★オリバンダー杖専門店店主の御言葉
杖は持ち主の魔法使いを選ぶ。
オリバンダー杖専門店店主
『ハリー・ポッターと賢者の石』
「お父さんの方はマホガニーの杖が気に入られてな。二十八センチのよくしなる杖じゃった。どれより力があって変身術には最高じゃ。いや、父上が気に入ったと言うたが……実はもちろん、杖の方が持ち主の魔法使いを選ぶのじゃよ」
『ハリー・ポッターと賢者の石』(静山社 J.K.ローリング著 松山佑子訳)
マジェイアの蛇足主人公のハリーがホグワーツ魔法魔術学校に入るため、ダイアゴン横町で入学の道具を買いそろえています。教科書、羊皮紙でできたノート、羽根ペンなどを買ったあと、最後に立ち寄ったのが魔法使いが手に持つ「杖」(Wand)の専門店です。扉には剥がれそうな金色の文字で、
「オリバンダーの店 紀元前382年創業 高級杖メーカー」
と書いてあります。
この店の主人は、過去、誰にどの杖を売ったのか全部記憶しているそうです。ハリーの両親もこの店から杖を購入しました。
ハリーにもピッタリの杖を選んでくれていますが、なかなか見つかりません。ついに山のようにある杖の中から主人が選んだのは、
「柊(ひいらぎ)と不死鳥の羽根、二十八センチ、良質でしなやか」
というものでした。
「あなたがこの杖を持つ運命にあったとは、不思議なことじゃ」
ここでも主人は先と同じ言葉を繰り返します。
「杖は持ち主の魔法使いを選ぶ、そういうことじゃ……。ポッターさん、あなたはきっと偉大なことをなさるにちがいない……」
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ハリー・ポッターの世界だけでなく、私たちでも同じようなことをよく体験します。たとえば書店の中をぶらついているとき、ある本が私に向かって、手にとって欲しいとうったえかけているように感じることがあります。適当にページを繰って、数行読んでみると、それがまさに今自分が気になっていたことの答えであったり、重要なヒントになっていることがあります。
人と人の出会いも不思議ですが、人と物でも同じです。まるで何かに引き寄せられるように、ある人物や品物が自分のところに集まってくることがあります。縁がないときはいくら探しても見つからないのに、何かのきっかけで、向こうのほうからこちらに飛び込んできてくれることがあります。これは必ずしもよいことだけでなく、悪いことでも同じです。
幸福な人の周りにはいつも「幸福の種」が落ちています。不幸な人の周りには「不幸の種」が落ちています。いえ、実際は幸福な人の周りにも、「幸福の種」と「不幸の種」は両方とも等しく落ちています。しかしそのどちらに目がいくか、それがその人の業(ごう)というものです。
杖専門店の主人は、人と物との出会いもそのようなものだと言いたかったのでしょうが、どうなのでしょう。まさに物のほうから私に向かって飛び込んで来たように思えても、実際には無意識のうちに「わたし」がそれを選んでいるのだと思います。ただこのとき、幸福に包まれている人はいつも無意識のうちに幸福の種を拾い集めています。不幸な人は不幸の種ばかり選んでいます。幸福な人には何か特別な才能でもあるのかと思うでしょうが、そのようなものはありません。しいてあげれば、キーワードは「感謝」でしょう。これさえ忘れなければ、いつの間にかあなたの周りには「幸福の種」ばかり集まっていることに気がつくはずです。
ハリー・ポッターにぴったりの杖が飛び込んできたのも、ハリーの求める心が引き寄せたのでしょう。