朝、8:20頃に阪神競馬場へ到着。既に人がたくさん集まっている。 G3とは思えない混雑ぶり。このレースが、スプリンターズSへの 事実上唯一のステップレースなのだと感じる。
第1陣には入れなかったが、無事に横断幕を張り終えて他のレースを楽しむ。 カメラの電池を入れ替えたりしているうちにメインレースのパドックがはじまった。 パドックに陰ができる。明るいところと暗いところを交互に通っていくハヤカゼの 鬣が金色に光っていた。地味な栗毛のハヤカゼが、こんな風に鬣の光るよく晴れた日。 雨予想を聞いて袖の長い服を着てきた私は、汗でベタベタなのに爽やかだった。
返し馬も一番に入場して、スタートを待つ。 そのスタートで、私はびっくりしてしまった。出負けすることの多いハヤカゼが いつもスタート抜群のブラックホークよりも、頭一つ出ていた。 あ、と思いながら過去のレースを思い出す。 ハヤカゼが好走したレースは、必ずといっていいほどスタートがよかったんだ。 積極的にレースをすすめていくハヤカゼは4コーナーで、すでに先頭にいた。
「まさか、こんな強いレースをして残れるはずがないじゃないか。」
冷静に考えている自分もいるのに、気がつくとゴールは目の前だった。 外から何かが来る。ビハインドザマスクともう1頭の馬。 来ないで、お願い来ないで。その気持ちが周囲の人をぎょっとさせるような 大きな声を出させた。
「ハヤカゼ!・・・イヤァ・・・。」
2頭の馬がハヤカゼを少しだけ交わしたところがゴールだった。 こんなに、こんなに頑張ったのに・・・。涙はぐっとこらえた。 負けて泣くのはもうたくさん。 私はウイナーズサークルの方へ走り出した。 もうすぐ後検量に戻ってくるハヤカゼにお疲れさまを言いたくて。 周囲の人の言葉もハヤカゼに温かかった。 堪えたはずの涙が、少し流れた。 阪神1200Mのレコードタイム。ハヤカゼが上位にいるのも わかるようなレースだった。
ビハインドザマスクと一緒に差してきた馬が 勝負所で前をカットされて、もう絶対に届かないと思っていた もう1頭の応援馬、ブラックホークであることに気がついたのは リプレイを観た時だった。
次走は、ハヤカゼが迎える3度目のスプリンターズS。 斤量は軽くなるとはいえ、舞台は荒れた中山のグリーンベルト付きコース。 「運がないのかもしれない。」そう思うこともある。 でも、あきらめないで走り続けることで、彼はまた舞台に上がることができた。 その瞬間を一緒に過ごせることを、ただ私は喜びたい。