練習のためのアドバイス(1)

指先に鳥を見る

1997/7/21

カードマジックやコインマジックに限らず、何か新しい技法を練習するときの考え方のひとつを紹介します。

技法には、「フラリッシュ」などに代表されるような、技法そのものを見せる場合もありますが、ここではいわゆる「秘密の動作」、つまり、観客に何かやったと気づかれないようにしなくてはならない技法を練習するときの話です。

このような「シークレット・ムーブ」を練習するとき、まず最初にしなければならないことは、いきりな技法の練習に入るのではなく、ごく普通に、その動作をやってみることが大切です。ところが初心者の人はこの重要性がよく理解できていないのか、また知らないのか、すぐに技法の練習から始めてしまいます。

コインを一枚消す技法だけでも、数え切れないくらいの方法やテクニックがあります。 たとえば、右手に持っているコインをゆっくりと左手の中に入れ、左手でしっかり握ったあと、左手を開けるとコインが消えてしまっているという技法があります。「コイン・バニッシュ」と呼ばれるものです。これを練習するとき、最初は鏡の前で、実際に、ごく普通に右手のコインを左手に入れ握ってみるのです。技法など使わず、本当に右手のコインを左手に入れて、握ってみるのです。この動作を何十回か繰り返してやってみる必要があります。

その際、「両手の動き」「視線」「手の甲や指先が緊張する様子」などを注意深く観察します。それがだいたいわかったら、そこで初めて技法をおこなってみるのです。すると先ほどとはどこかちがう、不自然なところがあることに気がつくはずです。その不自然な部分がどこなのかを見つけ出し、もう一度普通にコインを右手から左手に渡し、握ってみます。技法を使ったときと使わずに普通に握ったときではどこが違うのかを見つけだし、そこを重点的に練習するのです。

いきなり技法からやってしまうと、普段の自分の動きとまったく違うことをやっていても、本人は気が付きません。

初心者の人がマジックを練習して、家族や親しい友人に見せると、すぐにタネがばれてしまう最大の原因がこれです。あなたのことをよく知っている人であればあるほど、普段の動作と違うことをすればすぐに気がつきます。そのため、まず自分自身が意識的に、自分の動作を観察するところから始めなければなりません。

技法を使わずに、繰り返しひとつの動作をやってみて、自分の動きが自分でも納得できてはじめて技法に取りかかってください。ある程度自分でも満足できるまでできるようなったら次のステップに移ります。

次は指先のテクニックではなく、イマジネーション、もしくは「思いこみ」の問題です。

コインを一枚消すだけのことでも、上手な人がおこなうと本当に左手に入れたコインが消えたように見えます。しかし初心者の人がやると、なかなかそうは見えません。技術的には第一のステップで練習したはずですから、もう少し、消えたように見えてもよさそうなのに、なぜ消えたように見えないのでしょう。上手な人とビギナーの差はどこにあるのでしょう。

これはコインを左手に渡したようにみせる動作(フェイクパス)をしたとき、自分自身でも本当に左手にコインがあると思えるかどうかにかかっています。

踊りの世界でも、上手な人が踊りの中で空中を指さすと、指した指先に、鳥や花が見えます。実際には何もないのに、まるでそこに「そのもの」があるかのようなリアリティを感じます。

踊りの初心者が同じことをしてもなかなかそうは見えません。ほとんどの人が師匠から何度も何度もダメを出されても、いったいどこが悪いのかわからず、途方にくれるそうです。首の曲げ方や視線も師匠と同じようにやっているつもりなのに、師匠は"OK"とは言ってくれません。ただ一言、「鳥が見えない」と言うだけです。

指の先に、実際に鳥が見えるようにならない限り、"OK"はもらえないのです。これは首の曲げ方や、腰のひねり方といったようなことではなく、指している当人が、実際に、自分の指先に鳥を見るかどうかにかかっています。自分自身が、本当は指先に鳥などいないと思っている限り、観客がその人の指先に鳥を見ることはありません。

コインを一枚消すのでも同じことです。自分自身が左手にコインがあると思っていないのなら、観客も信じてくれません。

見えない鳥を見るのと同じように、実際はないコインがあると思えたとき、コインは消えてくれます。

魔法都市の住人 マジェイア


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