ムトゥ踊るマハラジャ

暑気払いに最高! 

It's A Dance Power!

 

1998年8月20日


盆休みに入る前日、書店でムトゥ踊るマハラジャのすべて(江戸木純著 ジャパン・ミックス 1998年 1,700円)という本をみつけた。これは数年前インドで制作された映画、「ムトゥ踊るマハラジャ」を紹介したものである。

この映画は世界的にはまったく無名であったが、著者の江戸木氏がシンガポールのビデオショップで偶然見つけ、あまりのおもしろさに、昨年(97年)日本で開かれた映画関係のイベントで紹介したところ、大きな反響があった。現在(98年8月)、東京、名古屋、大阪などのミニシアターで上映されている。

著者によれば、「イントレランス」「戦艦ポチョムキン」「黄金狂時代」「キング・コング」「駅馬車」「風と共にさりぬ」「天井桟敷の人々」「市民ケーン」「勝手にしやがれ」「ベン・ハー」「2001年宇宙の旅」「イージー・ライダー」「燃えよドラゴン」「スター・ウォーズ」「タイタニック」...などを全部足したものよりおもしろいそうだ。

著者自身、この映画に投資しているようなので、紹介に気合いが入るのも無理はない。そのため、ある程度割り引いて聞く必要はありそうだが、それにしてもここまで言うのなら、だまされたつもりで観ておいても損はないだろうと思い、インターネットで上映館を探してみた。映画に詳しい知人にアドバイスを受けながら検索してみると、東京、名古屋、大阪で現在上映中であることがわかった。どこも定員が40名から80名くらいの小さな映画館でやっている。大阪の場合、梅田の「ロフト」の地下にある映画館でやっていることがわかった。

映画は十分楽しめた。最初から、今日は意味もなく笑ってやろうという気分で行くのなら、絶対、観て損はない。笑える。映画の内容は、端的に言ってしまえば「サタデーナイトフィーバ」「水戸黄門」「遠山の金さん」「吉本新喜劇」を混ぜ、2時間46分の中に、ダンス、歌、ロマンス、コメディー、シリアス、カーチェイス(実際は馬車)、ミステリーを詰め合わせ、とにかくエンターテインメントの要素をゴッタ煮にしてある。私は立ったまま観たのだが、あっという間に終わってしまった。

ムトゥ役の男優ラジニカーントはインドではすでにスーパースターであり、ヒロインのミーナもまだ若いのに、すでに数十本の映画に出演している。二人ともインターネット上にファンクラブまであるらしい。確かにミーナはすごくかわいい。日本でもこれから人気が出るだろう。

映画の詳しい内容は別にして、私が一番感銘を受けたのはダンスシーンである。これは迫力がある。マイケル・ジャクソン風ダンスと、伝統的インド舞踊を混ぜて作ったのだろうが、理屈抜きで、見ているだけでもこちらにパワーが伝わってくる。見ているだけで元気が出てくる。暑気払いにピッタリであった。映画のダンスシーンでこれほど感動したのは今回、これが初めてかもしれない。

話が逸れるが、これを見た後、喫茶店で「宇治金」を食べた。氷を突っついていると、日本の舞、特に10年ほど前に見た、武原はんが舞った「雪」のことが浮かんできた。

Han Takehara dancing Yuki

武原はんの舞も、先の映画のダンスシーンも、体を使って何かを表現するのだからどちらも舞踊として分類はされるのだろうが、表現方法は正反対を向いている。

武原はんの舞は、ひたすら自分の内側に入って行き、かすかに開けた穴から自分自身の魂を外に染み出させている。染み出してきたものに何を見つけるかは観客次第である。武原はん自身、数十年舞い続けてきた「雪」で何を表現したかったのか。純粋に「舞の美しさ」を追求した時期もあったはずだ。しかし、晩年はそうではなかったと思う。70歳を過ぎてからの10年、20年は、そのようなものよりも、ひたすら自分自身の魂を、「舞」を借りて見せていたのだろう。観客がそれで何を感じようが知ったことではなかった。観客に媚びることがなくなった。

勢いよく回っているコマを手のひらに乗せると、心棒があたっている部分は痛い。大きなコマなら、ドリルの先が手のひらにあたっているようなものだから、実際に肉がえぐられるような感じがする。コマ本体の一番外側には、遠心力のため、外へ飛び出そうとする力も働いている。内側に向かって中心をえぐるような力と、外へ発散するような力がコマにはある。

「踊るマハラジャ」のダンスは、遠心力を利用して魂を外に放出しているのだろう。一人よりも二人、三人と増えて行き、ある程度の数になるとその力は相乗効果で一層大きくなる。呼吸のリズムが一つになり、意識が一つになったとき、とてつもないパワーが出てくる。これは踊っている当人だけでなく、周りで見ている人にも伝わる。それにあの音楽もいい。ここまで能天気になれるのは突き抜けている証拠なのだ。(笑)

望遠鏡で宇宙を眺めると無限に広がる広大な宇宙が見える。逆に、ミクロの世界に入り込み、原子の中の光景を見ることができるようになったとすれば、そこにも広大な宇宙が現れている。「雪」と「踊るマハラジャ」は、表現方法自体は正反対を向いているようだが、どちらも魂の解放という意味では同じなのだろう。

マジェイア


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