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「種明かし番組」について(5)

技法の暴露


2001/9/10


一昨日の夜(2001年9月8日 土曜日、午後7時)、テレビ朝日系列の番組『不思議どっとテレビ。これマジ!?』に、あるマジシャンが出演していました。

最近のテレビでは、「スプーン曲げ」をやる子供や、「超能力者」と称する素人がよく出演しています。このマジシャンも早口で不明瞭な話し方、おどおどした目線などから、てっきり素人か技法オタクのマジックマニアかと思っていたのですが、プロだそうです。

番組の中で、この人はカードマジックの基本技法である「クラシックフォース」や「エスティメーション」、コインマジックの特殊技法「マッスルパス」などを紹介していました。ここ半年ほど、テレビにおける種明かし番組が問題になっていますが、とうとう行き着くところまで行き着いた感じです。

マジックのタネには、道具自体に仕掛けがあるものと、テクニックで行うものがあります。一般の人はマジシャンの間に伝わっているテクニックなど普段見る機会がないため、このような技法を見せると、確かに感心してもらえます。

マジックの中級者レベルの人がよくやることですが、高度な技法を使ったマジックを見せたにもかかわらず、マジック自体は観客に全然うけないことがあります。そのようなとき、自分が裏ではどれだけすごいことをやっているかわかってもらうために、自分がやった技法を取りだし、観客にばらしてしまうことがあるのです。 「これでちょっとはおれのすごさがわかっただろう」とでも言いたいのでしょうが、何とも情けないはなしです。同時に、このようなメンタリティでマジックをやっているのなら、それは観客にも敏感に伝わります。

マジックのマニアが中級くらいになり、難しいことをやっているのに全然うけないので自信をなくし、マジックを見せることがどれほど難しいか、気がつき始めるのもこの頃です。技法はあくまで道具です。道具をもっていることと、それを使って何を作ることができるのかはまったく別の問題です。

また、自分が考案したものでもなく、現在も世界中のマジシャンが使っている技法をテレビのような不特定多数の人が見るところで暴露する権利はこの人にはありません。また、そのようなことが、どれだけ行儀の悪い行為であるのかもわからないのでしょう。

数ヶ月前、日本奇術協会まで巻き込む大きな問題になった「サムタイ」のネタバラシもこの人がやったようです。自分のアイディアでもないものを、よくまあ次々とやってくれるものです。

技法を誇示しないと感心してもらえない人のマジックなどショーとしては悲惨なものですが、「技法」を暴露すると、番組にゲスト出演者していた人もそれなりに感心していました。

言うまでもなく、マジックの技法は元来シークレットムーブ、つまり「秘密の動作」です。マジックはジャグリングでもパズルでもありません。「本物の魔法」のように見えることが理想です。何もしていないのに、不思議な現象が起きないとマジックにはなりません。自分の技術に自信があるのなら、それを使った演技を見せればよいのです。ところがろくな演技もできず、マジックを見せてもうけないから、マジックの世界に伝わっているテクニックを暴露することで観客を驚かすなどというのは本末転倒、言語道断の振る舞いです。

「職人技」ということを自慢したかったようですが、多くの先達が苦心の末完成させた技を、いかにも自分が考案したかのように公開することなど許されることではありません。

それはともかく、番組の最後で、ゲスト出演していた叶美香さんがもらした言葉がすべてを言い表していました。

「器用ですね〜」

マジシャンがマジックを見せたあと言われる感想として、これほど恥ずかしいコメントがあるでしょうか(大爆笑)。

魔法都市の住人 マジェイア


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