観客に手伝ってもらうとき

 

追加:2000/5/17
1999/7/29

クロース・アップ・マジックが中心のマジシャンは、最初から観客と直接話せる位置にいるわけですから、観客にトランプを1枚取ってもらったり、何かを手伝ってもらったりすることに関して苦労することはほとんどありません。しかし、舞台やパーティなどで、客席にいる人に何かを手伝ってもらうとき、前に出てきて手伝って欲しいと頼むのは、意外なくらい難しいことのようです。

客席でゆっくり座ってマジックを見たいと思っているのに、前に呼び出されるのは嫌なものかも知れません。昔は非常識なマジシャンもいました。このようなマジシャンの餌食になった日には、出された観客は気分が良くありません。手伝ってもらう観客に対して身体的特徴をギャグにしてからかったり、何かで笑いものにすることは論外です。このようなことをされたら、その人は勿論のこと、他の客も前に出たらギャグのネタにされると感じれば、誰も出てくれなくなるのは当然のことです。

女性の観客に助手として出てきてもらうのは、大抵のマジシャンが苦労しているようです。ひどいときはいくら頼んでも誰も出て来てくれなくて、それだけで数分も無駄な時間を費やしてしまったという話が、最近読んだマジックの専門誌に載っていました。季刊誌、『ザ・マジック』(Vol.40、東京堂出版)に、プロマジシャンの藤山新太郎氏が若手のマジシャンにアドバイスするという形で「そもそもプロというものは」という読み物を連載しておられます。そこにそのような話が出ていました。

私も実際、何度かそのような場面を目撃しています。デビッド・カッパーフィールドや前田知洋氏のようなマジシャンから誘われたら、喜んで出て来てくれるでしょうが、大抵のマジシャンは苦労しているようです。

頼むだけだと誰も出てきてくれないので、客席に向かって柔らかいスポンジのボールを投げたり、シルクを丸めたものを投げたりして、それを受け取った人に出てきてもらうという方法をとっているマジシャンも見かけます。しかし、これも100%確実と言うわけには行きません。ひどいときは、誰もボールを受け取ってくれず、ただボールだけがむなしく床に転がっているということもあります。こうなると、だんだんと白けてきます。女性の観客に出てきてもらうための特効薬はあるのでしょうか。

昨年の秋、大阪奇術愛好会が開催したクロース・アップ・マジックを見せる会がありました。私は約20年ぶりに、マニアの前でマジックをやりました。やったと言えるようなものはやっていないのですが、それでも観客の90%がマニアというような場所でやるのは20年ぶりくらいです。E.S.P.カードを使った「メンタルもの」ですので、誰か手伝ってもらう必要がありました。参加者は70名くらいの会でしたから、20年ぶりとは言え、半分くらいは懐かしい方々のお顔が並んでいました。そのような方にお願いすれば問題なく手伝ってもらえることはわかっていましたが、折角なので、若い女性に手伝ってもらいたかったのです。最前列を見渡すと、真ん中から少しずれた位置に、男性とカップルで参加してくださっていた若い女性がいました。大変感じの良い方でしたので、あの女性にお願いしようと決めました。

私の出演は2部の2番目でしたので、1部が終わったあとの休憩中にその方のところに行き、助手になって欲しいとお願いしました。助手と言っても、ただカードを選んでもらうだけのことですから大したことはないのですが、それでも前もってお願いしたのです。快く引き受けて頂けましたので、本番のときもE.S.P.カードを5枚選ぶとき、その方に出てきてもらい、無事、マジックは成功しました。

つまり、客席に助手になって欲しいと思うような素敵な方がいれば、事前にお願いしておけば良いのです。私の経験でも、事前に頼んで、嫌だと言われたことは一度もありません。簡単に内容を説明しておけば不安も払拭できます。

『ザ・マジック』(vol.40)で、藤山氏が語っておられた「極意」もこれと同じことでした。観客の中の女性に手伝ってもらいたいと思えば、自分の出番までにその方のところへ行って、直接頼んでおけばよいのです。こうすれば、まず100%引き受けてもらえます。

ちょっとしたことなのですが、このようなことを知っているかどうかで、ショーの流れがまずくなるのを防げます。

あと、手伝ってもらった方には、最後まできちんと御礼を言うのを忘れないでください。その方が席に着くまで、ちゃんとお見送りしてください。もしこのような場面を見ていたら、他の女性に頼んでも、前に出て行くことに不安はなくなりますから、ぶっつけ本番で頼んだとしても、出てきてもらえるはずです。

追加:2000/5/17

今年(2000年)の5月に、ランス・バートンが日本に来ました。そのときショーの途中で観客席に降りてきて、手伝ってもらう人を選ぶ場面が何度かありました。そのようなとき、まずその人のそばに行き、「こんにちは、お名前は何とおっしゃいますか?」とたずね、客が自分の名前を名乗ったら、そこで「ちょっと手伝ってもらえませんか」と切り出していました。

これは何でもないようですが、大変重要なことです。そばに行き、いきなり「手伝ってくれませんか」と言えば、反射的に「ダメです」と拒否されたり、首を横に振られることも少なくありません。最初に簡単な挨拶と、名前をたずねるというコミュニケーションが入るだけで、その後、何かを頼んでも拒否されることが少なくなります。これは簡単に実行できることですから、ぜひやってみてください。

魔法都市の住人 マジェイア

 


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