★ルポール氏の御言葉
現象がわかりやすいこと。それが観客に、「今のは本物の魔法かもしれない」と感じさせる重要なカギである。
Paul Le Paul (1900-1958)
マジェイアの蛇足
ルポールはトランプだけを使い、クロースアップマジックからステージまでこなしていたマジシャンです。今ではちょっと想像できないことです。それが可能であったのは、けた違いの腕の冴えがあったからでしょう。そうでないと、トランプだけで食って行くことなどとてもできません。
上で紹介した言葉は、彼の著書、"THE CARD MAGIC of LE PAUL"(1949年)の第11章、 "Simplicity"(単純さ)と題するページで述べられています。
彼のマジックにおける信念は"Simple is Best."です。ゴテゴテした手続きのマジックを嫌いました。それは「不思議さ」を激減させるからです。
観客が驚くのは、マジシャンが何も怪しげなことをしていないのに、不思議な現象が起きるからです。
タネがわからないのがよいマジックだと思っていると、タネがばれないことを優先させ、現象は二の次になってしまいます。マニアの人からその人のオリジナルだというマジックを見せてもらうと、タネは確かにわからないけれど、現象もよくわからないものがあります。一般の人にはあまり見せないで、見せるといえばその人が所属しているマジッククラブにいるメンバーだけという人が考えたマジックにはこのようなものがよくあります。
とにかく現象が起きるまで、観客にわずらわしいことをさせたり、長く時間のかかるものは極力避けることです。たとえば、取ってもらったトランプを当てるのに観客自身に何度も何度もある規則に従って数を数えてもらったり、綴(つづ)りに合わせて一枚ずつ配ってもらうものがあります。このようなことをさせられると、綴りを間違えないようにと必死になり、注意力がそちらのほうに行ってしまい、たとえそれで最後にトランプが当たったとしても、不思議でもなんでもなくなっています。
「本物の魔法使い」なら、そのような煩雑な手続きをふまなくても、もっとあっさりと当ててくれるはずです。「本物の魔法使いならこんなことをするかな?」と想像してみてください。最優先されなければならないのは、現象のわかりやすさです。 "Simple is Best!"を忘れないでください。マジックを見た後、家に帰ってから家族のものに現象を説明できないようなものは、それだけでよくないマジックだと言ってもよいくらいです。
マジックを見せたとき、観客が、ひょっとしたらこれは本物の魔法を使っているのではないかと想像するのなら、その芸は成功です。マジシャンは自分の起こしている現象がタネによってなのか、手練によってなのか、あるいは本物の魔法によってなのかを言う必要はありませんが、観客が「不思議な力の存在」をイメージするのは自由です。そのようなとき、「現象の単純さ」は大きな力になります。