★ピーター・フランクル氏の御言葉1ピーター・フランクル氏が、路上や広場でボールを扱うパフォーマンスを見せ始めたときのことです。
一生懸命練習をして、5個の球から、6個、7個と球の数が増えていき、観衆から「すごいなぁ」と思われたい。これが原動力だった。しかし、実際には球の数がどんどん増えて、7個になっても、基本的には3個で見せた芸の時の反応と大差なかった。3個であっても7個であっても、見ている人にとっては同じものだったのだ。
Peter Frankl (1953-) 『新ニッポン見聞録』ピーター・フランクル(WAVE出版)
ピーター・フランクル氏(Peter Frankl)はマジシャンではありません。ハンガリー出身の数学者であり、大道芸人です。上記の出来事はマジックではありませんが、マジックにもそのまま当てはまることです。マジェイアの蛇足
これは人が驚きを感じるときの心の様子をよく示しています。ボールの数を2倍にしても、観客に2倍の驚きを与えることはできません。
聴覚や視覚でも同じようなことが言えます。例えば、明るさに関して、今の状態より2倍くらい明るいと感じるためには、光量を2倍にしてもだめです。数倍にしてやっと2倍くらいと感じられます。 グラフでいえば、増加関数ではありますが、一次関数のように、直線状には増えて行きません。対数関数に近いのでしょう。
ジャグリングや曲芸などでは、本当に難しい芸はさりげなく見せ、簡単な芸を難しいと感じさせるのが、見せ方のコツであると言われてます。 「難しい芸」は、演者にとって難しいのであって、観客にはそれがどの程度難しいものかはわかりません。それがどれほど難しいものなのかを理解できるのは、実際に練習をしたことのある人だけです。見物人にとっては、パフォーマがどれだけ練習したかといったことはどうでもよいことです。楽しませてくれたらよいのです。
先のボールでも、3個を自由に扱うのは難しいとわかっても、3個ができるのなら、5個だって同じだろうと思われても仕方がありません。と言うことは、逆も可能です。つまり、実際はそれほど難しいものではなくても、演出次第で自分の芸を大変難しいものと感じさせることが可能です。
このあたりの兼ね合いは、プロは身をもって経験していますから強いのでしょう。アマチュアは、つい自分自身にとって習得するのが困難であったものが、観客にも強くアピールすると錯覚しがちです。
棒高跳びで、5メートルのバーを越える人をすごいとは思いますが、跳んだことのない人間にとっては、3メートルだって、4メートルだって同じくらいすごいことです。5メートルを超えた後の5センチの争いなど、バーの上というより、雲の上の話になってしまい、私たちにとっては同じことです。
マジックでも同じようなことがよくあります。
自分は難しいテクニックを駆使したカードやコインのマジックを見せたのに、誰かがやった、「おじぎするハンカチ」のほうが観客に何倍もうけていて、くさってしまったうという経験は、マニアであれば一度や二度はあるでしょう。
マジックでも、テクニックの難しさが観客に与えるインパクトの強さと比例すると思っているマニアが大勢います。しかし、それはマジシャンの勝手な思いこみに過ぎず、観客がどれほど満足するかということとはまったく関係ないということに気づいてい欲しいものです。