徴の一つでもあります。
ちなみにSAILORはメンバー全員がボーカルを取れますんで、コーラスワークも素晴らしいんですね。
このアルバムではGrant以外の三人が、曲ごとでリードを取っています。
しかし、このアルバムでは四曲目当たりから段々、これまでのSAILORのスタイルから逆にバンドのルーツの一つでもあるBeach
Boysのボーカルスタイルが披露され始めます。
特に、そんなスタイルの変化の宣言と言う訳では無いのでしょうが、アカペラスタイルのコーラスなんか、まさにBeach Boysのスタイルまんま(殆ど、あの名曲のパクリ???)だったりして....
それと、このアルバムではそれまで使われなかった、エレクトリックギターも効果的に使用されています。
ベースもシンセベースよりもリズミカルな雰囲気を出す為でしょう、エレクトリックベースの使用が随所に聞こえます。
ちなみに元々バスドラとフロアタムを使用した所謂ハンマービート的なリズムもSAILORの特徴なのですけど、それが例えばアルバムのラストナンバー'MACHINES'では、逆にニューウェーブ的な色合いを濃くさせたりもしているのもご愛敬。
SAILORは残念ながら、このアルバムを最後に一度解散してしまいます。
後年、再結成されますが、そんなことも考えますと英国で発売出来なかった為に長らく評価されなかった、このアルバム、ようやく陽の目を見たのは、ある種の幸運なのかも知れません。
ライナーにも書かれていますが、笑い話として現在のSAILORのメンバーから、是非CDを送って欲しいという連絡がレコード会社にあったそうです。
理由は'このアルバムの曲をライブでやりたいけど、忘れている曲もあるから'だそうで....
さてさて、そんなSAILORの'HIDEAWAY'を紹介した訳ですが、何と2001年3月にはそんなSAILORの大傑作でもあり、セールス的にもっとも成功したセカンドアルバム'Trouble'も日本で再発されます。
今回、予告編ってわけではありませんけど、紹介しておきましょう。
筆者が保有するのは残念ながらオリジナルLPではなく、後のレコード会社のCDカタログを増やす為に行われたCD乱発期に発売されたCDです。
ちなみに、日本盤は出なかった筈でして、ここで紹介するのは米国盤です。
このアルバムには、英国チャート一位にもなった'Glass Of Champagne'(邦題は'二人のシャンパングラス〜何故か当初は'シャンパン一杯!!'という邦題の予定もあったようです)、そして同七位に入るヒットを記録した'Girls,
Girls, Girls'も収録されています。
アルバムそのものも、セールス的にもかなりの成功を収めたようです。
曲は本当に捨て曲無しの素晴らしい出来です。
このアルバムでは先にも書いたSAILORの'水夫上がりのハウスバンド'というフェイクコンセプトが十分に生かされ、ロックというよりも非常に良質なポップミュージックでありながら、GuitarronやCharangoといった複弦の民族楽器を使用するなどの南米系のフレーバ、そしてリズム隊はフロアタムとバスドラを生かしたハンマービートなんだけど、何故かマーチみたいに聞こえたり(ところどころで聴かれるティンパレスも効果的、パーカッションもね)、ベースはシンセベースでまるでチューバのような音で色を添えています。
HenryのAccordionやMarimbasも非常に効果的で、しかも切なくも素敵な音色を聴かせてくれます。
元々当時のロックミュージックの中心であるエレクトリックギターを使わず、やはり複弦の12弦ギターがバッキングの中心、素晴らしいコーラスワーク、そしてそんなSAILORのサウンドスタイルを決定付けたのが、あの有名な巨大楽器Nickelodeonでしょう。
この'Trouble'の使用楽器のクレジットにもNickelodeonは記載されていますが、実際にはスタジオでは使われていないでしょう。
何せ、Nickelodeonという楽器も、やはりSAILORのフェイクスタイルを強調するライブ向けの楽器で、そこから出る音は、スタジオでの作業で十分同じ音を創れたでしょうから。
(ただ、このアルバムのラストナンバー'The Old Nickelodeon Sound'では使われたかもしれません)
しかし、このNickelodeonのサウンド(スタジオでシュミレートされたものでしょうが)、非常にユニークなものです。
何といっても、アップライトピアノ二台を背中合わせで接合し、ピアノのキーアクションにメカ的な連動でARPのシンセサイザーやオルガン系の楽器をユニゾンで演奏可能にするという、しかもこれがメンバーによる日曜大工作品と来ましたから驚きです。
(昔、報道で二台のピアノのキーアクションも連動していたというのがありましたけど、それはさすがにそこまでしていなかった模様〜ライブではPhilとHenryが二人がかりでオペレーションしていたそうですから)
ただ、今月号のStrange daysに掲載されたPhilのインタビューによると、この楽器、ローディにはかなり不評(そりゃアップライトピアノ二台を常に運ばなきゃなんないんですからね...)だったそうです。
さて、収録曲のほうですが、先に書いたようにチャートインしたヒット曲だけでなく、ホントどの曲も捨て曲無しでして、作曲を一手に行ったGeorg
Kajanusの才能は見事なものですし、聴いていて、ホントに楽しい楽曲ばかりなんですね、これ。
今度、日本盤が再発されたら、ホントにみんなに是非聴いてもらいたい、そんな名作なのです。
このアルバムの後、'HIDEAWAY'までの間に二枚のアルバムを発表しますが、残念ながらセールス的にはこの'Trouble'以降、SAILORは失速します。
サードアルバムの'The Third Step'はなかなかの好作品なんですけど...残念ながらその後の'Checkpoint'はちょっと試行錯誤が激しすぎたんかなーって感じでして、そこから考えるとセールス的にメドが付きにくかった'HIDEAWAY'があんな風に扱われたのも、レコード会社側の都合から見ればあながち判らない話ではないかも...
さて、今回はSAILORの再発アルバムを紹介しました。
SAILORは既にオリジナルメンバーは二人になりましたけど、今でもアルバムをコンスタントに(といっても、ドイツのマイナーレーベルなんで、日本での入手はちと難しそうですけど...)発表していますし、ライブも欧州では好評だそうです。
今回のEpic Recordsの洋楽秘宝館シリーズ、なかなか質の良い作品が出てきていて、今後も楽しみです。
でもね、SAILORに関してはホントは一番出して欲しいものは別にあるんですよね、実は。
それは何かと言いますと、実は筆者の手元にもあるんですけど、つまりBBCの放送音源、ライブなんです。
特に'75年の'Trouble'発表当時のライブは、もう最高の演奏とボーカル、そしてコーラスを聴くことが出来るんですよ。
当然、Nickelodeonの音も入っているんですね、これ。
'OK Standing, The Heavy Folk!!'のコールでスタートする'Glass Of
Champagne'、コミカルなMCの前節の'Panama'、うーん是非パッケージメディアで、しかもフルレングスライブで聴きたいもんですよ。
でも、Epicじゃ無理かな???こうゆうのはMSI当たりのお仕事かもね....