マジシャン別Very Best集

Slydini's

Knotted Silks

書名 The Magic of Slydini
著者 Lewis Ganson
発行年度 1960年(Unique)

 

1999/4/15


最初に

スライディーニ自身に、好きなマジックは何かとたずねると、決まってあげるものがふたつありました。「ワン・コイン・ルーティン」と、この「ノッティッド・シルク」です。「ワン・コイン・ルーティン」は、たった1枚のコインだけを使って演じるコインの消失・出現現象です。ピュアリストであったスライディーニの感性を満足させるものであったのでしょう。

二つ目がこの「ノッティッド・シルク」です。もしあなたが次のような条件で、マジックを演じるように頼まれたときのことを想像してみてください。1,000人の観客がいる前で、どのような角度から見られても大丈夫で、いかなる状況でもよく、特別な照明なども不要で、助手や大掛かりな道具も使わず、唯一の道具といえばどこにでもある2枚のシルクのハンカチだけでを使って12分間、観客を楽しませ、驚かせること。

この条件がどれだけ大変なことか、少しでもマジックをやっている人であればわかるはずです。今の条件をすべて満たしているのが、スライディーニ自身によって演じられる「ノッティッド・シルク」です。

このマジックのやり方が、初めて公開されたのはルイス・ギャンソンによる上記の本です。しかし、当時は今と違い、ビデオどころか、日本ではやっとテレビが普及し始めた時代のことです。そのため、このトリックを本で読んだとしても、そのおもしろさや不思議さはとても想像できなかったのも無理ありません。私の場合、比較的早い時期に、マイク・スキナーが来日したとき、レクチャーで演じてくれたのを見る機会がありましので、このマジックの優秀さに気がつきましたが、本で読んだだけでは、そのおもしろさ、不思議さはとても想像できなかったでしょう。

現象

現象自体は大変シンプルです。大きく4段からなっていますが、基本的な現象は、2枚のシルクのハンカチをマジシャンと観客がしっかりと結んだのに、まさに魔法のようにほどけてしまうというものです。

観客が2枚のハンカチを結び、しかもハンカチの両端を思い切り力を込めて引っ張って見せてます。結び目は絶対取れないくらい固く、しっかり結ばれていることを見せた直後に、溶けるようにほどけてしまいます。スライディーニの開発した「カンビンシング・ノット」"Convincing Knot"は、その名前のとおり、大変説得力があります。どう見ても、それ以上固く結べないほどしっかりと結んでいるのに、ほどけてしまうのです。2枚のハンカチが破れるのではないかというくらい、左右に強く引っ張っています。

最後に

これに使うハンカチは、実際にはシルクではありません。パラシュート用の生地を使っています。これは薄くて軽い割にも大変丈夫ですので、引っ張っても容易には破れません。また、滑りもよいので、確かにこのマジックに適しています。昔は入手しにくかったのですが、現在は、ハンクリーなど、アメリカのマジックショップに「スライディーニ用のシルク」として頼めば、入手できるはずです。

また昔は、実際にスライディーニからレクチャーを受けると、このシルクも譲ってもらえたのですが、別料金を払って、プライベートにレクチャーを受けた人にだけこっそり教えてくれる秘密がありました。それは2枚のシルクのうち、1枚は色の付いた糸で縁取られているので、結んだ後でもどちらのシルクの端なのか容易に見分けられるようになっていることです。これがないと、何かの拍子に、どちらの端であったのかわからなくなってしまうこともあります。スライディーニが亡くなってから、この秘密も、マジシャンの間に広く知られるようになりましたが、昔はトップシークレットであったことのひとつです。

補足:上記の本以外では、"The Magical World of SLYDINI"(TANNEN MAGIC INC.)でも読めます。

 


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