★小津安二郎氏の御言葉

 

人間はすこしくらい品行は悪くてもよいが、品性は良くなければいけないよ。

小津安二郎 (1903-1963)



マジェイアの蛇足

松竹の映画監督小津安二郎氏が、東宝の社長藤本真澄氏によく言っていた言葉なのだそうです。作家の山口瞳氏は著書『礼儀作法入門』(集英社文庫 1978年)の中でこの言葉を紹介するとともに、さらに次のように書いています。


私は、礼儀作法の要諦(ようたい)はここにあると思う。普通、礼儀作法とは品行のことである。品行は悪くてもいい。礼儀作法は知らなくてもいい。しかし、品性はよくしなくてはいけない。礼儀作法とは品行のことであるけれでも、私は、この問題を考えるときに、できるだけ、品性のほうへ近づけて考えてみたいと思っている。そうして、私自身は、品性の良い人間が品行が悪くなるはずがないと考えているのである。 


この本は1978年に出ています。当時から山口瞳は好きな作家の一人でしたので、出版されてすぐに購入して読んだはずです。すでに20年以上過ぎていますが、そのときから先の言葉は大変印象に残っています。

少々ガラッパチでも、言葉遣いが悪くても、その人の品性がよければ、表面上の粗雑さはほとんど気にならないものです。ただ厄介なのは、「品性」には客観的、絶対的な価値基準がないことです。そのため、どうしても主観的な評価、好みとしかいいようのない部分もあります。私が素敵だと思う人を、別の人は好ましく思わないということも少なくありません。また逆もあります。

世の中には様々な集団がありますが、どのような集団であれ、集まっている人たちの考え方、好みなどは一致しています。それは当然なのですが、これに加えて、品性のレベルもよく似ていると思います。「類は友を呼ぶ」ということわざは、「品性のよく似ている者はおのずと集まる」ということを言っているのかも知れません。

昔、ライプチッヒがダイ・ヴァーノンに言った有名な忠告があります。

「ダイ、私は約50年マジックをやっているが、観客は紳士にだまされるのであれば、悪い気はしないものだ。もし彼らが君をひとりの人間として気に入ってくれたら、君の演じるマジックも気に入ってくれるよ」

芸人が舞台で何かの芸を演じるとき、観客とは一定の距離があります。しかしクロース・アップ・マジックのように、観客の目の前で話しかけたり、手伝ってもらったりするのであれば、芸以上にその芸人そのものの品性が浮き上がってきます。「感じの悪いやつ」と思われたら、もう何を見せても、観客には受け入れてもらえません。

品性を良くする、といったところで、具体的にどうすれば良くなるのかよくわかりませんが、ある種の感受性の有無が大きな要素であることは、間違いありません。これは「マナー講座」や「お嬢様養成講座」のようなところに通ったところで、カバーできるようなものでもありません。何気ない言動にも、その人の人格、品性は出てしまうことに気づけば、それだけでもずいぶん改善されるのではないでしょうか。


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