★アルバート・ゴッシュマン氏の御言葉1私はトリックを売っているのではなく、「私」を売っているのです。私自身の「イメージ」を売っているのです。
★アルバート・ゴッシュマン氏の御言葉2
あなた自身がマジックです。
(You are the Magic!)
Albert Goshman (1920-1991)
Magic by Gosh
マジェイアの蛇足ほとんどのアマチュアマジシャンは、自分自身が他人の目にはどのように映っているのか、他人に与える自分の印象がどのようなものなのか、などといったことについてあまり考えたこともないのでしょう。 あなたの「外見」がどのようなものか、また、あなたがこうありたいと願っている自分自身のイメージはどのようなものなのかといったことについて、気にしたこともないでしょう。
私はゴッシュマンの上記の言葉を読んでいて、目から鱗が落ちる思いをしました。商品になるのは個々のマジックではなく、それを演じるマジシャン自身なのです。
上記のふたつは結局同じことを言っていますが、2番目のものはわかり難いと思いますので、少し補足します。
「あなた自身がマジックだ」というのは、ゴッシュマンがハリウッドのマジックキャッスルで働いていたとき、彼と一緒に働いていたジェイ・オースに言われたそうです。
マジックキャッスルで、ゴッシュマンは6年間クロースアップマジックを見せていました。一晩に5回のショーがあり、それが週に6日あります。このペースで6年間ほどやったのですから、ショーの数は一万回くらいになっているはずです。
ここはナイトクラブなので夜遅くまで何度かショータイムがあります。それでもさすがに午前1時から始まる最後のショータイムは、観客が数名しかいないということもたまにあったそうです。ここの決まりで、一人でも観客がいれば、その人のためにマジックをやらなければなりません。何をやるかはマジシャンに任されています。
ある晩、4名しか観客がいないことがありました。ゴッシュマンがいつもやっているフルルーティン、つまり塩やコショウの瓶を使うマジックには2名の助手が必要です。すると残っている観客は2名しかいなくなり、とてもできません。そのため、ゴッシュマンは、それをカットして、簡単なカードマジックやコインマジックを見せたのだそうです。ところが、その人達は演技の後、フルルーティーンをやった場合と同じくらい大変感激し、喜んでくれたのです。
ゴッシュッマンとしては、普段やっているものからすれば、随分と簡単なものでお茶を濁したという心苦しさがあったのに、望外な賛辞を得て、逆にとまどってしまったのでしょう。しかし、このとき、彼はジェイ・オースに言われた言葉,"You are the Magic."の意味がわかったそうです。
観客が喜ぶのは、彼の演じたマジックの内容そのものより、観客が彼と接した時間、その中でゴッシュマンに魅力を感じたから満足してくれたのです。マジシャンが「主」であり、演じるマジックは「従」にすぎません。
彼が自分のショーで使うものは、ごくありふれたトランプ、コイン、スポンジのボール、ビンのふた、塩やコショウのビンといったものにすぎません。 何も特別大がかりな道具など使っていません。それなのに観客は感動し、喜んでくれます。同じような道具を使っているマジシャンは他にいくらでもいるのに、なぜゴッシュマンだけが特別なのでしょう。
それは、客が驚き、喜ぶのは、彼の演じるトリックに対してではなく、ゴッシュマンという人間に対して、驚いたり、感動しているからです。決してトリックそのものではないのだということです。ネタやトリックは、マジシャンのキャラクターをさらけ出すための道具でしかありません。
マニアの多くは、本を読みあさり、マジックショップで新ネタを購入したり、レクチャーやマジックの大会に参加したりして、少しでもウケるネタはないかと追い求めています。それはさしずめ、まだ見ぬ「青い鳥」を求めて歩き回っているチルチルとミチルのようなものかも知れません。しかし、誰がやってもすばらしいといえるようなネタなど、どこにも存在しません。どのような道具を使っても、どのようなトリックを演じたとしても、観客にあたえる印象はすべて「あなた自身」の中から出てきます。あなたのキャラクターがすべてです。 これがゴッシュマンの言っている"You are the Magic."です。
奇術からすこし離れて、他の芸のことを考えてみれば、これは至極当然のことです。 例えば、落語のネタのことを想像してみてください。これをやれば絶対ウケるというネタを求めて走り回っている落語家などいません。ウケるウケないというのは、ネタ自体にあるのではなく、芸人としての自分自身の器量にあることくらい、入門したての噺家でもわかっています。ところがマジックの世界はそうではないのですね。
アマチュアの中には、自分のイメージがどのようなものか考えたこともなく、シリアスな超魔術的演出から「鳩出し」、「南京玉すだれ」、そしてコミックショーや舞台でのイリュージョンまで何でも喜んでこなしている人がいます。様々な役に挑戦するのも悪くないかも知れませんが、自分の演技者としての適性と資質ががどのあたりにあるのか、一度くらいは考えてみてください。悲劇であれ、喜劇であれ、どんな役でもこなせるような役者はそういるものではありません。
みなさんも、一度、じっくりと自分が観客にどのように映っているか、考えてみた らいかがでしょう。