★マックス・マリニ氏の御言葉1

マダム、「その傷はマリニがつけたものだ」、とおっしゃればよいのです。

Max Malini(1873-1942)

出 典:Malini and His Magic


マジェイアの蛇足

マックス・マリニは背が大変低く、風貌も特徴のある、一見しただけでただ者ではない雰囲気を持ったマジシャンでした。

若い頃はニューヨークの場末の酒場などであまりパッとしないマジックを見せていました。しかし後には上流社会のプライベート・パーティに招かれ、口コミでヨーロッパの社交界や貴族などとも親交を深めていき、大変成功したマジシャンの一人になりました。

マジシャンとしての腕も一級でしたが、それ以上に興味深い言動や逸話が数多く残っています。

上で紹介したセリフは、貴族の家で彼が得意にしているマジックのひとつ、「ブラインドフォールド・カード・スタビング」(Blindfold Card Stabbing)を演じたときのものです。 ざっと説明しますと、4,5名の観客に1枚ずつトランプを取ってもらい、覚えたらそれを含めて全部のトランプをテーブルの上に、裏向きにばらまきます。 マリニは目隠しをしたままテーブルにナイフを突き立て、トランプを突き刺します。このようにして、順に観客のトランプを見つけていきます。

最後の1人のトランプは、思い切りナイフをテーブルに突き刺したままテーブルを前方に傾けます。するとナイフが刺さった1枚だけを残し、すべてのトランプは床に落ちます。おもむろにナイフをテーブルから抜き、ナイフに刺さっているトランプを観客に見せると、それはまさに最後の観客のトランプです。

これをある貴族の屋敷で演じました。そのとき、マジックは大変な喝采を博したものの、そこの家のマダムは驚くと同時に、怒りました。マリニがナイフを突き立てたテーブルは、そこの屋敷に代々伝わる大変貴重なものであったのです。そのことをマリニに告げ、文句を言いました。 抗議されたマリニは平然と、「マダム、『その傷はマリニがつけたものだ』とおっしゃればよいのです」と言ったのです。

「マリニがつけた傷がある」ということで、将来、なお一層このテーブルは価値のあるものになると言い切れる自信。こんなセリフは一介の手品師では言えません。実際、マリニはこう言い切ってしまうことで、マジシャンとしての自分の値打ちも同時に上げることを知っていたのです。

それにしても、貴族の家に代々伝わる家具にナイフ傷を付けて、平然とこう言いきれる自信を持った芸人が現代にいるでしょうか。


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