産・婦人科医の健康アドバイス (平池秀和)
4.閉経後の状態と治療
更年期はそれまでの順調な排卵が起こらなくなり、月経不順で始まることが多いですが、
女性ホルモン(エストロゲン)はそれでも少しは分泌されていると、月経不順以外の症状はあまり出ません。
しかし、性器出血が6か月や1年以上無いと、女性ホルモンが枯渇し、それから種々の症状に悩まされてきます。
卵巣が老化して卵胞が育たなくなるのです。しかし脳はまだまだ老化しておらず活発に働きます。
脳からの命令である卵胞刺激ホルモンを分泌しますが、卵巣(卵胞)はそれに応答しないので、
ますます過剰に卵胞刺激ホルモンを分泌し(フィードバック作用)、脳はオーバーヒートの状態に陥ります。
そのために主な初期症状は、顔や上半身や脳に現れます。
女性ホルモン(エストロゲン)は卵巣以外に、皮下脂肪でも微量ながら産生されるので、
減少した女性ホルモンを幾らかでも補充しようとして、皮下脂肪がこの頃に増加します。
また元々、皮下脂肪の多目の方は症状は軽く、
痩せた方は皮下脂肪からの補充が無いので、更年期症状は強く現れます。
不眠、頭重感、イライラ、不安、のぼせ、顔や上半身の急な発汗などで、
不幸な場合はイライラ・不安のために熟年離婚になることもあります。
治療としては微量の女性ホルモン(エストロゲン)を服用すると、
脳からの過剰な卵胞刺激ホルモン分泌が和らぎ減少して(フィードバック作用)、
脳はオーバーヒートの状態から静まり、精神的にも落ち着いてきます。
治療せずに女性ホルモンの減少が更に5〜10年続くと、皮膚や粘膜の「弾力性」がなくなり、
性交時の痛みや膀胱炎や尿がもれるとか、粘膜の傷に雑菌が生えて「おりもの」に異臭がする、などの症状がでてきます。
さらに、60才頃になって女性ホルモン欠乏状態が続くと、骨が弱くなり骨折すると「寝たきり」になったり、
腰や背中が曲がるなどの影響も出たり、コレステロールが上昇し動脈硬化が進むこともあります。
上記症状の原因は、卵巣の働きが低下して女性ホルモンが減少したからです。
女性の平均寿命が80才を超える現代では、更年期から閉経以降の女性にホルモン補充療法は不可欠なものになりつつあります。
女性ホルモンの薬のためにガンの発症をうながすという昔の誤った報告がありますが、
それに対しては、産婦人科の定期的な検診と乳がん検診を受けながら薬を続けることが必要です。
逆に、女性ホルモンの薬を飲んでいると種々のガンになり難いという報告も多くあります。
各個人に適したホルモン補充療法により、快適な更年期から閉経以降の生活を楽しむことは人生に有意義なことです。
*ホルモン補充療法*
女性ホルモンの卵胞ホルモン(エストロゲン)を補充するのに、
@内服薬、A貼り薬、B塗り薬、があります。
補充により子宮がまだ反応すると、子宮内膜が徐々に増殖してくるので何週間かすると厚みが増してきます。
最後の10日間はその子宮内膜が剥がれない作用をもつ黄体ホルモン(プロゲステロン)も一緒に補充します。
そして1週間休薬すると、2〜3日後に黄体ホルモンの作用が無くなったために、子宮内膜が剥がれて少し性器出血が起こります。
そして再び同じサイクルを続けます。
ただし、子宮筋腫の手術などを以前に受けて、もう子宮が無い方は黄体ホルモンを補充する必要はありませんので、
卵胞ホルモンの補充のみで済みます。
2〜3か月間、ホルモン補充療法を受けてみて、また2〜3か月間、止めてみて、良い効果を感じられる方々は続けておられます。
ホルモン療法に抵抗感のある女性が多いですが、
本来あるべき女性ホルモンが出なくなっている状態が、自然なのか?それとも、不自然なのか?
という質問に対し、閉経後も女性が活き活きと生活できる設計図がDNAに書かれていない。
という説もあることから考えると、
閉経後の女性に微量のホルモンを補充する方が、自然な状態と思われます。