乱れ撃ちディスクレヴュー
2001年


 MUSIC OF THE MILLENIUM
 てっきり東芝系の日本独自企画かと思ったら、輸入盤を見つけた。国内盤に比べてもの凄くお買い得だったので早速ゲット。国内盤しかなかったら買っていなかったかも。でも、例えその曲が入ったアルバムを持っていてもたまーにこういったオムニバス物を聴いてみたくなるときがあるのだ。
 内容はタイトル通り、ビーチボーイズ、ザ・フーから、オアシスまで満遍なく網羅されたもので、曲順もバラバラ。それがかえって潔い。超名曲「レイラ」の後がボン・ジョビだよ?オアシスの次にデヴィッド・ボウイ「レッツ・ダンス」だよ?こういう脈絡の無さは大歓迎だ。とにかくクイーンからアバまで39曲、一気に楽しめます。個人的にはダイアー・ストレイツ「Money For Nothing」を久しぶりに聴けてよかったなあ。今聴くとかなりチープな感じが逆に◎。こんなに80年代している曲だったとは。逆にビーチ・ボーイズ「Good Vibrations」の新しさ!…などと、楽しみ方は人それぞれ。
 もう一つひそかに楽しみにしていたのが音質。何らかのリマスタリングが施してあるかな…と思いつつ聴いたのだが、全体的にドンシャリ気味のラジカセ向け。良く言えば迫力が出ております。ボンジョビ辺りにはバッチリはまるけれども…まあ、とにかくオリジナルとは少し違うようだ。(01.1.1)
 
 スーパーバタードック Fankasy
 以前シングルで「コミュニケーション・ブレイクダンス」を聴いてハマって以来、アルバムを待ちわびていたけれどもようやく出ました。本当に待ってたよ、これ。
 前述したシングルを先頭に持ってきたこのアルバム、いや素晴らしい。このバンド名やタイトルから、コミックバンドっぽいイメージを持たれるかもしれない。実際、歌詞もユニークだ。しかしこの人達、実は上手いのだ、何気に実力派なのだ。意外にキャリアもある。そしてポップだ。基本的にはタイトルからもわかるようにファンクの色が濃い。そうした基本がしっかりしているからふざけたことを歌っていても芯が一本通っているのだ。こりゃライヴは凄いに違いない。
 聴いているとどうしようもないダメダメ感が歌詞から漂ってくる。情けない男が主人公、といった感じだが、本当に「情けなさ」をよく知っている、と感心させられる。それをユニークに笑い飛ばしながらも、「人間ってこんなもんだよな」という冷徹な目も感じ取ることが出来る。決して「情けない男の応援歌」などではない、人生の一コマ。(01.1.4)
 
 サニーデイ・サービス Future Kiss
 彼らも解散を表明した。まあこのバンドの場合はいつかこうなるだろうと思ってはいたが。あれほどクオリティの高いアルバムを立て続けにリリースしたのだから、更なるステップに行くには解散しかないのだろう、と思ったりもする。
 さてラストアルバムとなってしまったこのミニアルバムは、ある幼稚園で行われたライヴである。そう、「幼稚園」なのだ。ジャケット裏にはそのカットが写っているが、講堂などではなく、表でかなり適当なムードで演奏していることが伺われる。園児達も騒ぎながらも楽しんでいたようで、落ち着きの無かった自分の幼稚園時代をうっすらと思い出した。自分の幼稚園には仮面ライダーV3が来たっけ…などと。それにしても、なかなかうらやましい幼稚園だ、サニーデイが来るとは。先生の趣味だったのだろうか。
 「スローライダー」や「NOW」といった名曲が園児達の声に混じって漂う空間。一体どんなだったのだろう。自分が園児だったら、果たして楽しんでいたろうか。それとも抜け出して一人でジャングルジムにでも乗っていた(そんなガキでした)のだろうか。そして大きくなって「ええ!あのサニーデイが来ていたのに、おれってば、聴いてなかったのかあ!」なんて悔しがっていたかも。まあ、それはともかく、こういう企画は他にもどんどんやってもいいね。音楽って素晴らしいんだけど、どうしても小さいうちは「勉強」の範疇で括られてしまうから。(01.1.8)
 
 LOVE PSYCHEDELICO The Greatest Hits
 ここ最近シングルを出すたびに「あ、アレ良いよね」と人気が高まっていたラヴ・サイケデリコ。私自身も大変気になっていて、アルバムまで随分気を持たせてくれたけれども、ようやく登場だ。
 それにしても初っぱなからシングル3曲がリリース順に並ぶ構成。「先行逃げ切りか?」と思わせるが何の何の、その後も決して飽きさせない良い曲が続くのだ。さすが「グレイテスト・ヒッツ」というタイトルを付けるだけのことはある。
 このユニットの魅力は色々あるが、まずはやはりポップだということだろう。「Last Smile」は遂にオリコンチャート20位以内にランクされたがそれも当然のような、「歌謡曲」としても(どうもJポップとか言う恥ずかしい呼び方は苦手で)高性能であることは間違いない。そして、洋楽ファンの心を鷲掴みにする曲の展開。ネオアコの要素や60〜70年代ロックへの憧憬、それを打ち込みで表現するといった、かなり高度な技を駆使しており、それが趣味的なものとならずに売れ線音楽として機能するところが彼らが只者でない証である。そして歌詞。と言うより言葉の乗せ方だろう。ボーッと聴いていると全部英語に聞こえるが実際は巧みに混ぜている。一頃の歌詞における英単語の氾濫で「日本語を大切にしよう」という動きが見られる(浜崎あゆみなどは歌詞にカタカナ語を殆ど使っていない)昨今、敢えて意味不明と言ってもいい英語と日本語の共存をごく自然に行っている彼ら。サザン以来かもしれない。ただアルバムには英語のみの曲もあるが。
 しかし、このタイトルはよくつけたもので、この次はあるのか?という気がしないでもない。それ程完成されてしまっているのだ。でもまあ、そんなことはどうでも良かろう。とにかくこのサウンドに今はただただ酔うのみ。(01.1.15)
 
 奥田民生 Car Songs of the Years
 ミュージシャン世の中数あれど、この奥田民生ほど「うらやましい」存在はないだろう。この殺伐とした日本で、彼は飄々と生きている。「別におれはおれで生きていくもんね」と言わんばかりに。何てうらやましい。そして恨まれることもない。まあ、今風に「リスペクト」されているかどうかは分からないが…しかし、多くの羨望のまなざしを浴びていることは確かだ。つくづく、「希有」の存在だ、ということを思い知らされる。
 そんな彼の新作は、「車に関する曲を集めたもの」だ。はあ。車スか。民生のすることなので驚きはしないが、…車スか。まあいいや。理由を考えても仕方がない。インタビューを読むと、「そろそろベストを…なんて言われて」と語っている。それで車か。良いのか、それで。良いのだろう。
 とにかく、結果的でも何でも、実に彼らしい一本筋の通ったアルバムが完成した。どの車もぴかぴかの新車は存在を許されず、「愛すべきポンコツ」といった感じで、もう奥田民生ワールド一直線。個人的に良かったのはパフィーに提供した「サーキットの娘」のセルフカバー。民夫版を聴いてみたかったのでこれは素直にうれしい。あと前作アルバムに収録されなかった「月を超えろ」が入ったのはこれまた、うれしい。
 このまま、だらだらとしたゆるいペースを貫いて行って欲しいと切に願う。もう、追随してくるもののない世界なのだから。いやしかし、「うらやましい」なあ。(01.1.22)
 
 AJICO 美しいこと(シングル)
 うわあ、これは早くも2001年ナンバーワンの曲候補。アルバムまで待とうかとも思ったのだが、ラジオから流れてくる美しいこの曲があまりにも気になり、我慢できずこのシングルを手にしたのであった。
 タイトル曲「美しいこと」は、ベンジー作曲・作詞でUAは一歩引いた形でベンジーのヴォーカルと絡むという図式になっている。このハモってはいないハーモニーが、ぐいぐい独自の世界に引き込んでくれる。この2人のコラボレートが最良の形で表現されたわけで、あらためて感心せざるを得ない。
 ベンジーの書く歌詞なので、当然「例の」世界である。ここにUAが加わることで、その世界観は一層の説得力を増した。あまりにも特徴的な、存在感の濃い2人のヴォーカルが絡み合うことで、荒涼とした儚いあの「世界」は、その「儚さ」を保ったまま、より強固になったのである。何か無理やり文章にしているようだが、この感動を伝える術を自分がまだ身に付けていないだけのことだ。
 カップリングの2曲はいずれも曲はベンジー、詞はUAと前作同様のタイプだが、ベンジーの弾くギターとUAの声というシンプルな構成で、これまた素晴らしい。一体どうなっているのだ、とまで思わせるクオリティ。こりゃアルバムはどんなもの凄いものになるやら。楽しみ楽しみ。(01.1.28)
 
  THE YELLOW MONKEY プライマル。(シングル)
 御存知の通り、これで活動停止である。一体彼らの空白を誰が埋めてくれるのやら。
 「解散」というわけではないのだが、では「いつ」復活するのかということは分からない。まあ、それにしても何という「軽い」曲を持ってきたことか。前作「ブリリアント・ワールド」の方が最後(ではないか)にふさわしい様な気にさせられる。しかし、この方が明らかに良い。この「軽さ」が「活動停止」の「重み」を和らげてくれると思うのだ。
 プロデュースはトニー・ヴィスコンティ。TレックスやD・ボウイなどで有名な、つまりはグラム・ロック好きなイエモンらしいと言えばらしいのだが、「今、なぜ?」という疑問はある。しかし、あくまで吉井にしては「軽く」歌いきったこの曲、「暑苦しく」なりがちなイエモンとしては原点回帰と言おうか、復活に向けた幸先の良い終わり方(?)となったのではないか。しばらく新曲はないわけだが、とにかく個人的にはこの曲は大好きで、買ってからヘッドフォンで5回聴いてしまった。ヘッドフォン嫌いとしては珍しいことである。
 付録として、簡単なディスコグラフィも付いている。ああ、取りあえず最後なのだなあ、とちょっぴり寂しい気分にさせてくれる。(01.2.1)
 
 山崎まさよし One Knight Stands
 9月のリリースだったので間が空いてしまったが、ようやく手に入れたライヴ盤。同時期にブランキーのライヴが出てそちらを買っていたので、ちょっと懐具合が淋しかったのだ。
 いや、後回しにして大変申し訳なかった、山崎さん。これは本当に良いアルバムだ。入手したのは限定版の4枚組で、代表曲がめじろ押し。弾き語りの形式をとっているので全てシンプル。しかし、力強いギターとハーモニカ、そしてあの分厚い歌声、で音数の少なさを感じさせないもの凄い迫力なのだ。これを聴いてしまうと通常のアルバムが物足りなく思えてしまうほど。音数はスタジオアルバムの方が多いのに、だ。
 会場でのお客さんとのコミュニケーションも実に山崎まさよしのキャラクターらしいもので、高感度はぐぐっとアップする。そして良い曲。「その場にいるような気分にさせられるが、一層その場に本当にいたい気分にもさせられた」という表現がピッタリ来るものだ。
 これまで山崎まさよしのCDは真空管アンプと相性が悪かった。録音がそれ程悪いとは思えないのだが、あの彼の独特の声の帯域が、真空管アンプの特長でもある「ある帯域のピーク」とぶつかっていたのだろうか。声が歪んでしまっていたのである。しかし、このCDは「HDCD」仕様となっている。これに対応したプレーヤーならば一層高音質で楽しむことが出来、出来なくても「良い音質のCD」を普通のプレーヤーで楽しむことが出来るので「ちょっと」人気なのだ。さすがにそのためもあるのだろうか、真空管でも声が歪むことが無く、大変美しい音調である。ちなみに私のプレーヤーはHDCDに対応していないが、もし付いていたらどうなんだろう?という気にさせてくれるソフトである。(01.2.6)
 
 AJICO 深緑
 初回ジャケットは深緑色の布地。この質感は非常にナイス。
 「波動」「美しいこと」とシングルを出してきて、早くもアルバムの登場ということで、最近の浅井健一がいかに「やりたいことをたくさん抱えていた」かが伺い知れる。と、共にいかにシャーベッツやこのAJICOでの活動に自分自身が活性化されているかも想像できるのだ。もちろんブランキーの活動に飽きていた、と言うつもりは毛頭ないが、やはり自由になるとこれだけ色々なことをやりたくなるし、やればやった以上の成果が現れてくるのも当然かもしれない。
 一言で言えば「不良になりたい大人のロック」だろうか。UAのヴォーカルは相変わらず唯一無二のもので、聴きようによっては「癒し系」っぽいゆったりとしたリズムが持ち味だが、何か聴いていると「えぐり出される」感覚に襲われさせてくれて、それが刺激的で良いのだ。そして何と言ってもベンジーのギター。これが不良だ、やはり。時折現れる彼らしいフレーズには思わず「クーッ」と唸ってしまう。「グレッチ(ベンジーのギター)欲しい〜」とさえ思わされてしまうのだ。まあ手に入れたからと言ってベンジーみたいになれるわけは当然無いが。
 とにかくこの2人が共演しているというだけで傑作なのだが、内容も超傑作と言っていい。このクオリティの高さ、短期間でこれほど4人の結束を高めたとは…信じられない出来だ。脇を固めるドラムはUAと共演歴が長いし、ベースのTOKIEは今人気急上昇「RIZE」のベーシストだ。このウッドベースも操る剛腕姐ちゃんのサポートで、バンドの屋台骨は完璧である。
 欲を言えば、「美しいこと」のように、ヴォーカルの掛け合いももっと聴きたかった。あんな全くハモっていないのに説得力を持つ2人なんて、滅多にあるもんじゃあない。
 それと音質。これまでUAの作品は音質のクオリティも素晴らしかったが、AJICOはUA単独の作品に比べて今一つだ。やはりプロデューサーの違いがあるから仕方がないか。まあ、ここはベンジーの不良ギターに免じて不問にしましょう。(01.2.13)
 
 THE LA'S The La's
 もう10年以上経ってしまったのだ、この名盤がリリースされてから。
 「再評価」と言うセリフが馬鹿馬鹿しくなる位、きっとたまにふっと聴いてみたくなったことのある人は何人もいるはず、このラーズのデビューアルバムを。そしてひそかに、セカンドアルバムを期待してしまうのだ。「きっとそれは無理だろう」と思いながら。
 リーダーのリー・メイヴァースは、未だ復活の兆しを見せていない。神経症という噂もあった。ギターのジョン・パワーはCASTを結成して一時期ヒットも飛ばしたが、結局鳴りを潜めてしまっている。もうこのまま終わってしまうのか?
 今回デジタル・リマスターで再発され、ボーナストラックも収録されて甦ったこの作品、やはりいい。同時期に脚光を浴びまくっていたストーン・ローゼスやハッピー・マンデイズ。しかし、この2バンドを日本で聴いていたのは「相当の」は付かないまでもロック通だろう。そしてラーズと言えば、さらに聴いていた人間は少ないに違いない。ところが彼らが最もエヴァーグリーンな音を鳴らしていた。どんな時代にも古びない、しかし今同じものを鳴らすことはおそらく出来ないだろう、そんな80年代末から90年代初頭の音。是非、ロック通でも音楽通でもない方にも聴いて欲しい。切にそう思う。やはり「ゼア・シー・ゴーズ」は超名曲だから。(01.2.19)
 
 GEORGE HARRISON All Things Must Pass
 「リマスター」物が連続したが、こちらは超メジャー盤、言わずと知れたビートルズのジョージ・ハリソンだ。最近はケガを負わされたり、といった話題しかなく、一時のジェフ・リンと組んで色々やっていたころに比べると活動が大人しくなってしまったジョージさん。この天下の名盤を聴いて復活を待つとしよう。
 残念ながら今回はいわゆる「通常盤」を持っていなかったので、音を比較することは出来なかったのだが、確かにリマスターの効果はあるようで、軽くドンシャリ気味なのが気にはなるが、確かに30年以上前の演奏とは思えないものにはなっている。特に新録ボーナストラック「マイ・スウィートロード2000」が違和感なく入っていることを考えると優秀なリマスターと言えるのではないか。ただ、「2000」ヴァージョンでのジョージの声。少々弱っている感じだったのが気になるところ。歳なのかなあ、とは思いたくないものだ。
 よく言われることが「ビートルズメンバーのソロではジョージが最もビートルズらしい」ということだ。確かにそうかもしれない。ジョンは過激すぎ、かと言ってポールは甘すぎる。ちょうどバランスの良いのがジョージ、というわけだ。リンゴはどうした、という声はひとまず置いといて、確かにジョージという人は「バランス」の人、という印象は強い。ある意味器用なのだ。しかし逆に言えば器用貧乏的な要素もかなり強く、それがためにフィル・スペクターやジェフ・リンの色に染まってしまう傾向がある。あまり強烈な自我を発揮するタイプではないのだ。だからこそ、ビートルズに必要な人間だったのだろう。現在のストーンズだってロン・ウッドの存在は欠かせないのだ。
 これはまあ、一家に1枚の(2枚組だが)名盤。そしてリマスターにボーナス・トラック。お買い得だ。内容がどうしたこうしたということは言うまい。ちなみにジャケット写真が凝っていて、表ジャケットからインナースリーブまでの4枚の写真が、段々時代を追うように変化していく。タイトル通り、というわけだ。ちょっと悪乗り気味だが、何となくジョージらしくて面白い。(01.3.1)
 
 ERIC CLAPTON Reptile
 ジョージ・ハリソンの次がクラプトン、とは単なる偶然。再発盤と新譜だし。
 実際にはそれ程期待していなかったクラプトンの新作。あまりにも前作(とは言ってもBBキングとのコンビ盤)から間を置かなかったこと、さらにその前作「ピルグリム」が自分には今一つ「?」だったことがその理由として挙げられる。もうヴェテランだし、守りに入っているかな、と。
 しかし、もの凄く良かったのだ、これが。驚いたことに。期待していなかった分、さらにそういう感が強まるのかもしれないが、いや、失礼しました。
 のっけからインストナンバー。これがまた、良いのだ。今回はブルース・タッチのアルバムなのかな、とも思わせたが、結構ヴァリエーション豊かな内容になっている。要するに、「普通のクラプトン」のアルバムなのだ。こう言ってしまっては身も蓋もないが、やはりそれが一番なのだ。スティーヴィー・ワンダーやレイ・チャールズのカヴァーも当然のごとく自分の音にして出している。
 さらにヴォーカル。これまた絶好調なのだ。どんどん上手くなっている。昔の「ワンダフル・トゥナイト」などの不安定なヴォーカルを思えば、この年齢でこれだけの咽喉をしているのは大したものである。まあ、上手けりゃ良いってものじゃあないし、あまり上手すぎてもロックじゃなくなってしまうだが、クラプトンは見事に「ロック・ヴォーカリスト」している。どうなっているのだ。
 最後に音質。輸入盤を購入したがHDCD仕様で、音質は相変わらず良好。ギターの音色に酔わされます。そう、実際には「音が良いだろうから」買ったのだ、最初の目的は。しかし、この濃い内容。いやいやいや、大変な御無礼の数々、感服つかまつり…(01.3.9)
 
 DRAGON ASH Lily Of Da Valley
 ドラゴンアッシュに代表される、こうしたロック/ヒップホップのミクスチャー的なスタイルは珍しいものではなくなって来ている。悪い言い方をすれば、もはや新鮮さは無くなっている、ということでもあるのだ。そうした中で、日本におけるオリジネーターはどう動くのか。注目の最新アルバムである。
 さすがだ。今作も突き抜けた出来栄えなのだ。前作同様あります、ラストのおふざけ(?)コーナーに至るまで、全く飽きさせないヴァラエティに富み且つクオリティの高い曲の数々、聴く前の不安など何処かへ吹き飛んでしまった。
 前作以降のシングルの中で「Summer Tribe」は収録されていない。降谷本人が語っているように、「リラックス&お遊びモード」で作られたこの曲は季節のこともあってか、アルバムには似付かわしくないということだろう。その他のシングルは入っているが、見事にアルバムの流れに溶け込んでいるのはやはり大したもの。しかし、聴き物は「百合の咲く場所で」だ。サビの部分は「ブルーハーツ?」と思わせるようなパンクになり、それ以外は淡々と降谷のライムが決まりまくるナンバーだが、歌詞も含めて、じっくり聴きこみたい素晴らしい曲だ。シングルでも良かったのではないか。何と言ってもタイトルからして恰好良いではないか。この曲に代表されるように、今作はヒップホップ的な要素もあるが、「ロック」としての色が強いような気がする。逆に言えば、もはやロックにヒップホップが絡んでくるのはレイジやリンプの例を持ちだすまでもなく、当然のことになっていることもある。
 確かに最初に彼らを知ったときの驚愕は当然のことながら、ない。そして一般的にも前作のような話題性もないだろう。売れることは売れるにしても、だ。しかし、彼らは休むことなく前へ前へと進んでおり、ロックだのヒップホップだのという物は超越してしまったように感じる。一体何処まで行くんだろう?そして自分は何度彼らに対してこのセリフを言い続けるのだろう。(01.3.18)
 
 SOPHIA 進化論
 前作「マテリアル」が邦楽ロック界に波紋を巻き起こし、セールスも記録的!…とは残念ながらならなかった。思ったほどの反響もなく、しばらくシングルを何枚かリリースしていたが、それぞれ好作品でまずまずのヒットとなりながらも、さらに語られることが少なくなってしまっていた最近のソフィア。新作となるこのアルバムも「マテリアル」のような期待感をもって迎えられているわけではない。しかし、内容は決して期待を裏切らない、濃いものとなった。
 前にも書いたがヴォーカルの松岡はルックスが良い。だからヴィジュアル系のようなデビューだったし、そのせいか現在でもそのようなジャンルに括られてしまいがちだ。それがマイナス要素となっているような気がしてならない。本当のヴィジュアル系ファンからはもはや相手にされず、正統派的なロックファンからも「所詮ヴィジュアル系上がりだろ」とまともに聴いてもらえない。絶対に損をしているのだ。
 しかしまあ、そんなことはどうでも良い。とにかく聴いてみよう。松岡の神経症的ヴォーカルが一層激しくなっている部分もある(特に「Walk」)が、シングルにもなった「ミサイル」や「進化論〜GOOD MORNING! HELLO! 21st.CENTURY〜」はグラムロックしていて気持ちがいい。思わずニヤリとさせられる歌詞も決して軽いものではない。そのスパイスの利き加減が彼らの真骨頂だ。
 ただ、このバンドも危うさ、と言うかちょっとしたことでバラバラに壊れてしまうようなものを感じてしまう。ブランキーは解散、イエモンは活動停止、と邦楽ロック界は何かと揺れている。ソフィアにも共通するものがあるような気がするのだ。逆に言えば、そこが魅力だったりするのだが。(01.3.25)
 
 BUMP OF CHICKEN 天体観測(シングル)
 何と、売れているのだ、バンプの新曲が。
 もちろん、素晴らしいことである。しかし、まさかトップ10圏内にランクイン、というのは信じられなかった。ちょうど1年くらい前、アルバムをレヴューして「凄い奴等が現れた」と書いた。まだインディーだったので、メジャーからリリースされたらきっと人気がぐんと上がるだろう、と思っていたが、アルバムで人気を得るものとばかり思っていた。シングルがこんなに売れるとは、素直に嬉しいが、驚きも隠せないものだ。
 この曲も物凄くオーソドックスなロックである。今どき珍しいくらいだ。しかし圧倒的に恰好良い。何と言っても曲が良い。「良い」と言うのは簡単だが、歌謡曲っぽくならずに素直に耳に入っていくようなメロディをロックで奏でる、なんてことは並大抵のことではないのだ。
 「良いものが売れない」時代ではある。しかし、この曲がこんなに売れるなんて、世の中まだまだ捨てたもんじゃない。FMでかなりオンエアされていたので、おそらくその影響も大きいだろう。そうした旧来のメディアもまだまだ頑張っているのだ。こうなったら、もっともっと売れてくれ。世の中、変えてくれ、本当に。(01.4.1)
 
 椎名林檎 真夜中は純潔(シングル)
 もう誰でも知っている通り、めでたく御懐妊なさった林檎姫、久しぶりのシングルだ。アナログ盤で先行してリリースされていたのだが、残念ながら手に入れられなかった。それにしても、このタイトル、流石、である。
 この新曲は東京スカパラダイスオーケストラとの共演になっているのだ。よって当然ホーンが賑やかなので、「ズシャーン」と思いっきりヴォリュームを上げて楽しむのが一番。これがまた、「くーっ」と言いたくなるほど本当に気持ちが良い。こうしたインストゥルメンツと椎名林檎は大変よくマッチしている。もっともっとこのメンバーでの曲を聴きたいものだ。いや、いっそこれで全国ツアーなどしてもらえると、もうものすごーく、ありがたや。
 カップリングは2曲ある。「シドと白昼夢」の別ヴァージョン、これはクレジットには「東日本スウィングパラダイスオーケストラ」という怪しい名前の演奏になっているが、編曲は服部隆之先生、ドラムには村上”ポンタ”秀一が加わった、ビッグバンドなのだ。これもスカパラのような現代風オケとは違った、伝統的なビッグバンドではあるが、逆に面白い。あまりにも打ち込みが氾濫しているJ・ポップ界に、もう少しこういうものがあったって良いじゃないか。
 最後の「愛妻家の食卓」。おー、やはり林檎ちゃんもこういうことを書くようになったわけね、などと思っていたら甘い甘い。途中からガラリと変わって、やっぱり彼女らしい世界でございました。3曲とも中身のこーい内容で、大変お買い得でございますよ。(01.4.5)
 
 DUFT PUNK Discovery
 FMでがんがんオンエアされていた「ワン・モア・タイム」。最初はただのユーロビートもどき、という印象しかなかったのだが、アルバムがまもなくリリース、というときに何故か「ロッキング・オン」で話題になっていた。正直な話「えー??」という気分だったが、最近こうしたダンス・ミュージックから御無沙汰だったし、それではお手並み拝見、といった気持ちで聴いてみた。こうして乗せられて聴いてしまったロックファンもさぞ多いに違いない。
 ラジオではユーロという認識だった「ワン・モア・タイム」も、ちゃんと聴いてみると確かに「聴ける」音楽ということが分かった。実際ユーロのような性急なビートではなく、もっと確信犯的にチープな音で奏でられるダンス・ミュージック。ディスコ・ミュージックと言っても良い。そう、アルバム全体を包む「ディスコ」の匂い。スカスカした音のすき間が心地よい。ディスコ、ダンス、ソウル、ジャズ、フュージョン、ロックと様々な要素を内包しながらハイな気分にさせてくれる。
 最近音沙汰の無い「デジタル・ロック勢」。音数の多い性急なデジタル・ビートの時代は変化を迎えたようだ。そうした中、ダフト・パンクが登場したことの意味は大きい。ケミカル・ブラザーズなどの次回作にも影響を与えるのではないか。
 ただ個人的には、ケミカルやプロディジーが全盛期だったころの「これが今のロックだ!」という浮かれた気分にはさせてくれなかったことも事実だ。やはりアンダーワールド辺りまでが限界か。
 ちなみに自分が購入したのは輸入盤だが、国内盤のジャケットは松本零士氏がオリジナルに書き下ろしている。メンバーが大ファンで日本に直接やって来て依頼したのだそうだ。インターナショナル盤にも採用して欲しかったが…(01.4.21)
 
 THE STONE ROSES The Remixes
 未だにその影響は計り知れないストーン・ローゼス。しかし、このバンドほど「知っている者と、そうでない者」の差が大きい存在を知らない。ここでの「差」というのは、「その存在の大きさ」に於いて、という言い方が妥当だろう。つまり、もっとメジャーな土俵で語られても良さそうなものなのだが、結局全体から見ればコアな存在でしかないのか。
 それはともかく、彼らがシーンに登場したのは1989年。もう12年が経とうとしているわけだ。にもかかわらず、またこうしたリミックス集がリリースされる、というのは決して単なる商売だけではあるまい。彼らの作品にはそれだけの価値があるのだ。それだけの普遍性があるのだ。
 さて、このリミックス集を聴いて思うのは「さすが」の一言に尽きる。つまりは、普通こうしたロック・バンドが人の手を経てダンス・チューンに仕上げられると大抵は「無理がある」と感じることが多い。最近ではそうでもなくなってきたが、やはりストーン・ローゼスは凄い。はっきり言って、何の違和感もない。リミキサー陣の腕も確かなのだが、全く「普通に」聴くことができるのだ。ローゼスを聴いたのは久しぶりではあったが、「おお、この曲がこうなるのか」といった感想は全く湧かず、「ああ、久しぶりに聴くローゼスはやっぱり恰好良いなあ」というものだった。「ストーン・ローゼスは、クラブ・シーンとロックを違和感なく結びつけた存在」などと英国ロックファンなら言わずもがなのことだが、あらためてそれを今回のリミックスで感じた次第だ。曲は一聴普通のビートルズ風ロックなのに、踊れるのだ。思わず体が動く動く、疲れているのに動く動く。ローゼスファンならずともこれはお奨めのアルバムだ。(01.4.29)
 
 AEROSMITH Just Push Play
 衛星放送だっただろうか、テレビで新曲の「ジェイデッド」を演奏しているエアロを見て、「お、いいじゃないか」と感心したのだ。彼らじゃなければ「ただの売れ線のロック」かもしれない。また外部ライターの作品か、と思ったほどだ。しかし、それを「エアロスミス」が作曲し、演ることによって、どれほど光ることか。それを思い知らされる曲なのだ、この「ジェイデッド」は。
 そしてこのニュー・アルバム。いつものエアロに変わりはない。しかし、「古さ」を感じることは全く無いだろう。不思議ではある。新しいことも確かにやっている。それが不自然に目立ったり、「どうだ、まだ俺達は現役なんだ」といったような殊更に誇示することは見られない。あくまで「自然」のエアロ節に溶け込んでいるのだ。と、言って最近人気急上昇中の若手バンドとは一線を画する「オーラ」を発散しまくっていることは間違いの無いことだ。ちょっとこれは凄いことではなかろうか。もはや何も気張ったり焦ったりする必要はない。それならばマイペースでやっていっても誰からも文句は言われないはずだが、あくまでシーンの先頭に立つ現役感覚。ストーンズですら成しえないことを、彼らはさりげなくやってしまった。何度でも言わせてもらうが、凄いのだ。
 先日のニュース番組のインタビューでも年齢のことをしきりに訊かれていたが、「いや、別に歳はねえ…」とちょっと困ったように応えている姿が印象的だった。実際、彼らはそんなことは全く意識していないのだろう。昔と全く変わってしまったが、今も凄いクラプトン、昔と変わらないようで現在をも飲み込んで進んでいくエアロスミス。ベテラン健在、などと陳腐な科白では表現したくはないものだ。(01.5.9)
 
 MISIA Marvelous
 超・大ヒットを記録した「Everything」を聴いたとき、ちょっとガッカリした。セリーヌ・ディオンじゃあるまいし、こんなベタベタなバラードをミーシャが歌うことはないではないか、と。
 しかし、巷でもう止めてと言うくらい流れて聴き飽きているはずのこの曲、こうして自分のステレオで聴くとダントツに良い。やはり歌唱力が圧倒的に高いし、さらに成長しているのもわかる。考えてみれば、日本でこれだけスケールの大きいバラードを歌いこなせる歌手がどれだけいるだろうか。たとえセリーヌやマライアっぽい曲とは言え。
 逆に言えば、アルバムのその他の曲が問題だ。どれも中途半端で、ビートの効いたダンス物、普通のポップス、ミディアムスロー、色々あるのだがピンと来ないものばかりだったのだ。思わずリモコンで曲を跳ばしたくなった。一体何なのだろう。シングル「Escape」さえ、リリースされたとき思ったのだが、あまりインパクトのある曲とは言えず、結局次のシングルへの単なる「繋ぎ」でしかなかった。このときに「おかしいな」と思うべきだったのかもしれない。
 前作であるセカンドをこのコーナーで褒めまくったのだが、それだけに今作の出来は残念で堪らない。彼女は純粋に「歌い手」なので、周りがしっかりしないと生きて来ない。確かに「Everything」効果や、店頭でのディスプレイで売れることは間違いない。DVDのような初回限定パッケージも目立つのでこれを買う人も多いだろう。しかし、不安点はもう既に出ている。中古屋に結構置かれていることだ。ドリカムとのコラボレーションもパッとせずに終わっているし、早めに手を打たないと、取り返しの付かないことになるのでないか。良い曲さえあれば歌いこなせる人である。優秀な作家陣、プロデューサーを見つけることが急務だ。
 ついでに言えば、前作であれほど良かった音質が、今回は並のJポップ級になってしまっている。ラジカセで聴く層が増えたということか。あまりにも悲しい。「Everything」だけが妙に音が良かったのは何故だろうか。(01.5.20)
 
 山崎まさよし Plastic Soul(シングル)
 随分久しぶりのシングル、しかもオープニングはこれまでとガラリと変わった「ディスコ」サウンド。やたら長いインターバルはこのためだったのか?何故ディスコ?
 しかし、ヴォーカルに移ると結局いつもの「山崎」サウンドだ。なあんだ、びっくりさせて。確かにどんなに周りのサウンドが変わろうとも、「あの」独特の歌い回しが登場すれば否応無しに「山崎」なのだ。「アクが強い」などと陳腐な言い方では表現しきれない、彼ならではの世界だ。
 とは言え、やはり気になるな、このディスコサウンドは。もうすぐアルバムがリリースされるはずだが、何か意味があるような気がしてならない。前作、と言うかライブアルバムが弾き語りだっただけに、対照的なこの音は何かを暗示しているのではなかろうか。考え過ぎかな。
 カップリングの「愛の仕組み」はテレビCMでお馴染のあの曲。こちらは普段の山崎まさよしで、リード曲でビックリした人も一安心。全4曲(4曲目は初回ボーナストラック)で、大変お買い得なシングルである。(01.6.7)
 
 THEE MICHLLE GUN ELEPHANT Rodeo Tandem Beat Specter
 「ロデオ・タンデム・ビート・スペクター」。あらためてこのアルバムタイトルを書いてみる。声に出して読んでみる。うーむ、どうしたってミッシェルだ。彼ら以外にこのタイトルの似合う連中は存在しない。字面だけで期待してしまうではないか。
 内容も今作は素晴らしいぞ。前作はちょっと肩に力が入りすぎていた感があり、その硬派なサウンドは悪くはなかったのだが、もう一つのルーズな面−これが彼らの真骨頂と個人的には考えているのだが−が足りなかったのだ。そうした面からも今作はルーズで良い。スピード感は一向に衰える気配はなく、一層増しているのだが、そんな中にルーズさが垣間見える。このバランスが素晴らしい。やはりアメリカに行ったためだろうか。前作が「イメージとしてのアメリカ、あるいは異国」だったとすれば、今作は「実際に目の当たりにした異国」と言った感じか。この違いは大きい。本当にアメリカのでかさを確認して、人間も大きくなったような、そんな余裕を感じるのだ。
 とにかく、ブランキーが解散、イエモンは活動休止、日本のオーソドックスなロックがどんどん聴けなくなってしまっている中、ミッシェルにかかる期待は半端じゃあなく大きいのだ。それを軽々と撥ね除ける新作、これは凄い。シングルヒットが無いせいか、通受けするバンドとしてのイメージが強い彼らだが、是非もっともっと多くの人、特に洋楽ロックファンで30代以上の人に聴いてもらいたいものだ。(01.6.14)
 
 R.E.M. Revael
 もはや彼らも「ベテラン」と呼ばれてもおかしくないバンドになった。そんな呼び方を軽く一蹴するような若々しさに溢れた新作…と言いたいところなのだが、実際に良い意味で「ベテラン」ロックバンドらしい作品をリリースしてきた。
 思えば「ドキュメント」以来ずっと彼らの作品を聴いているが、10年以上、という歳月の間にバンドも随分変わってきた。当時の肌をチクチク刺すような、鮮烈な音が好きだった自分としては、ここ最近のR.E.M.は「ナルく」なったものだ、と感じていた。作品によっては再びアグレッシヴな作風に挑んだものもあったが、ベテラン投手に往年の速球を求めるというのも無理があることを証明しただけだったように思う。
 しかし、この新作は良かった。ベテランらしい味のある投球、と言ってしまえば身も蓋もないのだが、マイケル・スタイプのヴォーカルも随分熟成されてきたものである。まさか、R.E.M.がこんな「味」で聴かせるロックバンドになろうとは思わなかった。さらりと「なごみ系」的に聞き流すことも出来る、そんな味わいだ。
 もう「ワン・アイ・ラヴ」を「ふぁいやああ〜〜〜〜〜」と叫んでいた彼らはもうここにはいない。当然のことなのだ。そして、聴いている自分も、年齢を重ねていることに、ふと自覚的になってしまって、ちょっとセンチメンタルな気分になってしまうのだ。(01.6.23)
 
 EGO-WRAPPIN' 満ち汐のロマンス
 「ロッキングオン・ジャパン」でも「スイングジャーナル」でも取り上げられる、希有な存在となったエゴ-ラッピン。一曲目での、サックスからドラムのブラッシュに至るオープニングを聴いて「なるほど」と納得させられる。さらに女性ヴォーカルの気だるげなジャズっぽさは圧巻だ。
 しかし、これは「ジャジーな雰囲気に満ちた軽いポップス」などではない。とにかく「濃ゆい」のだ。最近はジャズを流す居酒屋が増えてきている。「オシャレな雰囲気のBGM」としての機能を果たそうとしているのだが、実際は酔っ払いの罵声にかき消されているのが現状で、ただ微かに聞えるのみだ。ジャズは「軽さ」の象徴のようにすら思えてくる。ところが本物のジャズは濃厚だ。そしてエゴ-ラッピンも濃厚なのだ。この濃厚さは近ごろのロックが忘れかけていたものだ。
 ヴォーカルの中野よしえがこれまた凄い。先ほど「気だるげ」と表現したが、それだけではない。曲によって大貫妙子風になったり、迫力のジャズヴォーカリストになったりと大変多彩な表現力を持っているのだ。一体何処にこんな凄いヴォーカリストがいたのだろうか、と思いたくなる。
 とにかく、最近いろいろな「〜系」と分類されるアーティストが出ているのだが、彼らをカテゴライズするのは難しい。別にジャンルに嵌め込むようなことをする必要は全くないのだが。「ジャズ」や「昭和歌謡」他の要素をふんだんに盛り込んだ、新しい形の「ロック」が誕生した、と思いたい。過去のマキシなど遡って聴きたくなった。(01.6.29)
 
 AJICO ぺピン(シングル)
 もうAJICOとしては活動しない、ということだが本当だろうか。だとしたら残念で堪らない。それほどこの「ベンジーとUA」という2人の才能が炸裂したユニットはまたとないものなのだ。今回のこのシングルは、ブランキーのシングル群の中では異質だが、後期ブランキーをある意味代表していたとも思える「ぺピン」のカヴァー(?)で、しかもライヴだ。最初はUAのヴォーカルからだが、これが不思議とUAの「うた」として見事に成立している。ブランキーの、どちらかと言うと「ペンペン草も生えぬ荒涼たる風景」という曲のイメージが、UAによって「荒涼とはしているが静かに風の吹く草原」に変わっているのが分かるのだ。途中でベンジーもヴォーカルを取る(そこで大きな拍手が起こるのはブランキーファンだろう)が、ブランキーのベンジーとは違った、新しいベンジーとも言うべき存在となって我々の前に姿を現わしている。それは何か、緊張感の取れた、リラックスしたベンジーの姿だ。もちろん、これはパーマネントなバンドではない、ということで楽しんで演っているということもあろうが、緊張感が魅力の一つであった彼の、こういう姿も意外と良いものである。
 カップリング曲は洋楽スタンダード「サニー」。意外な選曲だが、UAの好みだろうか?洋楽のカヴァーというのは珍しい(特にベンジーには)ので、なかなか新鮮で良かった。ライヴならではかな。(01.7.11)
 
 トライセラトップス with LISA Believe The Light (シングル)
 この組み合わせ、一体どういう経緯だったのだろうか。
 最新アルバムもあまりパッとしなかったものの、中堅っぽいポジションを掴んだかに見える(それを本人達がどう捉えているかは分からないが)トライセラと、「歌謡ヒップホップ」とも言える耳当たりの良いサウンドでまさに「今が旬」と言えるm-floのヴォーカルLISAとのコラボレーション。決してトライセラにゲストとしてLISAが加わる、という訳ではなくて、あくまで「共作」ということだ。組み合わせだけでは一見水と油、一体どんな音になるのやら、と期待と不安を交錯させながらターンテーブルに載せたわけだ。
 確かに「トライセラ+m-floのサビの部分」といった曲になっている。お互いの引き出しから十分に出しあった、そんな感じで、なかなかポップで良い曲だ。このところは妙に「骨太ロック」を目指していたようなトライセラには逆にこういったポップな曲の方がやはり似合うのではないか。
 ただ、これが「売れる」か、というと正直疑問を感じる。売れるには中途半端なポップさなのだ。組み合わせを考えればちょっと勿体無い、という気もするし、「LISA」ではなく「m-flo」としてコラボレートすれば、もっと面白かったのではないか、とも思う。
 トライセラはこれを機会に色々なコラボレーションを考えているという。何かを迷っているときなのかもしれないが、そういった姿勢は個人的には多いに楽しみなので、次も期待しよう。(01.7.17)
 
 山崎まさよし Transition
 前作「Sheep」は99年の作品なので、意外とインターバルがあったのだが、それをあまり感じさせないのはライヴ盤や、テレビCMなどの出演があるからだろうか。しかし、そうでなくともあの独特の彼自身が持つ濃いめの存在感が記憶から消えにくいのだろう。確かに友人にこんなヤツがいたら、しばらく会わなくても忘れることはなかろう。
 さて、まだ30歳前と意外に(失礼)若い山崎氏の新作は比較的渋めとも言えた前作と比べるとシングル2曲とCMタイアップも2曲と、久しぶりなだけあって既によく知っている曲が並ぶ構成になっている。そのせいか、前作より明るさを感じるが、基本的には何も変わらないまさやん節。というより、何を変えたってあの歌声があれば何でも「山崎まさよし」以外の何者でもないだろう。
 ただ、それが実際には彼にとって好ましい状態かというと疑問がある。彼自身そう思っているのではあるまいか。シングル「Plastic Soul」に見られたディスコ風アレンジ、あれは彼なりの「自己を打ち破りたい」抵抗の表われの一つではないか。このまま「ああ山崎まさよし、あの独特の声とギターの響きが良いよねー」というステロタイプな世間の声を気にしだしているのかもしれない。この作品は変わろうとする山崎まさよしと、結局いつもの山崎まさよし、その2つが両立した、今後のターニング・ポイントとなるアルバムとも言えよう。次の作品は一体どちらに振れているのか?(01.7.28)
 
 MR. CHILDREN 1992-1995 & 1996-2000
 ミスチル。こうして略されることがビッグネームの証、とも言えるけれども本当に超メジャーアーティストのベスト盤。少々買うのに抵抗があったことは否めない。しかし、思えばふと口をついて出る彼らの名曲の数々。鼻歌リピート率が実はかなり高かったことに気付かされてしまってからは、「やはりちゃんと買って聴こう。」と思ったわけであったのだ。
 1枚目(通称「肉」)はデビュー曲から「シーソーゲーム」までが収録されているが、初期の彼らは妙に青臭く瑞々しく、まあ言ってしまえば当時の年齢に相応しいようなポップスを演っており、凄く憶えやすいけれども聴いていると照れ臭くなって来ることも確かだ。ただやはりそうした中でもカラオケの定番曲「抱きしめたい」は少し大人っぽく、さすがに名曲だ。ヒットした「CROSS ROAD」「innocent world」までそうした青臭さは感じることが出来る。
 変化が見られたのはそうしたヒットを受けての「Tomorrow Never Knows」からか。こうした一見地味なナンバーをもヒットさせたことで、さらに彼らは自信をつけたように見受けられる。それが「シーソーゲーム」のような、ヴィデオクリップを含めてもろ「エルビス・コステロ」風の、しかし個人的には最も好きな、メンバー自身の嗜好が強いナンバーをリリースするようになってくる。
 ところが2枚目(通称「骨」)の時代になってくるとあまりに順風満帆な状態に桜井の様子がおかしくなってくる。「終わりなき旅」や「光の射す方へ」といった歌詞に自分の迷いや焦り、絶望感にも近い感情を吐露するような曲をシングルでリリースしてくる辺り、「ひょっとして桜井は壊れてしまったのではないか」とまでの危機感を抱かせるものがあったのだ。自然とカート・コバーンがオーヴァーラップする。
 しかし間を置いてリリースされたシングル「口笛」はまた昔の王道ミスチル節が戻ったが、「リフレッシュしたのかな」「いや、逆に行くところまで行ってしまってこうなったのかな」と聴く側に両方の思いを交錯させるような複雑な曲となった。
 現在、彼らのスタンスはちょうどいいものかもしれない。このベスト盤は物凄く売れるだろうが、決して「流行の中心」にいる存在でもない。「超・ミリオンヒット」をバンバンリリースする、というタイプでもないのだ。ただ、一時期はそうだっただけだ。決して落ち目にならず、「出せば売れる」安定したアーティストとなった彼ら、それはこのベスト盤が証明するように、常に良質の楽曲を歌っているからである。こういうアルバムをまさに「一家に1枚」基本として置いてくのが良いだろう。
 これを聴いてさらに鼻歌はミスチルが多くなってしまった。(01.8.3)
 
 STEADY & CO. Stay Gold(シングル)
 ドラゴンアッシュの降谷とBOTS、スケボーキングのSHIGEO、リップスライムのILMARI、という「最強」の布陣で臨むこのシングル。どんなに激しいものになるのかと思わせておいて、このメロディアスな曲。見事な先制フックだ。
 それにしても「今、売れるヒップホップ組」である3組のコラボレーションは、まあ「T.M.C」があったにせよ、ただの「共演」ではない、「結束」のようなものを感じさせてくれる。気が付けば日本においてもヒップホップは一般的に認知されるものとなってきた。これはやはりまずドラゴンアッシュが火を付けたわけだし、そして降谷は「共闘」とも言える形で同世代のヒップホッパーを集め、ライヴ活動を行うことによってその火を燃え上がらすことに成功したのだ。そのヴァイタリティには敬服するしかなかろう。
 ただし最初にも書いたがこの曲は「Greatful Days」を思わせるメロディアスなもの。ただただタテノリしまくるだけがヒップホップではないのだ。否、もはや彼らはヒップホップ云々ではない、もっと超越した、現代のスタンダードにもなりうる曲を書いている。そんな曲なのだ。
 しかし、降谷建二も随分遠くへ行ってしまった、と個人的には感じないではない。自分が年をとってしまっている(それでもDAのベーシスト馬場よりは若いのだが)せいだろうか?「日はまた昇りくりかえす」「Under Age's Song」で得た涙を流すほどの感動を、最近の彼らから残念ながら覚えることがなくなっているのだ。それだけがちょっと引っ掛かる。(01.8.16)
 
 AJICO Ajico Show
 考えてみると、洋楽にはライヴの名盤が数多くある。ディープ・パープル、チープ・トリック、ストーンズ、ブルース・スプリングスティーン、ピーター・フランプトン、といった辺りが有名だ。
 しかし、日本でライヴの名盤というやつはあまりない。セールス的にもスタジオ録音より数段落ちるのが現状だ。まあ、日本では「ベスト盤」が結局一番売れてしまう、という大変寂しい事実がある。根本的に音楽と向き合う姿勢が全く違うのだろう。
 そんな中でAJICOが物凄く素晴らしいライヴ盤を届けてくれた。スタジオ盤以上にクオリティの高い演奏を繰り広げていて、本当にこれがパーマネントなバンドでないことが不思議なくらい、一体感を感じるサウンドとなっているのだ。
 考えてみると、って今回2度目の接頭語だが、やはり考えてみるとブランキーが3人の「ひりひりした緊張感」が特長だったわけで、それが今回のAJICOに関しては一体感を痛烈に感じるというのも、おかしなものである。しかし実際に聴いてみれば分かるが本当にそうなのだ。
 曲は既に発表されたAJICOのもの、ブランキーのもの、UAのもの、カヴァー曲、とヴァラエティに富んでいる。JAZZのスタンダード「Take Five」にも挑戦しているのが興味を引く。これは5分の4拍子という変則的なテンポなので、演奏も歌もかなり難しいのだ。ブランキーからはシングルカットされた「ぺピン」だが、やはり両者の掛け合いが手に取るように感じられる。とは言え、映像でも見てみたいものだが。そしてUAソロ名義作からは「悲しみジョニー」「歪んだ太陽」が。アルバムでベンジーがゲスト参加した曲は過去あったわけだが、こうしたUAの代表曲においてベンジーがギターを弾く、ということに深い感慨を抱いたりもする。
 もしかしたら、音楽誌などを読まない層からは「UAって今何をしているんだろ」という声も上がっているような状態かもしれない。それほどこのAJICOというプロジェクトはコアなものだ。例え音楽誌的には盛り上がっているとしても、だ。一般的にはブランキーは知らなくてもUAは以前はそれなりの知名度はあったと思う。いわゆる「R&B」ブームに火を着けながら、自分はもっと先を歩んだUA。皆さん、UAは今こんなに凄いんですよ、と声を大にして言いたい。
 ところで、このアルバム、ライヴとしてはかなり音質も良い。まあ、ベンジーのギターは音質が悪くても容赦なく魂を突き刺してくれるのだが、例えばTokieさんの弾くベースとか、ドラムとかは本当にクリア。そうした点からもお奨め。(01.9.2)
 
 NEW ORDER Get Ready
 ピーター・フックが好きだ。
 あのだらーっと下げまくったベースの位置。膝まで下げているではないか。そこから奏でられる流麗なベースライン。そして浮浪者のような風貌。何て恰好良いんだろう。自分の中ではナンバーワン・ロック・ベーシストなのだ。ニュー・オーダーをユーロビートまがいのバンドと認識してバカにしている人は多いかも知れないがとんでもない。あの美しいベースラインを持っている曲群を、ユーロなどと混同してもらっては大変迷惑だ。耳がどうかしているのではないか。
 もう何年ぶりなのか分からないほどの新作。それでも全く変わりのない、代わりもいない、ニュー・オーダーのサウンドが満ちあふれている。フッキーのベースも健在で自分などはもう、これだけでうれしくてうれしくて堪らない。バーニーの声は少し年齢を増して深みが出てきたかなあ。…いや、やっぱりそのままかもしれない。
 このアルバムが音楽市場にもたらす影響というものは別に大きくはないだろう。ニュー・オーダーに世間を揺るがすような使命を与えるのはもはや酷と言うものだ。しかし、こうして解散をするんだかしないんだかよく分からない状態で何年かに一回、ぽんと新作をリリースしてくれるだけで十分幸せだ。「歴史的名盤」を作る必要はない。「元気だよ」というお便りを忘れたころにくれればいいのだ。(01.9.9)
 
 THE CHARLATANS Wonderland
 演奏が始まってビックリ。ケミカル・ブラザーズかと思った。
 確かに過去、コラボレートしていたことはあるのだが、今回クレジットを見てもケミカル兄弟らしき名前を見いだすことは出来なかった。純粋に(セルフ・プロデュースではないが)シャーラタンズの作品である。
 デビュー時こそサイケなシンセ・サウンドでダンス・グルーヴを奏でていた彼らだが、最近はアーシーなストーンズばりのロックを演っていたのだ。それが今作ではデジタル・ビートを前面に押し出した、グルーヴ色の思いっきり強い作品をリリースしてきた。前作から2年と少し間があったのは確かだが、一体どうしたというのだろう?
 しかも変わったのはそれだけではない。ティムのヴォーカル。ファルセット(と言うか裏声)を多用して、このビートの渦にうまく溶け込ませている。このヴォーカルとビートが相まって、元々彼らが持っていた「黒さ」が一層今作では発揮されるようになった。そう、この新作は「黒い」。
 で、結論としてこのアルバムは大変良かった、と声を大にして言える。最初ビックリしたが、このグルーヴ、と言うか「ノリ」は物凄く気持ちが良く、全曲飽きずに聴くことが出来た。正直言って、シャーラタンズにまだここまでの力があるとは意外であった。失礼ながら。もうこのまま「枯淡の境地」へ向っているものとばかり思っていたのだ。とんでもなかった。まさに新生シャーラタンズと言えるこの作品、とても10年選手とは思えない力に溢れている。いや、ヴェテランだからこその力量か。(01.9.16)
 
 BJORK Vespertine
 何か「ダンサー・イン・ザ・ダーク」という映画によって、ビョークが随分固定したイメージを持たれるのではないか、という危惧があった。見てもいない映画について私がどうこう言うことはしないが、彼女が持つ天真爛漫性などが語られず、「気高い歌姫」的な存在になってしまってはいないか、という気がしているのだ。
 この新作、全体的に大人しいトーンで統一されており、ビョークのそうした最近のイメージに一層拍車が掛かりそうだ。シュガーキューブスからもはや10年以上が経っているし、確かに昔の「不思議少女」的な彼女を今更持ちだすつもりはないが、やはり本当はそうした面を未だに持ち合わせていることがビョークの魅力だと思う。
 このアルバムは思いっきり現在の「癒し系」にはまってしまうアイテムと言える。それを否定することはしないが、実際にはビョークの存在自体が「癒し系」とも言える、貴重なキャラクターなのだ。欲を言えば、本人が癒し系でも、音楽はもっとエキセントリックな面を見せて欲しい。
 とは言っても、この新作が悪いと言っているわけではない。むしろこのアルバムこそ「真の」癒し系かもしれない。彼女の優しさが音の端々から滲み出ているこの作品、もっと売れてもいいはずだ。(01.9.22)
 
 COCCO ベスト+裏ベスト+未発表曲集
 自分もそうなのだが、「強く儚い者たち」で彼女を知った人が多いと思う。
 そういう人はこっこについて、割とオーソドックスなシンガーソングライターというイメージを抱いているのかもしれない。その後の曲にしても軽く流して聴くことも可能なので、そのイメージが崩れることは無かったのではないか。
 「強く…」以前の彼女は結構エキセントリックなシンガーという感じだった。そういったタイプを求めていた人には、ある程度売れてからの彼女にもどかしさを感じていたかもしれない。
 しかし、どれもこっこであることに変わりはない。別に取り立てて彼女を「エキセントリックな、情念系のシンガー」と決めつける必要は全く無いのだ。インタビューなどの印象からは、本当に素直な、「天然系」と言ってもいいキャラクターだった。きっと彼女は思ったこと、感じたことをそのまま、表現してきただけなのだろう。ただ、それがこちらが思っているほど簡単な作業ではなかった、ということだろうか。
 「活動休止」を表明してしまったこっこ。実際「突然」という言葉が相応しい事件だったのだが、ある意味彼女らしくもあった。復帰を待っています、とは誰でも言うことができる。彼女以外の他人ならば。いとも気楽に、だ。
 とにかく、この2枚組は彼女の軌跡そのもの。是非一家に1枚。(01.10.21)
 
 SHARBETS Black Jenny (シングル)
 冷静になって、ふと考えたことがある。
 ベンジーの声は、これを聴くだけで痺れてしまうという、危険な薬物のようなものではないかと。
 あの特徴だらけの、調子の外れたような危うい声。それがさらに独特すぎる歌詞(=言葉)と相まって、「もうこれ無しでは生きられません」というヘロヘロ状態に自分をさせてしまうのだ。これって、物凄いことではないか。一度ハマると抜け出せない、「ベンジー中毒」。
 そんな中毒患者に送る、シャーベッツのニューシングル。ジャケ写も久しぶりにベンジーの姿がバッチリ。ブランキーが解散して、「ブランキーにおけるベンジー」が得意としていた「詩のような歌詞」がシャーベッツにおいても存分に展開されるようになってきた。やはりこのバンドが現在のベンジーにとってのパーマネントなバンドなのだろう。
 ちなみにこのシングルはレビューしていないが「三輪バギー」「カミソリ・ソング」に続く、三連発シングルの第三弾。アルバムは10/28発売が決定したが、これらのシングルはどうやら収録されないようだ。要注目。(01.10.14)
 
 スガシカオ Sugarless
 「夜空ノムコウ」が収録されております。
 一応、「B面&未収録曲&最新シングル集」という今回はマ〜ッタリ目で、ファンキーなスガシカオ節は少々抑えた作りにはなっているのだが、それ程「地味」という印象はない。スローな曲が多いのだが、バラードというわけでもなく、良い意味での軽妙な、彼らしいドキッとするような歌詞を交えて、楽しめる作品群となっている。シングルのカップリングらしいリラックス感と、逆にB面には勿体無いクオリティの高さという二面性を持った曲が並んでいるのだ。さらにシンプルなアコースティックな曲が多いので、一層彼のしゃがれ声を堪能することが出来るという美味しさも忘れてはなるまい。
 「細いレンズのメガネ」というのが彼のイメージの一つだったのだが、ジャケ写でも分かる通り、大きめのレンズになっている。まあ最近の流行りというのはそうなって来てはいるのだが、随分印象が変わった。これまでの「ちょっとユニークなお兄さん」から「ちょっと切れ者風、そして本当に時々キレることのあるお兄さん」に変わったのだ。この違いは意外に大きい。彼の書く詞というものがますます「背筋をふっと冷たいものが走る」ものに感じるのだ。曲にはリラックス感が漂っているのに、だ。
 それにしても、「夜空ノムコウ」。歌詞は当然スガシカオワールドなのだが、やはり曲が彼のものではないので、ちょっと違和感が。もっと崩して歌って欲しい気もした。(01.10.28)
 
 BUMP OF CHIKEN ハルジオン(シングル)
 タイトルは花の名前だそうな。知らなかったのだが、「ハルジオン」なるほど。一発で変換できた。
 「天体観測」がロング・ヒットとなったバンプ、新曲はどんな曲になるのか、と思わせたが、得意の疾走感溢れるロック・ナンバーとなった。今、チャートにランクインしてくる曲で、こんなにもオーソドックスなロックがあるだろうか。何の加工もしていないようなギターサウンド、ちょっと歪んだヴォーカル、やはりまだ良い意味での「インディー臭さ」を残しており、逆にそれが武器になっている。当然のことながら、シンプルでありながら聴くものの心に引っ掛かるメロディー。これなのだ。「疾走感」と書いたが本当にメロディーが心地よく「走る」のだ。個人的には「天体観測」よりこちらの方が好きだ。青臭い歌詞も彼ららしく、「ロック」を感じる。やはり「ロック」は若さ、青臭さなのだ、と確信させられる。これは実際の年齢とは関係の無いことだが。
 こうなったら、とことん売れて欲しい。紅白歌合戦を目指すくらいに頑張って欲しい。それでも変わらず青臭い詞を書いて欲しい。(01.11.3)
 
 STING ...All This Time
 ジャケ写のスティングはますます額の面積は拡がっており、もはや顔面の半分を占めんばかりとなっている。まあ、それも仕方の無い年齢ではあるのだ。
 そして「自分も年をとったなあ」と感じてしまうのは、こうしたスティングのライヴ盤などを楽しんでいるときだったりする。何故か。やはりこの人の音楽は「落ち着いた大人のロック」というイメージで語られやすい。そして、永遠のロック少年ならば、「やっぱりポリス時代でスティングは終わったんだよ。ソロになってからは駄目だね」とうそぶいていなければならないのだ。
 しかし、だ。やはりこういうライヴを聴いていると、「うーん、うまい」としか言いようのないものを感じるのだ。もはやほとんどJAZZ、という演奏が繰り広げられ、曲は全てポリス時代から現在までの代表曲がずらり。最近ではよくJAZZアーティストがよく取り上げられる「フラジャイル」から始まり、「高校教師」や「ロクサーヌ」といったポリスのナンバーが今やJAZZナンバーとなって演奏される様は、きっとロックファンからは「ぬるいなあ、これは」という感慨を抱かせるものかもしれない。実際に全盛期のポリスをそれ程聴き込んでいない、つまりさほどスティングに対して思い入れの無い自分はこれを大変よくできたライヴ作品として聴いた。それでいいのではないか。もはやスティングに「ロック」を期待すると言うこと自体が何かおかしい気もするし、元々ポリスにしたって、他のロックバンドとは随分違うスタンスの人達の集まりだったではないか。
 ラストはあの「見つめていたい」で締め。この曲にしても、JAZZの要素がたくさんある物だったことを再確認。(01.11.19)
 
 LENNY KRAVITZ Lenny
 やっぱり濃いなあ、この人は。
 何せ今作はジャケ写からしてレニー本人のどアップだ。いくらグラサンしていたって、これは引くよ、普通。このデザインはCDならではなのかもしれない。これのLPサイズは…NGでしょ、きっと。
 それはともかく。このニューアルバムはオーソドックスなロックがメインとなった。前作からのシングル「フライ・アウェイ」の路線を踏襲した内容と言えるかもしれないが、現在のレニーの心境なのだろう。
 思えば、デビュー以来彼には「アナクロ」というイメージが良くも悪くも付きまとった。自分としてはこれは良いイメージで捉えていた。ジョンレノン、モータウン、ジミヘン、ツェッペリン、ストーンズ…こういったサウンドをただ表層をなぞるのではなく、魂を込めて鳴らすことのできる希有なアーティストだと考えていたのだ。
 しかし、今のレニーは特に「古臭さ」を感じさせるものはない。時代がロックをこうした、ある意味オーソドックスなものも「アリ」とする状況になったということもあるだろう。と同時に彼のサウンドも、例えば特定の誰それに似ているだとか、70年代風だとかを意識させなくなってきた。これはほんの少し自分にとっては物足りない部分でもあるのだが、現実に「黒っぽさ」が薄れてきて聴かなくなった、というソウルファン(と言うべきか分からないが)もいることだろう。
 とにかく、この新作はオーソドックスなロックが一杯詰まった楽しいアルバムなのは確か。普通に売れることも間違いないだろう。(01.11.24)
 
 MICK JAGGER Goddessinthedoorway
 紛う方なき、ミックのソロなのだ。
 いや分かってるよ、と言われるのは承知しているのだが、言わずにおれなかったのだ。
 つまり、これまでのミックのソロ、というのはあくまで「ストーンズのミック・ジャガー」が余技として、あるいはストーンズの空いた時期に好きな事をやる、というものだった。本当は違うのかもしれないが、少なくともそのように映った。
 しかし、この新作。ここには「ストーンズのミック」という要素があまり見えてこない。「現在のミック・ジャガー」が等身大でこちらに語りかけてくるのだ。もうすぐ還暦を向えんとする熟年のロックンローラー、ミックが変に若ぶったりすることなく、とは言っても変に老成することもなく、まさしく「これが今の俺だよ」とありのままを提示する、そんなアルバムなのだ。
 レニー・クラヴィッツとの共作がどうだ、U2のボノがこうだ、と話題も豊富な今作だが、はっきり言ってそんなことはどうでもよろしい。とにかくミックだ。これがミック・ジャガーなのだ。これを聴くとストーンズとはキースなのだ、と言うことがはっきりと、今まで以上に深く理解できる。
 で、内容はどうなんだ、という話。新し物好きのミックだが、さすがに最近の例えばリンプ・ビスキットといったハード路線に行っているわけではない。しかし、音作りは現代的と言ってよく、このサウンドが今作を「ミックらしさ」に仕上げている一つの要素だろう。ただこれは「中途半端」という批判を受けがちなものでもある。
 とにかく、「ミック・ジャガー」のニューアルバム、自分は今までで一番好きだ。ごまかしもギミックもない、ミックの肉声が聞こえる作品なのだ。(01.12.2)
 
 
 THE CURE Greatest Hits
 年末というのは洋の東西を問わず、ベスト盤が組まれるものらしい。
 このキュアーも、どう考えても契約の問題だろう、「ガロア」というベストを数年前にリリースしたばかりにも関わらず、また出してしまった。そしてまた買ってしまった私。
 しかし「ガロア」が「前期ベスト」と言える「スターリング・オン・ザ・ビーチ」以降の曲を収録していたのに比べ、今作はデビュー時から一通りのベストという内容になっており、入門盤としてはお買い得と言っても良いだろう。とは言え、今から「キュアーってどんなバンドだろう?」と思ってこのベスト盤を手に取る人がどの位存在するのかは分からない。ベテランという域には達してはいるが、UKロック界においてそれほど物凄い伝説を持っているわけではないし、重鎮というわけでもない。一時期ロバート・スミスの体重は重かったかもしれないが。
 だが、このベストは「初回特典」としてもう1枚ディスクがある。これが良いのだ。1枚めの曲群を、一部を除いてアコースティック・ヴァージョンとして再演奏しているのだ。つまり「アンプラグド」と言っても良いだろう。キュアー名曲の数々をアコースティックで聴く。これは面白いし、興味深いものだ。オリジナルでもそれ程音を弄ってはいないバンドなので違和感は少ないが、リラックスムードでロバートが楽しんでいるのが分かる。どの曲もドラムのスティックの音で始まるのが、これまた良い雰囲気だ。何せ「特典」なので、価格は一枚分である。アルバムを全部持っている、という人もこの特典のために買っても決して損はしまい。(01.12.9)
 
 OCEAN COLOUR SCENE Songs For The Front Row - The Best Of
 またまたベスト盤の紹介になってしまうが、やっぱりこれは必聴でしょう。
 ポール・ウェラーの弟分、男気ロック、などと称される彼らのサウンドはまさにその通り。気合みなぎる、テンションの高い熱くも厚いロックを聴きたければ、これを聴け!絶対損はしないから。
 とまあ、文章自体も熱くなりがちなのだが、実際彼らの曲を聴いていると気分が高揚してそうなってしまうのだ。オーシャン・カラー・シーン。知らない人も是非。UKロック嫌いの方も聴いてみて欲しい。本当に熱いんだから。
 いかにもUKロックっぽかったデビューアルバムは売れず、このベストにも収録されていない。全体のバランスから言ってもそれが正解だったろう。自分たちの作りたいものを作った2枚目からが彼らの本番、と言えるからだ。
 年代順に並べられた一曲目は「リヴァーボート・ソング」。やはりこれから始まるというのは良い。カッコ良さが全開、「ついていくぜ、兄貴!」と言いたくなる名曲だ。もっと有名になってもおかしくない。
 それ以降も「男気」満載。バラードナンバーも熱い。こうして代表曲を聴いていくと、日本でももっと売れてもおかしくはないはずだ、という気分になってくる。それ程の名曲揃い。ガンガン押すだけでなく、メロディを聴かせることだって上手いのだ、彼らは。最新アルバムはまだ出たばかりなのでしばらくは新作はないだろうが(実際新作が出た年にベストが出るというのも不思議。まさか解散なんてことはないだろうね?)、これでしばらくは十分楽しめることは確か。
 いつものオーシャンはジャケット写真が好きだったのだが、今回はちょっと…と言う感じ。もう少し店頭で目立つデザインにして欲しかった。ちなみに、ボーナスディスクつきで、これはライヴ。これまた当然のことながら、スタジオ録音以上に熱い!(01.12.23)