マジシャン紹介

ラリー・ジェニングス

Larry Jennings (1933-1998)

1998/1/29 記


Larry Jennings Larry Jennings (ラリー・ジェニングス) (1933-1998年)
アメリカのセミ・プロ・マジシャン。若い頃はデトロイトでボイラー技師をやっていました。1954年、近所にプロ・マジシャンのロン・ウィルソンが引っ越してきたのが、ジェニングスのその後の運命を決定的に変えてしまいました。

ロン・ウィルソンは大変優秀なマジシャンで、彼には数多くのマジックを見せてもらい、また教えてもらいました。とりわけポール・カーリの"Out of This World"を初めて見せてもらったときのショックは筆舌に尽くしがたいものであったようです。これですっかりカードマジックに魅せられたのでしょう。
その後も、ロン・ウィルソンにはダイ・ヴァーノンのマジックなどを数多く見せてもらい、すっかりマジックにはまってしまいました。ついには、ヴァーノンがいるカリフォルニアに引っ越し、マジック・キャッスルに常駐していたヴァーノンに直接会いに行き、そこでヴァーノンにも才能を認められました。しばらくしてから、キャッスルにも出演するようになりました。

1969年に、ダイ・ヴァーノンが初めて来日したとき、お供として一緒に来ました。当時は今ほど海外の情報が入らない時代でしたから、ジェニングスのことを知っているマジシャンは日本にはほとんどいなかったのです。ヴァーノンのマジックは、"Vernon Book"や"Stars of Magic"その他の書籍で、日本でもマニアの間ではすでに常識になっていましたので、レクチャーのときもヴァーノンのマジックにはみんなそれほど驚かなかったようです。しかし、一緒にやってきたジェニングスには日本のマジシャンは驚きました。レクチャーが終わった後も、マニアとホテルの一室で、徹夜でミッドナイトセッションをやっていたそうです。当時はまだ30台半ばで、レスラーのようながっしりとした体躯でもあり、体力も有り余っていたのでしょう。ビールをお茶代わりに飲みながら、エンドレスとも思えるような勢いで、数多くのマジックを見せてくれたそうです。たまに失敗すると、"Oh, too much beer".と言いながら、朝までやっていたそうです。この"Too much beer."というセリフは、マニアの間で、失敗したときのギャグになっていました。(笑)
いずれにしても、このとき同席した日本のマジシャンは、彼の見せてくれるマジックにどれほど影響を受けたかわかりません。

ジェニングスのマジックは決して奇異なことをしません。ベースになっているのはスタンダードです。もっともダイ・ヴァーノンという望みうる最高の「生き字引」と毎日暮らしていたのですからクラシックに強くなるのは当然でしょう。また、そうでなければヴァーノンが弟子(student)にするはずもありません。

私は当時のレクチャーには参加していませんが、知人に、このときのレクチャーフィルムを見せてもらいました。このときヴァーノンのレクチャーの合間に演じたものは、彼のオリジナルである「ワンカップルーティン」、「スタック・オブ・クォーター」、ハンカチを広げてもらった上で演じるコインマジック、「オープン・トラベラー」他のカードマジックです。

若い頃の風貌はずいぶんいかつく、パフォーマーとして一般の観客相手にマジックを見せるには、少しこわもてすぎます。実際、ジェニングス本人もマジックを見せることより、関心の大半は創作にあったはずです。

ジェニングスのトリックはそのほとんどを書籍やビデオで知ることができます。

私が個人的に一番好きなのはやはり"Open Travellers"です。マニアであれば誰でも知っている大変有名なトリックです。4枚のエースだけを使って演じるアセンブリー現象です。

それと「ワンカップルーティン」も素晴らしいトリックです。

ポケットからスカーフを取りだし、軽く巻いたままテーブルの上に置きます。ウォンドでスカーフを上からたたくと、金属音がします。スカーフを取り除くと、下から金属のカップがひとつ現れます。後、小さなボールが3つ、大きなボールがひとつ現れ、最後はボールも、カップも消えてしまいます。
大変幻想的で、意外性の連続で構成されおり、見てみる人を飽きさせません。

発表されているカードマジックの数は少なくても5,60はあると思います。そのどれもが驚くほどの完成度の高さです。ヴァーノンなどにもアドバイスを受けながら磨き込んだ作品であることがよくわかります。

ただ、ひとつひとつの作品は素晴らしいのですが、しかし、これを連続してみせられるとダメですね。どれも同じような感じに見えてしまうのです。この「同じような感じに見える」という意味は、マニアは逆にわからないと思います。一般の人からすると同じように見えてしまうのです。

これは研究者、レクチャラーとしては大変優秀なのですが、パフォーマーとしては、いまひとつ未熟であったことも要因のひとつです。しかし、それにまして、カードマジックそのものに内在する弱点だと思います。ジェニングスのマジックを本当に楽しむためには、ひとつだけ見せて、そこでやめることです。そうすれば、どれを演じても、すばらしいものばかりだというのがわかるはずです。

書籍
The Classic Magic of Larry Gennings (L&L,1986,288pp)
Larry Jennings:The Cardwright (L&L,1988, 216pp)
Larry Jennings on Card and Coin Handling (Busby,1977, 67pp)
Larry Jennings' Neo Classics (L&L,1987, 40pp)

ビデオ
Classic Magic (A1 Multimedia Video, 1992, 90分)
Close-Up #1&2, (Pierre Mayer)

関連図書として 『新版:ラリー・ジェニングスのカードマジック入門』 (加藤英夫著 テンヨー)

魔法都市の住人 マジェイア


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