★デビッド・パー氏の御言葉

洗練された作品というのは急にはできないものです。それは長い時間をかけて、徐々に育ってゆくものです。

David Parr
 

Brain Foodより


マジェイアの蛇足

1998年に出たDavid Parrの本、"Brain Food"には彼自身のマジックが解説されていますが、これを読むと、どのようにして、ごくありふれたトリックをひとつの磨き抜かれた作品にまで仕上げて行くのか、その思考過程がよくわかります。

また彼自身、マジックを演じることを自己表現のひとつとして考えていますので、観客の要求にこびるだけでなく、マジックを演じることで、自分自身を表現することに大変大きなウエイトをおいています。次の彼の言葉も紹介しておきますので、よく味わってください。

「パフォーマーとしての私の仕事は人々を楽しませ、彼らに知的な興奮を与えることですが、それだけではなく、アーティストとしては私自身の創造性を表現する手段としてマジックを演じています」

「マジシャンとしての私の目標は、トリックを磨き抜かれた作品に仕上げること、音楽で言えば洗練された小品(ピース)のようなものを作ることです」

これら三つの言葉からわかるように、昔からある作品や本に載っている作品を、自分のレパートリーにするには少しずつ改良を重ね、自分にあったプレゼンテーションを考え、長い年月をかけて磨き上げてゆくしかないのでしょう。

今の時代、ビデオや本はいくらでも手に入りますから、マジックを始めたばかりの人でもごく短期間で数百から千くらいのマジックのタネを知ることはすぐにできます。しかし、マジックはいくらタネを知っていても、実際にできるものではありません。それらの中から、自分自身のレパートリーになるのはごく一部です。何度かやってみて、自分自身が気に入り、観客からも評判のよいものがあればそれを磨き抜いてゆくことで、徐々にその人の雰囲気とも一体になった作品になってゆきます。ただこれはセンスも重要な問題になりますので、一概に、時間さえかければよいものができるとも言えないのが難しいところです。間違った方向を向いたまま手をくわえても、それでは手を加えればくわえるほどおかしなことになってしまうことも少なくありませんから、信頼できる人に見てもらい、アドバイスを受けることが不可欠です。

自分自身のレパートリーになるのは、盆栽を育てるようなものです。毎日水をやり、余分な部分を切り落とし、これ以上削れないというくらいまでこまめに手入れをする必要があります。アマチュアであれば、そのようなものが二つか三つあれば十分です。タネだけを何千何万知っているよりも、ごく少数でも、先のデビッド・パーの言葉にあるような作品を持っている人のほうが幸せだろうと思います。

なお、デビッド・パーはシカゴ在住のマジシャンです。歳はユージン・バーガーよりだいぶ若いと思いますが、この二人はマジックの考え方やセンスに共通な部分が多く、大変仲のよい友人です。互いに影響しあっているのがわかります。ユージン・バーガーのビデオ、「グルメ」に少し出演していますので、グルメを持っている方ならわかると思います。

Brain Foodという本は、英語が少し難しいかも知れませんが、洋書を読むのがそれほど苦にならないのでしたらぜひお読みになることをお薦めします。紹介されているマジックは、タネを知るより先に、彼が演じるところを見たいと思うようなものばかりです。

Brain Food :ISBN 0-945296-21-5


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