Joshua Jay
Six Impossible Things
[解説編]
製品名:シックス・インポッシブル・シングス[解説編]
出 演:ジョシュア・ジェイ
販売元:scriptmaneuver
価 格:¥16,500(税込)
発売日:2024年4月26日
形式:英語(日本語字幕) DVD
収録時間:237分
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[解説編]
最初に
こちらは先日アップしました"Six Impossible Things"の続きです。まだお読みでなければ、先にそちらを御覧いただければと思います。
内容紹介
“Six Impossble Things”の[解説編]も視聴しましたので、こちらについても触れておきます。
この「解説編」は、DVD1枚に約4時間収録されています。
ショーが実際に形になるまでに、どのような準備や工夫が必要だったのか――会場選び、部屋の改造、マーケティング、演じるマジックの選定など、さまざなまテーマが語られます。考えられる限りの失敗も数多く経験しており、その体験談は、実際に同じようなショーをやってみたい方には大変参考になるはずです。
ジョシュア・ジェイが、ひとつの場所で一定期間マジックショーをやりたいと考えたのは、10年以上前のことだそうです。当時、ニュー・ヨークで専用劇場を持ち、継続的にマジックを見せていたのはスティーブ・コーエンだけでした。スティーブ・コーエンといえばマジシャンとしてだけでなく、成功したビジネスマンとしてもよく知られています。
それから数年が経つと、ニューヨークだけでもマジックを見せる場所がいくつも誕生しました。「そろそろ自分もやってみたい。それも、誰もやっていない形のショーをやりたい」と考え、試行錯誤を重ねた結果、クロースアップとサロンを中心にした観客参加型のショーにたどり着きます。振り返ってみれば、これは10年前にもできたことでした。ただ一歩を踏み出す勇気がなかっただけだった、と語っています。やりたいことがあるなら、とにかく最初の一歩を踏み出すこと。その大切さを強調していました。
もっとも、このショーが1年半も続く成功作になったのは、勇気だけのおかげではありません。マジック以外の部分にも、入念な準備と調査があったことがわかります。場所の選定や部屋の改造、マーケティング、PR、演出など、各分野の専門スタッフが協力しているのです。
このDVDでは、ショーで演じられたマジックをそのまま観られるだけでなく、その解説も収録されています。ただし、いわゆる「種明かし付きレクチャー・ビデオ」とは少し違い、ポイントを絞った解説になっています。たとえばチョップカップの手順でも、一般的に知られている基本技法は説明されません。そうした部分は、このDVDを見る人なら当然知っているだろうと前提にして、もっと重要なところ、差がつく部分を詳しく解説してくれます。
チョップカップといえば、多くのマジシャンがレパートリーに入れている、ごくポピュラーな道具です。それにもかかわらず、なぜこのショーではトリネタとして機能しているのか。演目だけ見ていると、その理由はなかなかわかりません。
一般的なチョップカップのクライマックスは、大きなボールなどが出てきて終わるのが定番です。しかしジョシュア・ジェイの手順では、ボールではなく、さまざまな物が出現します。このショーの中で使われた小道具──たとえば時計、デック、そして観客から借りた靴下──が、ここで次々と復活するのです。靴下が現れた瞬間は、だれも予想していなかったオチであるため、客席は大爆笑になります。最後には、カップから本物のココア(液体)まで出現します。
このココアの出現には、私自身すっかりだまされました。カップは一見すると、ごく普通の陶器製のマグカップです。いくら特注のチョップカップとはいえ、あらかじめ液体を仕込んでおけるような構造には見えません。では靴下と一緒にロードしたのか、とも思いましたが、それも簡単ではなさそうです……。
解説を聞いて、ようやく謎が解けました。あらためて「有能な助手」としてのミスディレクションの偉大さを再認識した次第です。個人的には、このミスディレクションの方法を知っただけでも、このDVDの値段の数倍の価値があると感じました。そのほかの演目も、マジックをやっている人間が見ても首をかしげるようなものがいくつもあります。それらについても丁寧に解説してくれますので、「自分でもやってみたい」と思われた方には、ぜひこのDVDをおすすめします。
ショー本編と解説、さらに裏話などを含めて4時間もありますから、ここですべてを紹介することはできません。以下では、私が特に印象に残ったエピソードをいくつか挙げます。★ショーが終わり、観客が帰り支度を始めるとき、ジョシュア・ジェイは観客一人ひとりを別室に招き、その人だけのためにマジックを1つ見せてくれるそうです。マンツーマンで演じてもらえたら、それだけで感激してしまうでしょう。
この「感激」というキーワードは、ショー全体を通して一貫しています。
一人ひとりにマジックを見せたあと、観客には小さなカードがプレゼントされます。一辺6?7センチほどの、四角いプラスチック製のカードです。これは「モチベーションカード」と呼ばれており、ジョシュア・ジェイが毎回ショーの前に確認している大切なことが3つ記されています。自分自身のための覚え書きであり、「演技前に自分にかけるおまじないだ」と説明しています。
そこに書かれている文言は、どれもごく短いものです。解説を聞かなければ意味がつかみにくいのですが、その意図もDVDの中で丁寧に説明されています。
少し話がそれますが、このカードを見たとき、私はホテル「リッツ・カールトン」のスタッフが胸ポケットに入れている「クレド」を思い出しました。クレドには、リッツ・カールトンのスタッフとして常に心がけること、忘れてはならないこと、お客様にどうすれば感動していただけるかといった事柄が書かれています。
「モットー」として「紳士淑女をおもてなしする私たちも、また紳士淑女です」という言葉が掲げられ、そのうえで「サービスの3ステップ」「サービス・バリューズ(スタッフが心がける12の項目)」「第6のダイヤモンド(感動体験を生み出すサービスの考え方)」などが具体的に示されています。どうすれば「満足」をさらに「感動」へと高められるかを、日々意識する仕組みです。
話を戻します。
ショーの公開が始まると、一般のお客さんに混じって、世界中から大勢のマジシャンが観に来てくれたそうです。韓国、日本、ヨーロッパなど、本当に世界各地からです。旅の目的を尋ねると、「あなたのショーを観るために来ました」と言われ、「これはショッキングだった」と彼は語っています。ジョシュア・ジェイがモチベーションカードをプレゼントするようになったきっかけは、その感動と感謝を、何とか観に来てくれた人に伝えたいと考えた結果だったようです。カードに記されている「3つの言葉」は、DVDをご覧いただければわかります。
全部をここで書くのは控えますが、三つ目の言葉は「初めて観る人、最後に観る人のために演じろ」です。これも自分自身への戒めですね。
この言葉は、ある指揮者がオーケストラの団員に語った一言が元になっているそうです。
今夜の曲目がベートーヴェンの「運命」だと知らされた団員の一人が、「またかよ」とつぶやいたとき、指揮者はその人を呼び、カーテンの隙間から客席を見せて言いました。
「自分のためにも、客席全体のためにも弾かなくていい。最前列の端に、小さな女の子がいるだろう。彼女はきょう、初めて『運命』を聴く。あの子のために弾きなさい。奥のほうには、おばあさんがいる。もしかしたら、これが最後の『運命』になるかもしれない。彼女のためにも弾きなさい」と。演奏する側にとっては、何百回と弾いてきたおなじみの曲であっても、「半分寝ていても弾ける」と思って演奏するのと、「この人に喜んでもらいたい。この人に感動を届けたい」と本気で取り組むのとでは、結果に圧倒的な差が出ます。
ジョシュア・ジェイのショーは、原則として同じ人が2回見ることはできません。つまり、ほとんどすべての観客にとって「初めて観るショー」です。自分が何百回も演じて手慣れている演目であったとしても、「きょうが初めてだ」という気持ちで演じることが大切なのだと思います。観客は素人だから、多少手を抜いてもわからないだろう……と考えていれば、いずれ必ず手ひどいしっぺ返しを受けるでしょう。
精神論のようですが、これはマジシャンに限らず、常に意識しておきたい姿勢だと感じました。動画の最後には、協力者の名前が映画のエンドロールのように流れます。その数は数えきれないほどで、「いったいいつまで続くのだろう」と思うほどです。ショーに直接関わったスタッフはおそらく10名ほどだと思いますが、直接・間接を問わず、多くの人の協力がなければ実現できなかったのだとわかります。関係者への感謝を込めたエンドロールだと感じました。
全編を通して言えるのは、観客へのサービス精神の厚さです。そして、それと同じくらい、スタッフへの感謝も忘れていないことです。流れるエンドロールを眺めながら、そのことを強く感じました。
純粋にショーを楽しむだけなら、先に紹介した “Six Impossible Things” だけでも十分満足できますが、家族や友人、ちょっとしたパーティなどでマジックを見せる機会がある方には、この解説編から学べることが数えきれないほどあります。プロ・アマを問わず、ご覧になることをお勧めします。
魔法都市の住人 マジェイア