BS-89T 完成


 前にも書いたが、パソコンデスクにもスピーカーを置き、セレクターで切り替えながら机でも音楽を聴けるようにしている。セレクターによる音質の劣化を犠牲にしても、デスクトップで音楽を聴くということは意外と気持ちが良いものだ。普段聴くときよりもしっかりと二等辺三角形が形作られるため、逆に「これこそが真の音楽の聴き方」とまで思うくらい音の定位感が良好なのだ。


 しかし、デスクトップ用として使っていたタンノイの「CPA-5」はどうも好みに合わない。まずは何と言っても低音不足だ。と言うか低音感が無い。それだけならいいが、中高音の透明感が少ない。どちらかだけならばまだ我慢できたが、やはり両方ではつらい。特にD-105の透明感溢れる音を聞いてしまったことで、アラが一層際立って感じるようになってしまったのだ。


 そこで自作の虫が騒ぎだす。「作れ!」と。


 長岡先生は「ミニスピーカーは市販品に勝てない」とおっしゃっているがそれは本当だろうか。作ってみなければ分からない。さて何を作るか。コラムでも書いたが、BS-89という、前面開口型バスレフを作ることにした。本にはもう一つ上面開口型もあったが、奥行きがありすぎてこちらにしたのだ。


 しかしそれでもまだこの机には大きすぎる。そこで奥行き・幅を2cm縮小し、そのかわり高さを3cm高くすることにしたのだ。という訳で「BS-89T」(←トールボーイの「」)と名付ける。


 板は東急ハンズですぐ手に入れたのだが、ユニットが問題となった。ディスプレイがあるのでFE107の他に選択肢はないのだが、注文後3週間してもまだ入荷していなかったのだ。どうやらフォステクスに在庫がないのだろう。ここで一旦あきらめるか、他のユニットで何とかシールドしたりして対策をするか…と迷っていたところ、出張先の金沢で107を見つけてしまったのだ。荷物が重くなってしまうのも構わずそれを買ったのは当然のことだ。


 そして制作に取り掛かる。


 今回も釘は使わない。全て接着剤のみで作る。本当は端金とか使うといいのだろうが、重しを載せるだけ。気が短いので面倒臭そうなことはしないのである。それと当然コストの問題もある。もっと大きいもの、手の込んだものを作るときは逆に必要になってくるだろうが…


 吸音材にはグラスウールを使う。105を完成させてから手に入ってしまったやつである。今回は設計図にある通り割りとふんだんに使う。使わないと派手な音になってしまいそうだからだ。夜に使うことが多いので、メインよりは大人しいほうがよい。


 こうしたミニの場合、ケーブルは直出しが良い、ということを言われるが、狭い机で使うには余りに不便だ。ケーブルを着けたまま動かすと大変なことになりそうなのでターミナルを付ける。こういったスピーカーには少々勿体無いが、定番のフォステクス「T150」を使う…というよりこれしかなかったんだけど。ちょっと贅沢な気分。


 接着剤の乾燥ということもあって翌朝。ユニットを付けるときは前もそうだが、「さあ、これで完成だ」という感動の前哨戦、の様な気持ちになる。それにしても今回の板はMDFを使ったのだが、これって結局「もの凄く丈夫な紙」なのだ、ということが分かった。穴を開けたりしているうちに気づく、カスが木というより紙だ。なるほどねえ。


 さあ、製作時間約3〜4時間。1999年12月31日午前9時20分ここに完成


 まずは出来上がりの試聴。エージングが当然必要なので最初の音はそれ程期待はしないが、105の上に載せて鳴らしてみる。CDはボニーピンクのベスト。さて…


 おお、意外と良く鳴るじゃないか。まだかなり硬い音だが鳴りっぷりは良い。低音もバスレフポートからしっかり出ているのが分かる。設計を少し変えたので不安があったが、これなら大丈夫。CDを替えて今度は村治佳織のギターだ。うん、105には叶わないものの、きれいに出ている。

 前からタンノイにも使っていた足、山本音響のウッドブロックを三点支持にしてブチルゴムテープで貼り付ける。音にも良いし、背がさらに高くなり、耳の高さに近くなる。

せ、狭すぎる…

 これはデスク用なので設置場所に置いて鳴らさないと意味がない。狭いところに手を伸ばして…ううん、つらい。手を両方伸ばすのが困難な場所なのだ。…きつい。やはりもっと寸法を縮めるべきだった。何とか押し込めるが、もっと整理しないといけない。デスクに所狭しと置かれた数々のモノ。SCSIケーブルとかでもうぎゅうぎゅう。せめて幅と奥行きをあと1cm少なくすれば楽だったに違いない。まあ、置けたから良しとしよう。そして鳴らしてみる。…あれ、高音が少し汚いな。ケーブルのせいだろうか。さっきは空いていたモンスターケーブルを繋いでいたのだが机までは届かず、デスク用には前からデスク用に使っていた、テクニカの300円/mのやつを使ったのだ。試しにケーブルの端末に例の液体「setten No.1」を塗って再び繋いでみる。


 …すると、どうだろう。高音の濁りは見事消えてしまった。前に「余り変わらないな」と思ったこの液体だが、悪い部分は確実に直してくれるようだ。驚いた。評価を改めたい。


 しばらくこれで聴きながらパソコンに向っているのだが、快適だ。まさに「ニア・フィールド・リスニング」で、定位感はバッチリ。しかもまっすぐ前を向いてもスピーカーが見えないのだ。これは偶然だがかなり楽なものである。スピーカーは見えずとも音は出る…これも快適の要因。それにしてもこんなにゴチャゴチャして真ん中にはディスプレイが「ドシン」と鎮座している状態でよくこんなに良い感じで鳴るものだ。無ければもっと定位感が上がるのだろう。 

ほーら、前からみると…


 これで夜のリスニングも快適さが上がることは間違いない。エージングが進めばもっと聴きやすい音になることは間違いない。どんどん鳴らし込んで行こうと思う。99.12.31