>Mongolian Clock
My Favorite Tricks

Mongolian Clock

 

1998/9/8

最初に

スライディーニといえばコイン、ペーパーボール、シルク、シガレットなどがあまりにも有名です。この「モンゴリアン・クロック」は、技術的にはセルフワーキングトリックと言ってよいほど簡単です。スライディーニ特有の強烈なミスディレクションも必要ありません。知らなかったら、これがスライディーニの作品だとはとても思えないでしょう。しかし一般の人に見せると、本当に驚きます。大変易しく演じられるため、マニアはつい軽視してしまうでしょうが、私自身はスライディーニの作品群の中で一番実演回数の多いトリックです。

現象

モンゴルでは何世紀もの間、時計を使わずに生活していました。遊牧の生活が中心ですから、私たちのように、1分1秒まで気にしながら暮らす必要もなかったのです。そのため、機械で動く時計は使っていなかったのですが、ある特殊な方法で、おおよその時間を知ることが出来ました。特殊な方法というのはトランプを使うのです。

トランプは今では遊びのためだけにしか使われていませんが、歴史的には占いのために使われていました。星の運行をはじめ、宇宙全体の法則をテーブルの上で再現するための道具でもあったのです。同時にカレンダーの役目も果たしていたのです。

例えばトランプにはハートやダイヤのような赤いトランプと、スペードやクラブのような黒いトランプがあります。これは陰陽、あるいは「昼と夜」を象徴しています。

トランプが4種類のマークからできているのは「春夏秋冬」、4つの季節を表しています。

絵札は全部で何枚あるかわかりますか。J,Q.Kが各4種類ありますから12枚です。これは1年が12ヶ月あることの象徴です。またAからKまで、各マークは13枚でできているのは1年を13ヶ月に分けていた陰暦のなごりです。

さらに、13枚が4種類ありますから、トランプは52枚からできています。これは一年が52週あることの象徴です。

もっと細かく言えば、1年は365日ですね。トランプに印刷されているすべての数を合計すると、J(ジャック)は11,Q(クイーン)は12,K(キング)は13として数えるのですが、すべてを加えると364になります。最後の一日を表すためにジョーカーが加わっています。また閏年(うるうどし)のために、大抵のトランプにはジョーカーがもう一枚入っています。

また4つのマーク、例えばハートであれば「愛」、ダイヤは「富」、クラブは「知恵」、スペードは「死」を表しています。これらを総合して、すべてのトランプには一枚一枚特殊な意味がありますが、その話をすると長くなりますのでここでは省略します。とにかく、トランプには星の運行や、季節の移り変わり表すカレンダーの役目もあったのです。

さらにモンゴルではトランプを使い、時間まで知ることができたのです。私が初めてモンゴルに行ったとき、腕時計の電池が切れて困ったことがありました。モンゴルの大平原には電池を売っているような店もありません。そのとき初めて私はモンゴルの人達が誰一人、腕時計をしていないことに気がつきました。それでたずねてみたのです。すると、鞄からトランプを取り出し、12枚のトランプを円形に並べ、時計の文字盤のようなものを作りました。

 

1時のところにはダイヤのAを、2時のところにはダイヤの2という具合にAから順に12枚のトランプを並べたのです。そして円の中央にはスペードのAを置きました。これが針です。

本当にこのようなもので時間がわかるのかどうか信じられないでしょう。ちょっとその不思議な力を試してみましょう。

心の中で好きな時間を思ってください。ただし、分や秒までは無理ですので、時間だけを思ってください。3時とか10時のように、時間だけを心の中に思い浮かべてください。もし3時なら、ダイヤの3です。時間とトランプの数字は一致していますからわかりますね。思った時刻に、中央のスペードの先を向けてください。ただし、心の中でです。実際にトランプに触れる必要はありません。スペードのエースの先があなたの思った時間の方を向いている場面を思い浮かべてください。

思い浮かべたら、このトランプをすべて集めて、一組の中に戻して切り混ぜてしまいます。(マジシャンがシャッフルする)あなたにもこのトランプを渡しますから、私に見えないようにテーブルの下にでも手を入れて、あなたの思った時間の数だけ、トランプを上から下に回してください。もし思った時間が3時なら、3枚、一組の上から下へ、順に回してください。終わったら私に返してください。

受け取ったら、マジシャンもトランプをテーブルの下に入れ、見ないで、一枚ずつ、テーブルの上にトランプを裏向きのまま出してきて、無造作に放り出して行きます。観客の思ったトランプを探っているような振りで出してくるのですが、なかなか出てきません。十数枚出した辺りで、面倒なので一組全部を裏向きにテーブルの上にばらまきます。さらに両手で麻雀のパイをかき混ぜるように、すべてのトランプをよく混ぜてしまいます。

もう完全にトランプは混ざってしまいました。どこに何のトランプがあるか、まったくわかりません。このような状態でマジシャンは右手の人差し指を伸ばし、テーブルの上方を2,3回、回転させます。おもむろに指を一枚のトランプの上に落とし、そのトランプ以外、他のトランプは隅に寄せてしまいます。観客に思った時間をたずね、指の下のトランプを開けてもらうと、それがまさに先ほど観客が思った時刻を示すトランプです。

コメント

スライディーニの原案では、現象の中で説明した「トランプと暦の話」はありません。あれは私が勝手に付け加えているだけです。(笑) 私はこの話が好きで、"Once in a Blue Moon"を演じるときにもしています。トランプを使った予言の現象等には、この話は合います。ある程度インテリジェンスの高い人なら、興味を持って聞いてくれます。

なお、私がこの種の話を初めて知ったのは、気賀さんの作品集にあった「トランプ物語」からです。これは1972年に、天海賞受賞記念に発行された『気賀康夫作品集』にあります。これに類似した話はいくつかあり、つい最近では、メンタルマジックを専門にやっているBob Cassidyのビデオ、"Mental Miracles"を見ているときにも出てきました。海外では比較的よく知られた話のようです。上の「現象」で紹介した話は、気賀さんの話とボブ・キャシディの話を合成して、私がでっち上げた話です。(笑)

★補足(2004/11/27)

  これはスライディーニのオリジナルは、彼の作品を集めた"THE BEST OF SLYDINI ...AND MORE" (Karl Fulves著、Louis Tannnen, 1976年)にも掲載されていたと思ったのですが、チェックしたところ、見つけることができませんでした。元来、売りネタであったため、書籍には載せていないのかも知れません。

 

魔法都市の住人 マジェイア

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