The Room Of Pirate

THE ROAD TO UTOPIA〜UTOPIA(99.02.09)

ここのところ、様々なバンドの音源発掘が続いているのは、みなさんご存じの事かと思います。
特にBBC関連の'60年後期〜80年代、ボックスセットへの未発表音源の収録等々、最近は日本のバンドでもその傾向は強くなってますね??(我らが四人囃子もその一つ??)
これは、やはり'60年後期〜80年代のファン達がレコード会社や広告代理店、音楽事務所や企画会社で働き、それなりの要職に付いて来た事も一因とも思えます。
(数年前、ゴールデンタイム向けのCMでKing Crimsonの初期の曲が使われて、びっくりした事もありましたな....)
で、ここに来て、出てもおかしくはなかった音源なのだけど、まさか出るとは思わなかった音源が、しかも当事者の手でオフィシャルブートレグとして発売されました。
そう、日本でもファンの多いTodd Rundgrenが率いたUTOPIA'79年の日本公演の音源なのです。


UTOPIA LIVE in TOKYO '79 これがそのオフィシャルブートレグ、'UTOPIA LIVE in JAPAN '79'だ。
この音源は、元々来日公演後のFM東京の放送用音源として録音されたもので、筆者もエアチェックテープを保有している。
又、数年前には、多分エアチェックテープを元にした(私んじゃーないよ^^)と思われるパイレーツ盤が発売されてもいる。
(ちなみにそのパイレーツ盤、売り文句はサウンドボード音源だったけど、どう聞いてもエアチェック音源にしか聞こえない.....)
ただ、先のFM東京の放送もパイレーツ盤もフルレングスの収録ではなかった。
ところが、今回のこのオフィシャルブートレグときたら完全なフルレングス収録で、放送時よりも当然音質は格段に向上している。
一応、Todd自身が保有する音源だと言うことだけど、放送とは別にマルチトラック(ではなくて、PA卓落としMIX音源の2トラックの可能性もある)を回していたとも思えないので、著作権の関係でToddの手元に放送音源のマスターがあるのではとも推測出来る。
さて、演奏内容はと言えば、はっきり言って完璧である。
演奏、ボーカル、コーラスともに非の打ち所が無い。
特に、この編成のUTOPIAは、僅か四人編成であるにも関わらず、素晴らしいコーラスを聴かせてくれるのである。


ANOTHER LIVE 結成当時のUTOPIAは、ライブにおいてToddを含む6人編成に女性コーラスを加えた、かなり大掛かりな編成で、ライブアルバムも'ANOTHER LIVE'という作品を残している。
このアルバムの中には、後々ライブでも最後で演奏される'Just One Victory'も収録されている。
この6人編成は、ある意味妥協の産物だったようだ。
というのは、基本は4人編成と思われ、当時のエレクトリック及びエレクトロニクスキーボードやシンセサイザーの能力が足りない事もあり、基本の4人にキーボードプレイヤーを2名加えた編成なのだから。
また、エレクトリックな(プログレッシブな)演奏にブルーアイドソウル的な要素を付け加える為に女性コーラスを使っていたのだろう。
しかし、この6人編成は差程長くは続かず、ToddはシンセサイザープレイヤーのRoger PowellとドラムスのWillie Wilcoxを残して、後のメンバーを解雇した。
そして、有名な留守番電話オーディションの結果、ベースのKasim Sultonが参加、この後メンバーチェンジなど起こらない、まさにゴールデンラインナップのUTOPIAが誕生したのである。
この編成になって何が変わったかと言えば、やはりメンバー全員がボーカルが取れる事で、4人編成で素晴らしいコーラスワークが出来るようになった点だろう。
この当時、Toddの頭の中には、QUEENのコンセプトがあったんじゃーないかと思う。
QUEENと言えば、スタジオ盤で聴かせた素晴らしいコーラスワークも魅力の一つに挙げられるのだけど、残念ながらライブではそうは行かなかった。
QUEENも4人編成なのだけど、実際ボーカルが取れるのは3名のみ、つまり三声コーラスである。
これは、QUEENデビュー当時にYESに似ていると言われた一つの要因でもあった(YESのコーラスも三声が基本)。
ただQUEENの場合はハーモナイザーをいち早く取り入れていたから、リード+四声(二声のダブル)や六声(三声のダブル)が、一応ライブでも可能であった。
ところが、UTOPIAの場合、全員がリードを取れるしハーモナイザーも使用すればリード+六声(三声のダブル)や八声(四声のダブル)も可能となり、とにかく分厚いコーラスがライブでも可能になったのである。
正直、ライブに於けるコーラス能力はQUEENも敵わない、それぐらいボーカル面が充実したのである。
加えて、元々シンセサイザーのエンジニアでもあるRoger Powellが、RMIエレクトロニックキーボード(電子オルガンに近いが、どちらかと言えばポリフォニックキーボード)やオーバーハイムのモジュールシンセサイザーをポリフォニックで鳴らせるPowell Rocket(プローブとも呼ばれた)というショルダー・シンセサイザーを使用し始め、6人編成時のキーボード及びシンセサイザー三人分の音を一人で担当出来るようになった点も見逃せない。
とにかく、4人全てが唄えて、演奏能力も高いという理想的なバンドとなったのである。


Japan Tour Pamphlet さてそんなUTOPIAは、今回紹介するオフィシャルブートレグの音源となった'79年の日本公演以前にも一度来日しているが、演奏内容を考えると'79年のライブはまさに完成されたものである。
とにかく、オープニングの'Trapped'から完璧な演奏とコーラスを披露した。
筆者は、今回のオフィシャルブートレグ収録日の前日のライブをこの目で見、この耳で聞いたのだけど、正直4人編成で演奏からコーラスまでをメンバーのみで完璧にこなすバンドなぞ、聴いた事はなかった。
演奏だけならともかく、コーラスワークがあまりにも素晴らしかったのだ。
ちなみに、筆者の記憶では、筆者が見た日もPAブース脇にオープンリールのレコーダが置いてあったので、多分レコーディングも行われた筈である。
しかし、実際には最初に書いたように放送され、今回オフィシャルブートレグとして発表されたのは、'79年4月9日、つまり筆者の見た翌日であった。
これは、実はある事件が原因していると思われる。
筆者が見た公演でコンサートが始まって数曲を演奏したところ、思わぬアクシデントがあったのだ。
なんと、ステージを駆け回っていたToddがフロアモニターの配線と思うのだけど、それにつまずいてステージから転落したのである。
怒ったToddは、ステージの縁に張り付けてあったモニターケーブルを全て破がして(観客の大拍手に送られ)ステージに戻ったのである。
多分、このトラブルでこの日の収録はお蔵入りもしくは、消去されたのだと思う。
しかし、実際にはこの日の演奏は、収録された翌日に決して負けない内容だった。
特にバラードの'The Dream Goes On Forever'からの後半、特に'Eastern Intrigue〜Initiation'のメドレーはその圧倒的なスピード感とともに素晴らしいコーラスを聴かせてくれた。
そしてこの日のライブで一番気に入ったのがラストの'Couldn't I Just Tell You'。
茶目っ気たっぷりの演奏は、まさに余裕という他は無い。
そして常にラストもしくはアンコールで演奏された'Just One Victory'は、先の'ANOTHER LIVE'で6人編成+女性コーラスでの演奏を、たった四人で圧倒的な演奏とコーラスで繰り広げてくれたのである。
筆者も、それまでUTOPIAは勿論、Todd Randgrenの存在は気になってはいたのだけど、この日で完全にファンになった。
だけど、一つ普通のファンと違うのはToddのファンなのでは無く、UTOPIAのファンになった事だろう。


ONE WORLD この当時のUTOPIA、それはリーダのTodd自身の考えもあったのだろうが、意外にライブ映像も残っている。
この'ONE WORLD'は、'83年のRoyal Oak Theaterでのライブである。
若干音質は落ちる(マスターの問題らしい)し、画質も放送用のものにしてはザラツキがあるが、それでも十分に余裕たっぷりの演奏を見る事が出来る。
Rogerはキーボードに'Powell Rocket'を使用せず'Prophet 5'に変わっているのでステージでの動きは少ない。
ちなみにやはりメインにしているのはRMIエレクトロニックキーボードのようだ。
ただ、WILEEのボーカルマイクのセット位置は、正直演奏しずらそうだ。
そういえば、このライブでTodd使用しているGuitarは、サイケデリック塗装のGibson SG(レスポール)モデルだが、ネックをリファインしているところを見ると、これがあの有名なCream時代にEric Claptonが使用していたというGuitarだろう。
ちなみに、この頃のライブは、他にTV放送された'Live At Agora(??)'がある筈だ。
筆者もTV放送された際に、このライブも見た記憶があるし、ブートのVTRも出回っている筈だ。


REDUX '92 LIVE IN JAPAN UTOPIA
 多分'80年代中頃だろう、ToddUTOPIAの活動を一時中断しソロ活動に専念する事になる。
これにより、他のメンバーもスタジオワーク等に入っていった。
Rogerの場合、元々シンセサイザーメーカのARPのエンジニアでもあったから、再度その関係の仕事に就きながら、時折Toddのライブを助けている。
実際、Toddがソロライブで来日した際も、Rogerは一緒に来日している。
しかし、筆者個人の意見でしかないが、UTOPIAでは無くToddのソロと言う形のライブは、あまり好みのものでは無かったし、正直物足りなかった。
そんな時、何と'92年にUTOPIAとして来日する、しかもあの4人のメンバーで来日するという話が日本に舞い込んだ。
それも日本だけの再結成だ。
(実際には日本公演前にウォーミングアップを兼ねて、米国でクラブサーキットツアーを行っている)
当然、筆者も駆けつけた
しかし、Toddの人気(実際、一般のファンよりも業界関係者のファンが多い〜トリビュート盤も日本で出ているし...)でもあるだろうが、何かそれまでのソロツアーとは違った雰囲気の観客が続々と集まり、やっぱりUTOPIAは別物なのだという空気を感じて、筆者もうれしかった。
まあ、正直メンバーも歳を取り、コーラスのキーも下がっていた。
演奏も、久しぶりに集まった事もあってミスも見られた(後日、LDCDで判った)。
が、そんな事も忘れさせてくれるように、四人編成とは相も変わらず思えない演奏とコーラスを聴かせてくれた。
ちなみに、Kasim SultonのBassが、'79年のライブと同様にコーラスかフランジャーを掛けっぱなしだったのも昔どおり。
このツアーのうち5月10日のライブがライブCDLD及びVIDEOとして発売されている。
映像のほうは、WOWWOWで放送もされた筈だ。
筆者もその日、その場所にいたのだ。
多分、沢山の歓声の一つは、筆者の声という事になるし、ちなみに、LD及びVIDEOのほうには、筆者も一瞬写っていた(^^)。
まあ、このライブは'80年代後半から'90年代中盤にかけての再結成ブームの一つであったのだろう。
しかし、再結成ライブを行う幾つかのバンドの日本公演を見たのだけど、これだけ昔と同じ演奏を聴かせてくれたバンドはなかった。
UTOPIAは、まさにライブにて理想の演奏を聴かせてくれる数少ないバンドなのだ。

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