「もう一度見せて!」と言われたとき

 

 

2000/12/24

このひと月ほどの間に、「サーストンの3原則」に関して、数名の方からメールをいただきました。「サーストンの3原則」というのは以下のようなものです。

原則1.「マジックを演じる前に、現象を説明してはならない」
原則2.「同じマジックを2度繰り返して見せてはならない」
原則3.「種明かしをしてはならない」

メールは「原則2」に関したものです。「原則2」では、「同じマジックを2度繰り返して見せてはならない」 となっていますが、観客から「もう一度やってみせて欲しい」と言われたとき、どのように言って断ればよいのか、という主旨のものです。

マジックがうまく成功して、観客が驚けば驚くほど、「もう一度やってみせて!」と言われるものです。このようなことを言われると、マジシャンもうれしくなり、ついもう一度やってしまうのですが、大抵2度目は失敗します。2度繰り返すことは、「原則2」だけではなく、「原則1」も破っていることになります。まずそのことに気がついてください。三つある原則のうち、二つも破れば失敗する率が高くなって当然です。失敗すれば「原則3」も破ることになります。こうなると、せっかくつい先ほどまで不思議な現象を見て驚いていた観客も、いっぺんにさめてしまいます。マジシャンも、「やらなければよかった」と気がつくのですが、それはあとの祭りです。

話が少しそれますが、マジックが成功したとき、いつでも「もう一度やってみせて!」という声が掛かるわけではありません。このようなことを言われるのは、たいてい一瞬で終わってしまうようなマジックのときです。それなりのルーティンやストーリーがあるマジックでは、このようなことはめったに言われません。例えばフレッド・カップスの「チャイニーズ・コイン・ルーティン」を見せたとき、「もう一度最初からやってみせて」とは言われません。「カップ・アンド・ボール」でも同じです。一般的なコインマジックでもヴァーノンの「チャイニーズ・クラシック」や、カードマジックであれば「袖に通うカード」、「マクドナルドのフォーエース」などクラシックと呼んでよいようなものは、観客の驚きは強烈であっても、もう一回見せてとは言われないものです。これは観客が現象に十分満足しているからでしょう。

言われるのは「カードのカラーチェンジ」やコインの消失現象のように、一瞬にして終わってしまうものか、メンタルマジックで、「心に思っただけのもの」を当てるようなときです。いずれにしてもこのような声が掛かるのは、観客が大変驚いてくれているわけですから、マジックとしては大成功です。なんとかして、大成功のまま終わることがベストです。ところがここで、「もう一回見せて!」という甘いささやきに乗ってしまうと、ぶちこわしになってしまいます。

もう一度見たいという気持ちにさせるほどマジックがうまくいったのですから、そこでぐっと我慢してやめておくと、次回会ったときにまたリクエストがきます。あなたのマジックなんか2度と見たくないと思われるより、また見たいと思ってもらえるほうが100倍くらい幸せなことです。いえ、実際はゼロと無限大くらいの差があるかも知れません。チャーリー・ミラーも言っているように、「観客がもっと見たいと思っているときにやめること」が、またあなたのマジックを見たいと思わせるコツです。そのためのアドバイスが「原則2」でした。

マジックによっては、もう一度見せて欲しいと言われたとき、もう一度見せることでさらに一層不思議さが増すものもありますが、原則としては、2度は絶対にやらないと決めておいたほうが無難です。とくにマジックを始めてまだ日が浅い人はこれを厳守しておいたほうがまちがいありません。

「もう一度やってみせて!」と言われたときの対処方法ですが、何も深刻に悩むことはありません。

「マジックの世界の規則で、2回同じマジックを見せてはいけないことになっているのです」、「このマジックは2回やると都合の悪いことがあるので、一度しかできないのです(ポリポリ)」、「最近一日に2回やるだけの体力がないもので(汗)」とでも言っておけば十分です。観客も普通はそれで納得してくれます。

テーブルホッピングをやっているマジシャンにきいたところ、観客が女性の場合、「あなたのような素敵な方とはぜひもう一度お会いしたいと思っています。そのときこのマジックをもう一度ご覧に入れます」とでも言えば、気分よくあきらめて、それ以上は深く追求されないものだそうです。

どうしても見たいようであれば、似たもので少し違うものを見せればよいでしょう。例えば、"Out of Sight Out of Mind"を見せたとき、もう一度と言われたら、ヴァーノンの「ブレイン・ウエーブ・デック」か「インビジブル・デック」を見せればよいでしょう。このほうが手続きも簡単ですし、演じる側からすればこのほうがずっと楽なのですが、観客にすると最初の"Out of Sight Out of Mind"との相乗効果で、 「ブレイン・ウエーブ・デック」が一層不思議に思えるものです。このような演出が自分でできるようになれば、「サーストンの3原則」に縛られることもありません。しかし初心者の人にとっては、あの3原則は大変実用的かつ実践的なアドバイスですので、厳守するよう心がけてください。

「タネを教えて」と言われたときも同じです。「マジックの世界では、勝手に種明かしすると罰金を取られるのです」とでも言えば、観客もしつこく言わないものです。それでもうるさく言ってくるような観客であれば、それはあなたの責任です。観客の選び方を間違っているのです。

魔法都市の住人 マジェイア


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