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Joshua Jay

Six Impossible Things
[解説編]

2024/5/25

製品名:シックス・インポッシブル・シングス[解説編]
出 演:ジョシュア・ジェイ
販売元:scriptmaneuver
価 格:\16,500(税込) 
発売日:2024年4月26日
形式:英語(日本語字幕) DVD
収録時間:237分


[解説編]

最初に

  こちらは先日アップしました"Six Impossible Things"の続きです。もしまだでしたら、先にそちらをお読みください。


内容紹介

 “Six Impossble Things”の[解説編]も見ましたので、こちらも一言触れておきます。

 この「解説編」は、DVD1枚に約4時間収録されています。

 このショーが実際にできるまでにどのようなことが必要だったのか、場所のこと、部屋の改造、マーケティング、演じるマジックについてなど、様々なことが語られています。そして考えられる限りの失敗も数多くしており、その体験談も、実際にこのようなショーをやりたいと思っている方には大変参考になるはずです。

 ジョシュア・ジェイが決まった場所で、一定期間マジックのショーをやりたいと思ったのは10年以上前のことです。当時、ニュー・ヨークで専用劇場を持ち、マジックを見せていたのはスティーブ・コーエンだけだったそうです。スティーブ・コーエンといえばマジシャンとしてよりも、成功したビジネスマンとしての面でもよく知られています。

 数年経つと、ニューヨークだけでも数カ所マジックを見せる場所ができていました。いよいよ自分もやってみたい、それも誰もやっていないもの、今までにない形式のショーをやりたいと思い、試行錯誤を重ねた結果、クロースアップマジックとサロンを中心に、観客参加型のショーにすることになりました。振り返って見ると、これは10年前でもできたことでした。ただ一歩踏み出す勇気がなかっただけです。やりたいことがあるのなら、とにかく最初の一歩を踏み出すことを強調していました。
 しかしこのショーが1年半にも渡って成功したのは、ただ勇気があったからではありません。マジック以外の部分でも入念な準備、調査などがあったからだとわかります。場所のこと、部屋の改造、マーケティング、PR、演出他、様々な分野の専門スタッフが協力しています。

 このDVDではショーで行われたマジックもそのまま観ることもできますが、さらにその解説もあります。とは言え、種明かしがついた一般的なレクチャービデオではなく、ポイントを中心に解説したものになっています。たとえば「チョッブカップ」の手順も、ふつうによく行われている技法などは解説されていません。そのあたりのことは、このDVDを見る人であれば当然知っているものとして、もっと重要なところが詳しく解説されています。

 チョップカップと言えば、多くのマジシャンが自分のレパートリーに入れています。それほど珍しいものではないのに、なぜこれがトリネタなのか、演目を見ただけでは、その理由がわからないでしょう。

 チョップカップのクライマックスといえば一般的には大きなボールなどが出てきて終わりです。しかしジョシュア・ジェイの手順ではボールではなく、様々なものが出現します。このショーで使われた小道具、たとえば時計、デック、そして観客から借りた靴下がここで復活します。靴下が出てきたときは、だれも予想しなかったオチであるため、大爆笑です。さらに最後は、カップから本物のココア(液体)まで現れます。

 ココアが出るところは、私自身完全にひっかかりました。カップは一見したところふつうのマグカップのように見えます。陶器でできた少し大きめのマグカップです。しかしどれだけ特注のチョップカップであっても、前もって液体を仕込んでおけるようなものではありません。ということは、靴下といっしょにロードしたのかと思いました。しかしそれも難しそうです……。
 この解説を聞いて驚きました。あらためてマジシャンの有能な助手、ミス・ディレクションの偉大さを再認識した次第です。個人的にはこのミスディレクションの方法を知っただけで、このDVDの値段の数倍の価値があります。

 その他、ショーで演じたマジックは,マジックをやっている者がみても不思議なものがいろいろあります。それを解説してくれていますので、やってみたい方はぜひこのDVDを御覧ください。
 このDVDはショーやその解説、その他裏話などを含めて4時間もあるため、そのすべてをここで紹介することはできません。以下、私が特に興味を引かれたエピソードをご紹介します。

★ショーが終わり、観客が帰り支度をするとき、観客の一人ひとり、別室でもうひとつ、その人だけにマジックを見せてくれるようです。マンツーマンでジョシュア・ジェイから見せられたら、それだけで感激するはずです。

 この「感激」ということは、このショー全体を通して貫かれています。これがキーワードと言ってもよいほどです。

 一人ひとりにマジックを見せた後、観客に小さなカードがプレゼントされます。一辺が6、7センチくらいの四角いプラスチック製のカードです。これは「モチベーションカード」と呼ばれるもので、ジョシュア・ジェイが毎回、ショーの前に確認する大切なことが3つ書かれています。自分自身のための覚え書きです。「演技前に自分にかけるおまじないだ」と言っています。
 
 書いてある文言はどれも短いものです。解説を聞かなければ何のことか意味不明だと思いますが、それもこのDVDでは解説しています。

 話が逸れますが、これを見たとき、私はホテル、リッツ・カールトンのスタッフがいつも胸ポケットに入れている「クレド」のことを思い出しました。クレドにはリッツ・カールトンのスタッフとしていつも心がけることや、忘れてはならないこと、お客様にどうすれば感動してもらえるか、といったことが書いてあります。
 
 「モットー」としては、「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」とあり、さらに「サービスの3ステップ」、「サービスバリユーズ」(スタッフが心がける12の項目)、「第6のダイヤモンド」(感動体験を生み出すサービスの考え方)などが具体的に書いてあります。どうすれば「満足」をさらに「感動」に変えられるか、ということを常に意識しています。

 話を戻します。
 このショーを公開すると、一般客に混ざって、世界中から大勢のマジシャンが観に来てくれたそうです。韓国、日本、ヨーロッパ、本当に世界中からです。旅の目的を聞くと、「あなたのショーを観るために来た」と言われ、「これはショッキングだった」と語っていました。ジョシュア・ジェイがこのカードをプレゼントするようになった切っ掛けは、この感動とお礼を観に来てくれた人になんとか伝えられないかと考えた結果だそうです。そして先ほどのカードをプレゼントすることになりました。

 カードに記されている「3つの言葉」はDVDを御覧頂くとわかります。

 全部を紹介することは控えますが、三つ目は「初めて観る人、最後に観る人のために演じろ」というものです。これも自分自身への戒めですね。

 この言葉は、大きなホールで演奏するオーケストラのメンバーに、指揮者が言った言葉だそうです。
 今夜の曲目はベートベンの「運命」だと聞かされたある団員が、「またかよー」とつぶやいたとき、指揮者はその人を呼び、カーテンの奥から客席を見せ、「自分のためにも、客席のためにも弾かなくていい。最前列の端に小さな女の子がいるだろう。はじめて「運命」を聞く彼女のために弾け。奥の方に、おばあさんがいるだろう。運命を聴くのが最後かもしれない彼女のために弾け」と言ったそうです。

 自分にとっては何百回演奏したかわからないくらいの曲であり、半分寝ていても弾けると思って弾くのと、この人に喜んでもらいたい、この人に感動を伝えたいと思い、本気で取り組むのでは圧倒的な差があります。
 
 ジョシュア・ジェイのショーは、原則、2回見ることはできないため、ほぼすべての観客は初めて観る人たちです。自分が何百回も演じて、いくら手慣れているものであったとしても、自分自身がはじめて演じるくらいの気持ちで演じることが大切なのだと思います。手を抜いても観客はどうせ素人だし、わからないだろうなどと思っていたら、まちがいなく手ひどいしっぺ返しが返ってきます。
 精神論の話になりましたが、これはいつも意識しておかなければならないことだと思います。

  動画の最後に、協力者の名前が映画のエンドロールのように流れるのですが、いったい何名の名前が出たのか数えきれません。いつまで続くのだと思うくらい出てきます。
 ショーに直接関わったスタッフはおそらく10名くらいだと思いますが、直接、間接を問わず、多くの方の協力がなくては実現できなかったのでしょう。そのような関係者への感謝を込めたエンドロールだと思います。

 全編を通して言えることは観客へのサービス精神です。そしてそれと同じくらいスタッフへの感謝も忘れていません。
 流れるエンドロールを眺めながら、そのようなことを感じました。

 純粋にショーを楽しむだけなら、先に紹介した“Six Impossible Things”で十分ですが、家族や友人、ちょっとしたパーティなどで見せる機会があるのでしたら、プロ、アマを問わず、参考になる部分は数多くありますので、御覧になることをお薦めします。

 

魔法都市の住人 マジェイア


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