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人を喜ばせるため?

1998/5/20

「人を喜ばせるのが好きだからマジックをやりたい」というメールをもらうことがあります。これは、一見尊いように思えますが、私はマジックを始める動機としては大変危ないと思っています。もし本人が、本気でそう思っているのなら、なお一層危険です。

「人のために」なんて言う大義名分ほど、嫌みで信用できないものはありません。はっきり、「自分のため」とわかっている人のほうがむしろ信用できます。これは何もマジックだけの話でないことはわかるはずです。

誰々のためにとか、他人のために何かをすると言う人がいますが、実際にはいつだって、人が何かをするのは自分のためにやっているにすぎません。口では、「人を喜ばせたいから」と言っている人は、何かをやってあげたとき、相手が喜ばなかったり、感謝してくれないと、逆に不機嫌になります。つまり、人のためと言いながら、実際は、相手からの感謝や賞賛を待っているだけにすぎません。

「人のために」という仮面をつけていると、聞こえはよいのですが、それが本当は「自分のため」であることをわかっていることが肝心です。自分自身の無価値感を克服する手段として、他人を利用しているだけにすぎないのに、それに気がつかないとまずいことになるのです。特に趣味でマジックをやっているアマチュアはこのことをはっきりと意識しておかないと、マジックを見せるたびに自己嫌悪を感じるようになります。人を喜ばせたいからマジックをやると言っていた人が、しばらくするとマジックをやめてしまうことが多いのは、たいていそれが原因です。

素人が道楽でやっていることを見せて、それでなおかつ賞賛を得たいというのは虫が良すぎます。デビッド・カッパーフィールドのあのステージでさえ、1万円も出せば楽しめるのです。彼は、ショーを見せるだけで、年間数十億円稼げる人です。同じマジックと言いながら、そこには月とスッポン、いえ、月と冥王星くらいの距離があります。お金を払っても見たいくらいの芸を、無料で見せてあげられるのでしたら、感謝されるかもしれませんが、マジックでお金を稼ぐことがどれほど大変なことか、あなたも知っているはずです。

アマチュアの場合、タダでマジックを見せて「あげる」のだから、見せてもらう観客は感謝するべきだと思うのは、演者の勝手な思いこみにすぎません。もしあなたが、道楽に徹してマジックをやりたいのなら、むしろ、見てもらえることに感謝するべきです。

昔の旦那衆は、自分がやっている習い事を披露するときは、それなりの場所で、食事からお酒まで準備して、観客を招待したものです。すべて自分の持ち出しです。これくらいの接待をして、自分の芸を見せたら、少々下手であっても、客も気分良くほめてくれます。自分の未熟な芸の力だけで、客を満足させるなんて、おこがましいということをよく自覚していました。

長くマジックをやっていると、私のような素人にもお呼びがかかることがあります。まあ、私にマジックを見せて欲しいと頼んだら、夕食くらいどこかで食わせてもらえることを知っているからでしょうが(笑)、それでも私などは大満足なのです。(汗) ホイホイとどこかのレストランに予約を入れてしまいます。しばらくお呼びがかからないときは、こっちから誘うことにしています。気分良くなりたいときは、それくらいの「接待」は、何ともないでしょう。

大義名分を振りかざすより、「道楽」に徹するのも楽しいものです。

魔法都市の住人 マジェイア

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