産・婦人科医の健康アドバイス (平池秀和)
5.性感染症
性的行為が原因で感染する疾患には多くの種類があります。
感染しても症状が初期では軽いものがあり、放置して適切な治療を受けずにいると、
クラミジアなどでは下腹部痛の骨盤腹膜炎をきたし、
将来、炎症後の癒着のため、卵管閉鎖による不妊症の原因になることもあります。
その他には、HIV感染後に免疫不全のAIDSになるものもあるので注意しましょう。
受診の際には、帯下(おりもの)の異常や発赤や異臭などこれまでとは異なる症状とか、
パートナーが性感染症と診断されたなど具体的に伝えてください。
A. クラミジア感染症:
症状は帯下(おりもの)増加と不正出血(月経時以外での出血)が多いが、
症状のないこともあります。
原因は細菌の一種である、クラミジア・トラコマティスの感染で、
子宮頸管から子宮内膜、卵管、腹膜腔へと進んでゆき、
まれに肝周囲にまで達することもあります。
治療は細菌の一種であるので、抗生物質が有効です。
B. 淋菌感染症
淋菌は感染性が強く、1回の性交渉で約3割が感染します。
男性では排尿痛がありますが、
女性では初期の内は無症状のことが多く進むと膿の様な帯下になります。
原因は細菌ですので抗生物質が有効ですが、
これまでの抗生剤が効かない、耐性菌の出現により、
内服薬では無効で抗生剤を点滴で受けければならないこともあります。
C. 梅毒
初期は無症状で、感染後約3週間で粘膜皮膚の硬結・腫脹・潰瘍・そけいリンパ節腫脹があり、
しばらくするとまた無症状になるが、その後約3か月で全身に発疹がでます。
血液検査で診断して、治療は抗生物質が有効です。
D. 性器ヘルペス
症状は外陰粘膜に水疱や浅い潰瘍ができる。初発では性的接触後2〜10日で発病し、
38℃以上の発熱、排尿時痛、そけいリンパ節腫脹があり、進むと歩行時に擦れて痛みます。
原因は単純ヘルペス・ウィルスによる性感染なので、
治療は抗ウィルス剤が有効です。
一旦、症状が無くなってもこのウィルスは神経節に潜伏しており、
疲労や脱水があると再発を繰り返します。
再発では初発ほど症状は重くないが、早めに抗ウィルス剤を服用すれば抑えられます。
E. 尖圭コンジローマ
症状は外陰粘膜に小さなイボを認めます。
原因はヒト・パピローマ・ウィルス(HPV)による性感染です。
子宮頸がんの原因もHPVですが、
尖圭コンジローマとは同じ分類に属するが、異なるタイプなのでガン化することはありません。
治療は抗ウィルス剤を塗ります。
F. HIV(ヒト免疫不全ウィルス)感染症
感染初期はインフルエンザ様の症状が数週間き、その後は無症候となりますが、
無治療で放置すると、数年〜10年後にAIDS(後天性免疫不全症候群)になることがあります。
血液検査により診断され、治療は専門病院で受けます。
G. 膣トリコモナス症
症状は泡状の悪臭が強い帯下(おりもの)増加と、痒み違和感などです。
原因は顕微鏡で見ることができる小さな原虫で、性感染症の1つですが、
性交経験のない女性や女児にも稀に感染するので、
性的交渉だけが感染経路とは言えないこともあります。
治療はパートナーと共に内服薬を呑み、治療中は性交渉を避け、
女性は膣錠と洗浄の局所療法も受けましょう。
H. 膣カンジダ症
産婦人科で最も多い疾患ですが、性行為以外で発病することがほとんどです。
原因は真菌であるカンジダというカビのような菌が、高温・多湿な部位に増えたり、
抗生物質服用後に、他の細菌が死滅したために代わりに増えたりします(菌交代現象)。
糖尿病やステロイド服用の基礎疾患があると、日和見感染として繰り返します。
症状は酒粕様・ヨーグルト状の白色帯下の増加、痒み、灼熱感などです。
上行感染しないので、重症になることはありませんが、
治療として抗真菌剤を用います。
それ以外の塗り薬などを誤って用いると重症になるので、要注意です。
自分勝手に種々の薬を塗らないように!
再発の予防には、外陰の高温・多湿を避けて、なるべく通気性を保つことです。