★ダイ・ヴァーノン氏の御言葉1

「自然であれ」。「自然であれ」というのは「あなた自身であれ」ということです。


"Be natural. What I mean by this is "be yourself."

Dai Vernon (1894-1992)

"Dai Vernon Book of Magic"


マジェイアの蛇足

奇術マニアで、ヴァーノンの「ビ・ナチュラル」"Be natural."という有名な言葉を聞いたことがないという人は、まずいないでしょう。

この言葉は"THE VERNON BOOK OF MAGIC"の中にある"Vernon Touch"と題する章の中で述べられています。

「自然であれ」という言葉は人によって様々な解釈があります。なかにはこまかい技術論に主題が移ってしまい、本質的なところが忘れられているようなものもあります。しかしヴァーノンが言いたかったことは、「自然であれというのは、あなた自身であれということです」という言葉に集約されています。

ヴァーノンの"Be natural."という言葉は、常に"Be yourself."、つまり「あなた自身であれ」と対になっています。 ところが、日本では前半の"Be natural."ばかりが先行し、後半の"Be yourself."を知らない人が大勢いるのです。必ずペアで理解してください。

私がマジックを本格的に始めたばかりのころ、"Be natural."と"Be yourself."という言葉を抵抗なく、比較的すんなりと理解できたのは、ある人の演技を見たからかも知れません。と言っても、その人の演技が「自然」であったのではなく、「不自然」であったからです。

あれはまだスライディーニが日本に来たこともなかった頃の話です。ざっと1970年代の初めくらいでしょう。その人は、スライディーニの本を徹底的に研究し、スライディーニの演技を完全にコピーして演じていました。とにかくそのコピーぶりは徹底しており、首の傾く角度から、笑うところまで完全に真似していました。技術的には完璧で、非の打ち所はないのですが、私は彼がスライディーニの演技をするのを見るたびに、お尻のあたりがムズムズしました。

というのは、彼がスライディーニの演技を始めると、まったく違う人格が現れるのです。これは普段の彼を知っていると、何とも耐えられないくらい不気味な光景でした。

彼の考えは、自然であるためには、「その人の演技に出来るだけ近付くこと」が即、自然な演技になるための絶対条件であるというものです。私自身はヴァーノンの「あなた自身であれ」という言葉をそのまま受け取っていましたので、自分らしさが出せたらそれで良いのだと思っていたので、彼の考え方には随分驚きました。

誰かの技法を真似するとき、しっかり真似する部分と、自分の動きに合わせて変えなければならない部分があります。ある人の形態模写をすることが自然な動きになるのではなく、普段の自分自身の動作に近づけることが自然に見えるための第一歩です。

ある技法、たとえば手に何かをパームする必要があるとき、初心者の人がやるとすぐに観客に気づかれてしまうのは、隠しているものが見えるからではなく、緊張が体中から発散し、手も異常なくらいガチガチになっているからです。そのため、観客はその気配だけで怪しいと感じてしまいます。

ある動作が自然に見えるようになるのは、それがあなたの普段の動作になったときですが、それと同時に、メンタルな面でも"Be natural."を維持できるようにしてください。多少は経験も必要ですが、何もそれほど難しいことではありません。繊細さと同時に、厚かましさを同居させればよいだけです。


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