産・婦人科医の健康アドバイス (平池秀和)

1.健康とは

一般に「健康」とは「病気でない状態」で、個人的な身体的状態と思われています。
しかし、現実にヒトが自分の健康を維持するために、個人的に身体に十二分の注意を払っていても、
周囲の環境や精神状態が原因で病気になることがあります。
ですから、ヒトが健康を維持するには身体的にも精神的にも社会的にも健康でなければ不可能です。
たとえば「アスベスト肺」を発症したヒトにとっては、
アスベストが飛散するという環境の社会的状況があったために、知らない内に病気になってしまったのです。
国連の組織である、世界保健機構(World Health Organization ; WHO)の保健大憲章の前文での「健康の定義」は、
「健康」について的確に表現しています。多くの場面で頻繁に引用される有名な言葉です。

WHOによる「Health の定義」:  
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、身体的、精神的かつ社会的に完全に良好な状態にあることで、単に疾病または虚弱でないということではない。

これは、@身体的健康な状態と、A精神的健康な状態と、B社会的健康な状態の、
3つの状態が重なったヒトが「真に健康な状態」と言えるということです。
「心身ともに健康」という表現は日常でよく使われますが、
社会的にも健康でなければ「健康」とは言えないという点をよく理解しましょう。

社会的といえば、環境とか食べ物とかがすぐに思いだされますが、
現代社会に生きる私たちにとって、常識で当たり前と思っている点についても考えてみましょう。
それは、社会常識として、何歳で出産するか、何人子どもを育てるか、という点です。

現在の日本では、30歳頃に出産して、2人くらい育てるのが普通に思われていますが、
そういう社会的常識は何年前からかと考えると、100年も経っていません。

女性は何万年も前から、18歳頃には出産を経験し、数人以上の子どもを育ててきたのです。
1回妊娠して出産・授乳すると、2年間ほどは排卵・月経がありません、
それを数回繰り返すと10〜15年間に数回しか排卵・月経がないことになります。
先祖からそういうDNAを受け継いできた現代女性にとって、
毎月毎月、排卵・月経があり、10年で120回、20年で240回も排卵・月経があるのが、
負担になっていると考えられます。

別の言い方をすれば、そうしたDNAは100年くらいでは変化しません。
現代日本で多くの女性が悩んでいる、子宮筋腫、子宮内膜症、不妊、月経困難症、など
多くの女性疾患が、出産年齢の高年化、少子化によると考えられます。

しかし、現在の日本女性全員に、18歳頃から数人子どもを育てなさい、とは言えません。
女性の高学歴化、社会進出は目覚ましいものがあり、社会の発展に大きく貢献しています。

社会常識と自分自身が持っているDNAには、「ずれ」があることを認識したうえで、
20歳代から注意し、早期から「低用量ホルモン剤」などで排卵・月経を抑制、コントロールして、
30歳代、40歳代以降をも健康的に生活できるように、皆で考えて行きたいと思います。

「これに対する明確な解決法は無い!」
と思われてきたが、最近になって、120日毎に月経を起こさせる薬や、
妊娠を望まない期間は子宮内に微量ホルモン分泌器を入れて、無月経にさせる方法などが
開発されてきた。