★藤山新太郎氏の御言葉

お客はマジシャンが一人勝ちするゲームからさっさと下りて、二度とマジックを見ないよ。

藤山新太郎 (1954->

「そもそもプロと言うものは 7」
『ザ・マジック (No.45)』(2000年秋号、東京堂出版)

マジェイアの蛇足

どのようなマジックでも、それひとつだけを見せてそこでやめると、よほどひどいものでない限り、大抵の観客は驚いてくれます。しかしそれに喜び、その後二つ、三つと続けて見せると、観客の興味は急激に薄れて行きます。マジックを始めたばかりの初心者が、レパートリーが増えてくる中級の入口あたりになる頃、みんな経験することです。ひとつでやめておけばよいものを、三つほど見せただけで観客がしらけて来ることに驚き、人にマジックを見せることに自信をなくしてしまいます。そして徐々にマジックをやらなくなってしまいます。

「マジックってそんなに面白くないの? それとも私に魅力がないのだろうか……」

先の藤山新太郎さんの言葉は、なぜこのようなことになるのかをうまく説明しています。

マジックを三つも見せられたら、誰だってマジシャンの側が圧倒的に優位な立場であり、それを見ている観客は、マジシャンを喜ばせているだけの役割であることに気が付きます。そうです、観客がマジシャンに優越感を与え、マジシャンを楽しませているのです。しかしマジシャンはそのようなことに気が付いていません。

「私は人を喜ばせることが好きだからマジックをやっている」と本気で思っているのであれば、それがとんでもない錯覚であることに気が付かないと、永遠に救われません。このような人は早晩自信をなくして、マジックを人前でやらなくなってしまいます。

ゲームは対等でないとつまらないものです。相手が一人勝ちするとわかっているゲームに好き好んで参加する人などいません。自分が負けるとわかっていても、それで相手の喜ぶ顔が見たいというのなら、よほどそのマジシャンに惚れているのか、サービス精神のかたまりのような人なのでしょう。

マジックは一人勝ちをしなくては成立しない芸なのですが、その「お返し」を観客に与えることができないと、観客はすぐに去って行きます。お返しとは何でしょう。これはとても重要なことです。ぜひ自分で考えてください。

「そもそもプロと言うものは 7」にはそのことにも触れてあります。手短に言うと、10分間観客に見せるのであれば不思議さだけでも何とかなる。30分間見せるのであればマジシャン個人の魅力が必要になってくる。2時間のショーであれば不思議さやマジシャンの魅力だけでも無理で、そこにドラマがないと2時間も観客をひきつけることはできない、というのが藤山新太郎さんがおっしゃっていることです。これは大変わかりやすく、なおかつ奥の深い言葉です。2時間のショーを行うのに、観客が驚きそうな大ネタを並べ立てても観客は飽きてしまいます。びっくり箱は最初の一個は驚いても、そのあとは見る側にも心の準備が出来てしまいますから、そう簡単には驚きません。びっくり箱ばかりを並べても無理なのです。

このようなことも含めて、先の記事には大変含蓄があり、しかも実践的なアドバイスが満載されていますので、ぜひ一読されることをお薦めします。


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