16.2ウェイへの誘い

 ちなみに「誘い」は「いざない」と読みます。それはともかく、作ることにした。バスレフ・2ウェイのやつを。いきなり何故か。決して現在の「D-105」に不満があるわけではない。エージングによってどんどん良くなってくるので楽しみなくらいだ。

 実は以前、「ハイファイ堂」でフォステクスのウーファー「FW168」の中古が半額で売られており、しかも状態がかなり良く、いや新品同様なものだったので買ってしまったのだ。「FE208S」も売っていたのだが、何を作っても大型になってしまう、と思って心魅かれるものはあったがウーファーにしたわけである。

 とは言え、何を作るのか。連休中に作ろうと最初から思っていたので時間はあった。いっそ、設計でも…という囁きもあった。バスレフの計算はいくら超文系の私でもある程度は理解できた。よし、これなら…しかし、あっという間に4月も下旬となっていた。「時間はある」と思っていると時間はなくなる、まあ世の中の常識である。

 結局、「これをベースに設計を…」と目論んでいた「BS-168」にした。これは長岡鉄男先生の「世界でただ一つ…」に掲載されている。低めのトールボーイで、ウーファーはスルー(コイルなどのネットワークを入れない)で使うため、上を向けて取り付ける、という言わば力技的なもので、いかにも長岡先生らしいものだ。「Stereo」誌でも「トップベース」という、同じ方式のブックシェルフが掲載されているが、これだとスタンドが必要になるので止めにした。スタンドまで作る余力はおそらくあるまい。

 いくらウーファーを買ったからとは言え、作るからにはテーマが無ければならない。今回は「ロックを躍動的に聴かせるスピーカー」を作る、ということにしたい。「D-105」は表現力豊かな、結構万能タイプとは思うが、ロックの叩き付けるような迫力、といった要素は若干弱い気がするのだ。しかし、2ウェイでウーファーをドカドカ鳴らせば結構イケるのではなかろうか。

 当然不安もある。このスピーカーは試聴記が載っていないこと。あの本に出ているものは全てそうである。また、ブックシェルフにした方がカチッとした、ロックに向く低音が出るのではないか、ということ。箱をあまりデカくすると雄大な低音になりがちだ。それではテーマから外れる。

 その不安が、設計を「ほんの少し」変えさせた。すなわち、箱の高さを3cm縮めたのである。「それだけかい!」とは言わないで欲しい。設計通りだと板取りがギリギリ過ぎる、という理由もあったが、少し容積を少なくしたかったのだ。低くなった分は足を付けることで賄うことにすればよい。ダクトの長さを変えようか…とも考えたが、結局それはオリジナルのままとした。もう時間がないのだ。時間がなければ夏にでもすればいいじゃないか、という説もあるのだが、もうあの暑い夏の作業は御免なのである。

 連休ギリギリ前に全ての材料(板、トゥイーター、アッテネーター、コンデンサー)を揃え、いよいよ5月3日、組み立ては始まった。

 バックロードと違い、板取りは結構少なくて済む。一枚で2本できるので経済的ではあるのだ。今回も釘は使わず、接着剤だけで組んでいく。とは言え、端金だのクランプといったものは持っていないので鉛インゴットと部屋に豊富にある雑誌の山だけが頼りだ。順番通りだと、随分不安定な組み方もある。果たして真っすぐになるんだろうか?などと。案の定、筒にしていく時点でずれが生じた。まあ、この程度なら大丈夫だろう。足の方にガタが少なくなるように合わせた。

 最初のつまずきはターミナルであった。今回は貧乏性と「そこにあった」という理由で「P24B」を使った。いつもの「T150」と、メッキの違いくらいでそれほど違いはないのだが、ネジが突き出ており、これが邪魔をして、いつもの穴では入らなかったのだ。そんなに太いキリもなかったので、ザクザクと削って無理やり入れ、あとは強引にねじ込もうと目論んだのだが、端子板がたわんでしまって、また外してやり直し。ネジに直接つけようともしたがネジ部にはハンダが何故か着かず、結局ラジオペンチなどを駆使して穴に入れるようにした。まさかこの程度のことでハンダ付けを何度もやり直すことになろうとは。侮れじ、ターミナル。(って、おれだけ?)

 吸音材はグラスウールを少しだけにして、主に薄手のフェルト「書道の下敷き」を使った。多量に使ってつまらない音になっても…という理由からだ。おそらくこれだと「無いよりマシ」程度なんだろうなあ。105でうまくいっているから出来るのだが。

 さて、次の難関は初挑戦のアッテネーター&コンデンサー。何せ配線図を見ても「????」。いかん。さすが超文系。何とか理解したつもりだったが実際にやろうとしてやはり「????」。いかーん。無駄な時間を1時間くらい過ごしながらようやく理解できてからは作業は早かったが、ハンダ付けが多く、面倒だ。5月とはいえ暑くなってきたし。汗が大量に流れる。これでコイルまで入っていたらもっと面倒だったのか。マルチウェイの人は気が長いな。今までフルレンジしか作らなかったから知らなかった。やはりフルレンジは自作の王道なのかもしれない。ちなみに内部配線は接点が多くなるからちょっと良いものを…と思ってモンスターケーブルの一番細いやつにしたが、モンスターのは細いやつでも得意の「真ん中にビニール線」が入っていた。これはハンダ付けを多用する内部配線には絶対向かない。いちいち端末処理の時は切っていたが、余計時間を食ってしまった。

 とりあえず箱が完成。外に出て箱にペーパーをかける。D-105の時はかけなかったため(夏で暑かったんだから)、仕上げが汚くなってしまったのだ。今回はいくら不器用・無造作流」を自認する私とは言え、もう少しきれいに塗装したい。今回選んだ色はまたしても半透明の「アイビーグリーン」。前回のオレンジといい、何故木目を出すならオーソドックスな茶系にしないのか。だって、それじゃただの家具みたいだし。今回は二度塗もする。そうしたらほんのりと光沢が出ていい感じ。そう、普通の水性ペンキだとギラギラの光沢か、つや消ししか無かったのである。この「ほんのり」が欲しかったのだ。やはりペーパーをかけてよかった。…って、普通はかけるものだって。

 一晩開けて翌朝からいよいよユニットだ。もう少しだ…と思ったのが甘かった。自作史上最大の危機が!…ってのはテレビ並に大げさだが、あらかじめトゥイーターをよく見ておくべきだった。「FT-48D」を今回使ったのだが、これはマグネットの左右真横、言ってみれば耳の位置にターミナルがついており、設計図通りの穴のままではマグネットギリギリなのである!思わず天を仰いだがすぐに復活。横に穴を開ければいいだけの話である。やれやれ、どこまで世話を焼かせれば済むのか。

 +と−を反対に付けてやり直したり、と自爆もしつつ(まあ、逆相で繋いでいるからまた正相に戻るだけか、違うかな)、そのどさくさにハンダごてで火傷したりと、一人で大汗をかきながらトゥイーターが終わった。そしてウーファー。接続して、重いユニットをドスンと載せてネジを回すのだが、さすが大きい(今までのユニットに比べて、だが)ため、ネジも太く、ちょっと穴を開けただけでは木ネジが入っていかない。しかも8本とネジの数も多いため、疲れる。瀧のような汗を流しながらネジを回していたが、結局外して穴を深く大きめに開けることにした。結果は、最初からそうすればよかった、というものである。

 そう言えば、今回のシナ合板、中のラワン材が妙に硬かった。途中でキリやドリル(ハンドドリル)が引っ掛かるのだ。まあ、中にはこういうものもあるかな。この板がクレーマーに当たらなくて東急ハンズにとっては良かったことだ。

 ウーファーは2本合わせて16本のネジを締めたわけで、F-168「完成!」した頃はちょっとヘトヘトだった。おそるべし、2ウェイ。

 さてドキドキの試聴だ。最初のテーマは「ロック云々」だったが、とりあえずいつもテストに使うローリン・ヒル、UA、綾戸智絵などを聴く。

 うーむ、意外と素直というか、普通の音だ。この異様なルックスの割には。もっと癖のある音が出てくるような気がしたのだが。105に切り替えてみる。…すべての面で105の方が上回っている、と言わざるを得ない。うーむ。まあ、気に入っている105に勝つとは言わないまでも、どこか突出している部分があってもいいのでは…と思ったが、考えてみると一般的にはバックロードの105が癖のあるスピーカーということになるのだろう。とにかく普通に良い音が出る、そんな感じである。

 ロックの出番だ。ツェッペリンの最近でたベストから「Communication Breakdown」。リマスターされているので音質も良い。しかし、結果は105の勝ち。決して悪い音ではないのだが…次にそれ程録音の良くないニルヴァーナの「Nevermind」。有名な一曲目を聴く。…これは良い勝負。良い録音は一層良い音に、そうでないものは超それなりに、というバックロードの特徴が出たのか。F-168はなかなかいい感じに鳴らした。

 しばらく鳴らしていると、エージングも多少されてきたのか、ウーファーの特徴である重い低音が出てきた。そしてトゥイーターもアッテネーターの調整で切れの良いよく伸びた高音を再生する。やはり立ち上がって聴くと、ウーファーの高音も聞こえるのでかなり違う音になる。これは面白い点である。

 しかし、このままでは105に勝てる部分もなく、終わってしまいそうだ。とにかく今はエージングだろう。本当の勝負はここからである