ショー&レクチャーレポート


2001/7/23 記


DAVID COPPERFIELD
"PORTAL" JAPAN TOUR 2001


David Copperfield

デビッド・カッパーフィールド大阪公演

日時:2001年7月22日(日曜日)
会場:大阪城ホール

開場:3:30 p.m.
開演:4:30 p.m.

料金:12,000円(アリーナ)


現在、「ポータル」(PORTAL、扉)と題したデビッド・カッパーフィールドの日本公演が開催されています。

大阪公演は昨日(7月22日)で終了しましたが、このあと28日(土)、29日(日)の二日間名古屋で5公演があり、8月1日(水)から14日(火)まで東京で22公演が予定されています。私は昨日、大阪での最終公演を見てきました。

名古屋、東京での公演はこれからですので、個々のマジックについての詳しい現象紹介は避け、全体の感想と印象に残ったマジックについてだけ触れておきます。

1999年に開催された前回のツアー「スーパー・イリュージョン '99 」では、全部で16の演目がありました。今回はカーテンコールまで含めて15です。前回はショーを見終わったあと、「疲れた」というのが正直な感想でした。音が大変大きく、扱う道具も大きなものが多かったため、見ているだけでくたびれてしまったのかも知れません。今回は演目の数で言えばひとつしか減っていないのに、見終わったあと嫌な疲れもなく、ここちよい余韻がありました。

デビッドに限ったことではないのですが、近年、イリュージョンの世界で演じられる出し物が、年々巨大化する傾向にあります。大きな道具を使えば観客に対するインパクトもそれに比例すると思ってのことでしょうが、かならずしもそうとは言えません。今回のショーでは、意味もなく巨大な道具ばかりを並べたてるのではなく、小ネタや、アマチュアの発表会でも演じられるくらいの道具をいくつか使っていたため、比較的落ち着いて見ることができました。

マジックに限らず、何かの芝居やショーでも同じですが、見てから1年も経てば細かい部分に関しては忘れてしまうものです。ランス・バートンやデビッド・カッパーフィールドのショーでも同じです。デビッドのマジックであれば、「フライング」は覚えているでしょうが、それ以外はきれいさっぱり忘れている人も少なくありません。ランス・バートンであれば、記憶に残っているのは「鳩出し」くらいでしょう。マニアは別にしても、一般の人が覚えているのはせいぜいこの程度のことです。

しかし記憶は消えても、消えないものもあります。それは「印象」です。ステージの上に生じる「空気」、それを「吸った」観客の「印象」は、時間が経っても失せることはありません。「印象」は無意識の中に刻み込まれるのか、消えることがないのです。

観客に強い印象を刻み込むことのできる人が、存在感のある人ということなのでしょう。何年か後に、またその人の公演があったとき、行ってみたいと思うかどうかは、この「印象」しだいです。前回「良い印象」「好ましい空気」が刻み込まれていれば、今回も行きたいと思うでしょうが、印象が薄かったり、良くない印象が残っていたりすれば、パスすることになります。

デビッドが20年以上もショービジネスの本場アメリカでトップの座を維持し、世界ツアーを何度も成功させ、年収60億円以上といった、マジシャンとしては破格の収入を得ているのも、すべてこの「印象」を刻み込むことに成功しているからです。

観客は正直なものです。つまらないものにはすぐにそっぽを向きます。おもしろければ高い入場料を払ってでも見に行くものです。

観客に好ましい「印象」を与えるには、マジシャンとしての才能は言うまでもなく、それに加えて人間的な魅力や、カリスマ性も不可欠です。

「イリュージョン」と呼ばれる大がかりなマジックでは、ステージの上にいるマジシャンは実際にはほとんど何もしていません。道具自体の仕掛けと、スタッフの協力で現象を引き起こしていると言っても過言ではありません。とは言え、デビッドの代わりに、他のマジシャンを立てたとしても観客を満足させることは出来ません。マジックの現象そのものは同じであっても、観客は満足しません。

今回私は最前列のほぼ中央という絶好の場所で見ることが出来ました。これだけ近いと、デビッドの目の輝きまで、はっきりと見えました。深い洞察力、意志の強さ、何かをやり遂げようとする人間だけが持っている目の輝き、このようなものが見えたのは一番前の席であったからでしょう。

ステージに備え付けられた巨大なスクリーンには、ハンディカメラで撮ったデビッドの顔のアップが何度も映し出されていました。要所要所で、デビッドの顔が大写しになるのですが、このときのカメラ目線の顔が「完璧」なのです。このあたりが、彼とその他のマジシャンとの最大の違いです。ショーの途中何度も言っていた、「カンペキナニホンゴ」はかなりあやしいものですが、カメラ写りだけはいつアップで撮られても「カンペキ」です。このことからでも、役者としての才能も並はずれたものであるのがわかります。

マジックに限らず、どのようなショーでも至近距離で見るのと、遠くから見るのでは、随分印象は異なるものです。ステージで動いている人の汗が飛び散っているのが見えるくらいの席で見るのと、後方の席で見るのとでは、迫力は全然違います。今回、大阪会場として使用された大阪城ホールは五千名が収容できます。これだけ大きいと、どの席で見るかで、印象に相当な差が出てしまいます。できればなるべく前で見るに越したことはありません。

以前、小野坂東さんは、「好きなマジシャンの演技は客席の一番後ろで見る」とおっしゃっていました。また歌舞伎などでも、”通”の人は二階席や三階席の一番後ろから見るという話もよく聞きますが、これはすでによくわかっている人が楽しむときのひとつの方法です。はじめて見るときや、まだその芸に詳しくない間は、できることならなるべく前で見ることをおすすめします。

今回私の場合、知人が取ってくれた席がたまたま最前列の中央付近という良い席だったのですが、チケットを予約するとき、できることなら「かぶりつき」の席が取れるように頑張ってみると、それなりの価値があるものです。


内容について、少しだけふれておきます。

まず前回と重なっているのは、15のうち「月のカード(Moon)」「テスト・コンディションズ(Test Conditions)」「両手を組み合わせるもの(Thumbs)」くらいです。「フライング」は今回ありません。

★ Moon: Interactive Experience

会場に入る際、「月」が印刷された紙をもらいます。それを使うマジックです。もしこれを実際に体験する前に、マジックの本でタネを読んだとしたら、大抵のマニアは見過ごしてしまうでしょう。「小品」と言ってもよいような、ある意味本当に「ささやかな」マジックなのですが、会場で初めて体験すると、「本物の魔法」としか思えないくらい驚きます。演出の力がどれほど偉大であるかをイヤというほど見せつけられるマジックです。

これは数年前から、デビッドのツアーの中ではずっと演じられています。私も一昨年体験していますので、今回は結果がわかっていることもあり、期待はしていませんでした。しかし二人の観客を使い、徐々に不思議さを高めて行き、最後は会場にいる五千人の観客のうち、9割以上の人が同じ結末を迎えることになるのは、不思議さを越えて感動さえします。

前回、私が一番感激したのもこのマジックです。数百万、数千万円もするような大がかりな道具を使ったマジックよりも、たった一枚の紙で演じられるマジックに人はより一層感動するのですから人の心は不思議です。私が長い間マジックにどっぷりとつかっているのも、このような驚きが尽きないからでしょう。

★Air Coppers"

もうひとつ驚いたのは、観客の指輪が子供の靴ひもに飛行するマジックです。タイトルは"Air Coppers"となっていました。これは「リング・フライト」のヴァリエーションと言えばそれだけのことですが、昨年の7月、something interestingで私が京都の紙屋さんで購入した靴を紹介しました。この靴を使って、"ON FOOT"というマジックのヴァリエーションが作れると触れておきましたが、勿論、リング・フライトにも使えます。それにしても、マジックをやっている人間は同じようなことを考えるものです。

14番目の演目、「ビーチ」が今回の出し物ではメインになっています。ある意味、現象とは直接関係のない部分にまで、随分と凝ったことをやっていました。私はそれなりに楽しめましたが、これについては日本公演が終わった後、追加情報としてここに書くか、「魔法都市日記」で紹介したいと思っています。


この半年ほど、テレビでのマジック番組と言えば種明かしが付きものになっています。おまけに、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が大手を振って跋扈(ばっこ)するようになってきたマジック界の現状にも少々うんざりしていました。

そのようなときに、今回のショーは一服の清涼剤というだけでなく、忘れかけていたマジックの楽しさを蘇らせてくれました。これからマジックをはじめたいと思っている方や、自分ではマジックはしないけれど、一度マジックの楽しさを味わいたいと思っている方は、ぜひこのようなショーに行ってみてください。

最後に、会場で販売されているビデオについて紹介しておきます。

タイトル:デビッド・カッパーフィールド「スーパー・イリュージョン」 15年間の軌跡

定価:4,000円(税込み)
時間:117分 (字幕スーパー)

この15年間に、デビッドが演じてきた代表的なマジックが収録されています。「オリエント急行の謎」「消えた飛行機」「万里の長城抜け」「自由の女神消失」「フライング」「スノー」他、デビッドの子供時代の映像も含まれています。

デビッドのマジックがコンパクトにまとめられていますので、今までデビッド・カッパーフィールドを知らなかった人は勿論、昔からのファンでも十分楽しめるでしょう。

最初にデビッドの挨拶があったあと、オペラのオーヴァチュアー(序曲)のような音楽もあり、凝った演出になっています。デビッドの元(?)彼女、スーパーモデルのクラウディア・シファーが案内役として出演しています。

パンフレットは、今回の日本ツアーのものが2,000円、海外ツアー用の英語版が1,500円で販売されています。トランプ、マウスパッド、携帯のストラップ、Tシャツなどもありました。


公演日程

大阪
7/20(金)−22(日) 5公演
大阪城ホール
S席\12,000 A席\10,000円 B席\8,000 C席\5,000
問い合わせ先:HIP大阪 06-6362-7301

名古屋
7/28(土) -29(日) 5公演
名古屋レインボーホール
S席\12,000 A席\10,000円 B席\8,000 C席\5,000
問い合わせ先:中京テレビ事業 052-957-3333

東京
8/1(水)−14日(火) 22公演
東京国際フォーラム ホールA
S席\12,000 A席\10,000円 B席\8,000 
問い合わせ先:M&Iカンパニー 03-5453-8899

魔法都市の住人 マジェイア


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