ショー&レクチャーレポート

 

前田知洋ライブショー

日時:1997年1月12日
会場:東京・両国「ギャラリーYu」
入場料:3,000円


前田知洋両国の「ギャラリー遊(Yu)」で開催された前田知洋さんのショーに行ってきました。午後4時からの部です。 マジックショーの会場がギャラリーというのは初めての経験です。

会場に着くと、オーナーのような年輩の女性と、男性のマネージャーが迎えてくれました。お二人とも、とても感じの良い方です。

会場がギャラリーというのもとてもお洒落ですが、それにもまして、部屋には自由に飲めるワイン、おつまみ(クッキー、チョコレート、ナッツ等)が置いてあり、マジックが始まるまでワイン片手に展示してある絵を楽しんだり、コーヒーを飲みながら知人と雑談ができたりと、これも大変気が利いています。

私は少し早く着きましたので、ワインをおかわりしていたらすっかり気分良くなってなってしまい、このままではマジックが始まるころには酔っぱらってしまいそうだったので、途中からはコーヒーに切り替えました。
このようなサービスができるのも、入場者の数を30名ほどに限定していたからできたのでしょう。

最前列の席は高さが30センチくらいの低い席で、2列目、3列目が普通の高さ、それより後は立たないと少し見にくいと思います。入場者数を30名までに制限してありますので、どこからでも見にくいということはありません。クロースアップマジックを一度に見ることのできる数としてはこれくらいが限度でしょう。

昨年(96年)の3月、銀座小劇場で前田さんのマジックを見せていただいてから、今の日本で、クロースアップマジシャンとして最高だと思っているのが前田知洋さんです。

銀座のときは、前田さんの出演時間は15分程度であったのと、会場がクロースアップには少し大きいため、純粋なクロースアップというよりパーラーマジックに近いものでした。

そのときが、前田さんの演技を生で見るはじめての経験でしたが、演技者としての実力と才能には驚きました。日本にもこのような人が現れていたのだという驚きです。その後、個人的にも会っていただき、またメールでも何度かやり取りしたことで、前田さんのすごさの秘密も私なりにわかってきました。機会があれば、ぜひもう少しゆっくりと前田さんのマジックを見たいと思っていましたら、このライブショーのことを知り、大阪から日帰りで行ってきました。

昨年一年間で、マジック関係のビデオを市販品、またプライベートな秘蔵ビデオ等を含めて、100本ほど見ることができました。私自身は約10数年間、マニアの世界から遠ざかっていましたので、最近のマジック界、特に若いマジシャンについての知識がごっそり抜けていました。それがビデオのおかげで、一挙にブランクを埋めることできました。

本当にここ10年以上、コンベンションにもレクチャーにも参加していなかったため、日本や世界のマジシャンのレベルがどうなっているのかわからなかったのです。でも、今では確信を持って言えますが、前田さんは、今やクロースアップの世界では日本だけでなく世界的に見てもNo.1ですね。マジックのテクニックの面においても勿論トップなのですが、そのようなことより、トータルで他を圧倒しています。

前田さんのマジック全般の雰囲気は、「知的」、「お洒落」、「ハートウォーミング」、「茶目っ気」といったものがセンスの良さでまとめられています。そして、ひとつひとつのマジックの演出が秀逸です。何々の技法がうまいといったような低次元のレベルの話ではありません。

クロースアップマジックの分野で、古今東西、私が好きなマジシャンのベストスリーをあげるのなら、1.フレッド・カップス 2.ユージン・バーガー、3.マックス・メイビンです。

僭越ながら、勝手に私の好みで点数をつけると、カップスを100としますと、バーガーが80くらい、メイビンが70、4番手以降は、このランクでは50以下です。前田さんは今や、カップスの全盛時代を知っている私としても、彼と肩を並べるところまで来ていると思います。

今年、4年に一度ヨーロッパで開催されるFISMという世界的なマジックがあります。それの国内予選があり、前田さんがクロースアップマジックの部門で日本の代表に選ばれました。これは実力からして当然ですね。FISMの本番でも、順当に行けば、前田さんがクロースアップ部門で優勝でしょう。でも、あのコンベンションはマジシャンばかりの前で演じるコンテストですから、マニアウケしそうな、妙なものが高得点を獲得する可能性があり、その点、どのような評価がされるのか少し気がかりです。審査員がよほどひどくない限り、優勝候補の大本命であることは間違いありません。

ショーのあと、帰りの新幹線の中で、先ほど私があげた、私の好きなマジシャンベストスリーと前田さんに共通しているのは何だろうと、つらつら思いを巡らせてみました。

まず思いつく共通点は、この方々が、知的であること。知的と言っても、別段、マジックの中で何か難しいことをおっしゃるわけではありません。普通に話しておられても、その中にインテリジェンスを感じます。不思議なもので、このようなことは隠そうと思っていてもにじみ出てきてしまうものです。

他は何でしょう。「自信と余裕」でしょうか。だれも私の真似をできないだろうという自信からくる余裕なのでしょうか。

そしてひとつひとつのマジックの演出がどれも洒落ています。
最近、アマチュアの演技で目につくのが、くだらない駄洒落と全然笑えないギャグの連発です。前田さんもマジックの中で、しばしばジョークおっしゃいます。「間」で起こる自然な「笑い」もあります。でもそれらはいずれもセンスの良さを感じさせるものなのです。

見せていただいた個々のマジックを紹介しますと、まだご覧になっていない方の驚きを減らしてしまう可能性があるのでここではいたしませんが、マニアから見ても不思議で楽しいものばかりでした。

さらに前田さんの演技を見ていて感じたことは、「観客が芸人を作る」ということです。ある芸人(マジシャン)が、普段どのような観客の前で演じているかで、演技の質やマジシャンの雰囲気も自ずと決まってきます。
前田さんの演技を見て、あのような演技が成立するからには、普段から、きわめて上質な観客と環境の中で仕事をなさる機会が多いのだろうと想像していました。実際、前田さんからうかがった話では、各国の大使館や、企業・団体等のプライベートクラブのパーティが最近のメインの仕事だそうです。これをうかがって納得できました。

日本では欧米のナイトクラブにあたるような場所はありません。昔のチャニング・ポロック、フレッド・カップス、現在のサルバノ等の超一流の演技を、一般の人が気軽に楽しめ、彼らのすばらしさとマジックの楽しさを感じさせてくれるような場所を見つけることは、今の日本では不可能です。
まして、クロースアップマジックの分野で、前田さんのような演技が可能な仕事場というのは限られていると思います。このような難しい分野から逃げ出さずに、果敢に挑戦し続け、現在のような仕事場を開拓できたのも、結局は前田さんの才能と努力があってのことです。望んでも、他の人に簡単に真似できることではありません。

本物のプロの演技がどのようなものかを知る良い機会ですから、アマチュアの方も、前田さんのライブを見る機会があればぜひ参加してみてください。

ネタを知るためのビデオを何十本見るより、このようなライブを見たら、間違いなくクロースアップマジックのあらまほしき姿がわかるはずです。

もし前田さんにレクチャーをしていただくのであれば、マジックのタネを教えてもらうことなどより、マジックに対する考え方などをうかがうことができれば勉強になります。

でも、あの「質」のレベルは、アマチュアが少々努力して越えられるというようなものではありません。越えられないのですが、私が常々思っていること、つまり、たとえアマチュアでも、自分の得意なフィールドを知り、相手と場所を選べば、自分の実力が十分発揮できるシチュエーションがあるはずです。せめてそのようなフィールドを見つけて、自分自身の楽しみが、誰かとの関係にプラスになるのであれば、アマチュアが趣味でやっているマジックのレベルとしては合格でしょう。

今年は新年早々、このようなものを見せていただけて、とてもラッキーでした。
あらためて、前田さんにお礼を申し上げます。


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