おいしい生活(10)
エッグベネディクト(2)−−その後
きれいに食べるということ
★こちらはエッグベネディクト(1)の続きです。先に(1)をお読みください。ビブリオバトルで食べものの本を紹介することがあります。そのとき、つい話が横道にそれてしまいます。
「どうすれば、きれいに食べられるか」という、いささか余計なうんちくを語ってしまうのです。もっとも、その場では口が裂けても言えないことがあります。
家での食事のとき、私は妻からいつも「もう少しきれいに食べてください」と言われている、という事実です。私としては、家では好きなように食べたいと思っています。
外で人と食事をするときのように、見た目ばかり気にするのは、どうも性に合いません。
味がよければ、それでいいではないか――そんなふうに考えています。そんな私にとって、妙に腑に落ちる話を、以前聞いたことがあります。
ある女性がニューヨークで朝食をとっていたときのことです。
隣のテーブルでは、夫婦と小さな子どもの三人が食事をしていました。
そのとき、夫らしき男性のエッグベネディクトの食べ方が、あまりにも美しかったそうです。
ナイフとフォークの動きは静かで、卵、ソース、マフィンが一体となり、ほとんど崩れません。
思わず見とれてしまうほどだったといいます。翌朝、彼女は同じレストランを訪れました。
すると、昨日の男性が同じ席で、またエッグベネディクトを食べていました。
ただし、今日は一人でした。彼女は、「今日は昨日以上に勉強しよう」と思い、注意深く彼の食べ方を見ていました。
ところが、です。男性は、卵もソースもマフィンも、すべてをぐちゃぐちゃに混ぜ、
それを豪快に切って食べ始めたのです。あまりの違いに驚いて眺めていると、男性も視線に気づいたようでした。
そこで彼女は、思いきって声をかけました。「昨日はとてもきれいに食べていらしたのに、今日はずいぶん違うのですね」
男性はにっこり微笑んで、こう答えたそうです。
「エッグベネディクトは、こうやって食べるのが一番おいしいんですよ。
見た目はあまりよくありませんが、卵とソースが混ざって、そこにハムの塩味がときどき顔を出すんです」少し間をおいて、彼はさらにこう付け加えました。
「ただし、これは一人で食べるときの食べ方なんです。
妻の前では、できませんけどね」この話を聞いたとき、私は妙に納得してしまいました。
私も、外で人と食事をするときは、それなりに気を使っています。
エッグベネディクトも、おそらく“それなり”にきれいに食べているはずです。しかし、いつも家での食事風景を見ている妻からすると、
「外ではきれいに食べている」という私の話は、どうにも信じがたいようです。きれいに食べる作法と、自由に食べる楽しさ。
エッグベネディクトは、その両方を教えてくれる料理なのかもしれません。ただし――
どちらの食べ方を選ぶかは、
「誰と食べているか」、そして誰に見られているかによる、ということのようです。