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card magic designs
カードマジックデザインズ

 2008/12/29
2008/12/30改訂


書 名:card magic designs (カードマジックデザインズ):DVD添付 ハードカバー
著 者:佐藤総
初 版:2008年
発売元:フィールズマジック
ページ数:132ページ
定価:8000円
分 類:Card Magic


最初に

 佐藤総さんの新しい本、card magic designs が出ました。2003年に処女作品集『トランプと悪知恵』が出てから、この5年間に書き溜めていた作品や、当時からマジシャンの間で評判になっていたオイルアンドウォーターの秘密がはじめてあかされています。

 今回の本で特筆すべきはDVDが添付されていることです。購入したら本のページを開く前に、なにはさておいても、まずDVDを御覧になってください。きっと衝撃をうけること間違いありません。

 私はDVDを見た後、解説を読むことを躊躇しました。本気で、読まないでこのまま封印してしまおうかと考えていました。1時間ほど表紙を閉じたり開けたりを繰り返していました。私が表紙をなでながら、ため息ばかりついている姿を見て、高校生の息子が半分あきれ顔で、「いったい、どのくらいすごい本なの?」とたずねてきました。

 「まあ、私がこれまで感動したマジックの本は何冊もあるけれど、この100年くらいの間に出た本、洋書、和書あわせても、これだけ最初から最後まで完璧に引っかけられたマジックが詰まっている本はないよ」というのが、そのとき私がした返事です。大げさと思うかも知れませんが、本当にそれくらい驚きました。

 マジックを見て、不思議さの部分だけを取り出しても、これだけ純粋に感動したものは近年、ありません。マジックの常として、どれだけ不思議だと思っても、タネを知ってしまうとその感激は薄れてしまいます。今さら新しい原理など知らなくてもいいから、このままずっと驚きを維持するには、解説を読まないのが一番だろうと思いました。

 とはいえ、数日後に佐藤さんとお会いする予定になっていましたので、読まないままお会いするのもまずいと思いながら、例のオイルアンドウォーターの秘密を覗くことにしました。「ミミック・ショウ」と佐藤さんが名付けている原理です。

 少し補足しますと、5年ほど前、関西にむちゃくちゃ不思議なオイルアンドウォーターを演じるマジシャンがいるという噂が広がり始めました。それが、今回解説されている「アムニージア」です。このマジックもオイルアンドウォーターと言えなくもないのですが、これとは別に、赤いカードと黒いカードを数枚ずつ交互に混ぜたにもかかわらず、分離するというマジックもありました。むしろこちらがオイルアンドウォーターだと思うのですが、この二つを見た人は、どちらもオイルアンドウォーターと言えなくもないため、世間ではこのあたりのトリックをまとめてオイルアンドウォーターと言っていたようです。

 赤と黒が分離するオイルアンドウォーターは、佐藤さんにうかがったところ、ミミック・ショウとは別の原理で、今回、この本の中には解説されていません。しかし、なんと言っても佐藤さんのマジックにことごとく引っかけられた人達、これはマジックの本やDVDなど数知れないほど見てきたレベルのマニアまでも含めてですが、この人達が驚いた中心になる原理はミミック・ショウを使ったものです。それが解説されているのですから、それだけでもこの本を購入する価値は十分すぎるくらいあると思います。



内容を紹介しましょう

 この本の具体的な内容は、「ミミック・ショウ」を使うものが8点、「視覚的・曲芸的」なものが5点、「スライトレス・メンタル」(あまり技法を使わないものやメンタルマジックのような演出のものという意味です)が4点、前作でも話題になった「ブッシュファイア・トライアンフ」のバージョンアップ版が1点です。

 添付されているDVDにはこのすべてが入っているわけではありません。本だけではわかりにくいもの、現象、技法の両面で実際の動きを見た方がよいものに限り、実演が入っています。

 このDVDを御覧頂く際、私があれこれ書くことはかえって邪魔になると思いますので、現象を詳しく説明することは避けたいと思います。私自身の個人的な好みでは、DVDの最初に収録されている「マジック・スラップ」や、そのあとの「シュリンク・ヴァニッシュ」が特に気に入りました。これは佐藤さんも普段からオープンニングに演じておられるようです。マジシャンだけでなく、一般の人にとっても強烈で、印象的なマジックですので、確かにオープニングには最適だと思います。

 近年、マジックの世界でもハイテクや新素材を使い、これまでのマジックの知識では解決不可能なトリックなども販売されています。確かに現象としての不思議さは大きいのですが、演じたいという気分にはなりません。また、テクニックを売り物にしているマジックもありますが、これも曲芸的な意味で感心はしますが、マジックは曲芸ではないのですから、こちらも私にはあまり興味がありません。佐藤さんのマジックがマニアの心をくすぐるのは、「悪魔的なたくらみ」としか言いようのない巧妙な部分と、適度な指先の修練も必要とするため、練習したいという気持ちにさせてくれる点ではないでしょうか。おまけに「錯視」まで入っています。マジシャンが好きな分野がいろいろと混ざっているため、それが相乗効果として、一層マニアの心をかきたてる要因になっていると思います。

 佐藤さんの才能はマジックの分野ではもう十二分に世間に知れ渡ったと思います。それだけでなく、この本の最後、127ページから書かれている「おわりに/レナート・グリーンの影響/混沌を演出すること」を読むと、佐藤さんがクリエイターとしての才能の他に、評論の分野においても卓越した才能をお持ちだと思いました。

 何もかもひっくるめて、私には最高のクリスマスプレゼントになりました。

最後に

 マジシャンはいつも他人をだましている……、と言うのが語弊があるのなら、楽しませているでもよいのですが、マジシャンの業(ごう)として、当人はその楽しみを大幅にカットされています。

 情報の媒体として印刷物しかなかった時代には、まず最初に自分自身が解説書を読むことでしかそのトリックを知るすべがなかったため、現象よりも先にタネを知ってしまうのがマジシャンの常でした。今でもこれは基本的に同じなのですが、近年、DVDのように軽量で、かさばらないメディアが普及したおかげで、マジシャン自身も本を読む前に現象を見る機会が増えています。マジシャンは人をひっかけることが好きですが、自分自身が引っかけられることも人一倍好きな人種です。何も知らない状態で、新しいマジックを見たいと願っているのは、一般の人以上に強いと思います。

 インターネットの普及で、情報は昔と比べると格段に入手しやくすなりました。それに比例して、非日常であったはすのマジックを見るという機会も日常のレベルに近づきつつあります。こうなると、皮肉なことに情報を意識的に遮断することで、いつか出会えるかも知れない新しい驚きの機会を待つしかありません。今回、ひさしぶりにサイトを更新するにあたり、かなり神経を使いました。また佐藤さんご自身からの依頼でもあったのですが、極力、現象の部分とミミック・ショウという技法を結びつける情報は避けて欲しいと言われていました。そのため、ミミック・ショウというのはどのようなものなのかといったことや、どのマジックに使われているとか、逆に使われていないといったことも最小限に押さえました。

 佐藤さんが少しナーバスなくらい、この原理を秘密にしておきたいとおっしゃっているのは何もご自分がこのトリックを見せるとき見せにくくなるからというよりも、この本を買ってくださった方が初めてDVDを御覧になるとき、できるだけ真っさらな状態で見てもらい、驚いてもらいたいという思いからだと私は想像しています。そのような意味で、情報はできるだけシークレットにしておいて欲しいというのもわかります。

 私も今回、その線に沿って、何度か原稿を書き直しました。しかし、英語のことわざで、「ケーキを食べて、なおかつ残しておくことはできない。"You can't have your cake and eat it."」というのがあるように、そう自分に都合のよいことばかり願っても、無理なこともあります。本として出版したものを、今の時代に、秘密にしておきたいと願うのは、ちょっと無理ではないかと思うのですが、この記事を読んでくださった方は、著者の意向をくんで、できるだけ秘密を守ってあげてください。

 優秀なトリックはいつも例外なくその原理は驚くほどシンプルです。マジックの愛好家はみんなそれなりにサービス精神のある人ばかりですので、なるべく秘密は守ることにしましょう。


魔法都市の住人 マジェイア


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