製品情報

 

製品名 シカゴの四つ玉
価 格 3,000円
制作 テンヨー
分 類 四つ玉、パーラー

ビリヤードボール

1998年8月18日


最初に

海外では「ビリヤードボール」、または「増加するビリヤードボール」と呼ばれていますが、日本では昔から「シカゴの四つ玉」という名前で知られてます。扱うボールが、ビリヤードのボールを少し小さくしたものを使ったところから来た名前です。

カーディニーという、ボードビル華やかし頃活躍していたマジシャンがいます。彼がステージで演じていた、タバコ、カード、ボールを使った一連のマニュピュレーションの中で、本物のビリヤードボールを使っていました。ただ、これにはシェルもなく、ボールを指先で転がしてみせるフラリッシュとしてやっていたにすぎません。

シェルを発明して、これをマジックに仕立てのは19世紀に活躍したフランスのボーティエ・ド・コルタと言われています。当初は、ごく簡単な扱いしかなかったのですが、これをネルソン・ダウンやロタバーグがボール3個とシェル1個を使う現在一般的になっている手順にまで発展させました。「シカゴ」という名前がつくのは、ロタバーグがシカゴ出身だからという説があります。

20年くらい前までは、マジックを本格的にやろうとする人なら、ほとんどの人がこの「四つ玉」や「シンブル」を練習したものです。指先のテクニックを使う手練奇術の代表的なものと考えられていました。現在、クロースアップマジックのスペシャリストのように思われている松田道弘氏でさえ、昔は両手に8個のビリヤードボールを取り出す手順をマスターしておられたそうです。

私と「四つ玉」とのつき合いも長く、小学生の頃、祖父から基本的なセットをもらったところからスタートしました。これが、私が初めて手にした「ネタもの」であったかもしれません。祖父はマジックをやっていたわけではなく、昔は歳をとってから指先を使うものをやっていると中風(脳卒中後の後遺症)にならないと思われていたようです。祖父がどこかが買ってきて、指の間で転がしていたのでしょう。せいぜい、ごく簡単な、1個のボールを2個にすることくらいしか出来なかったと思います。それを私がいつのころからもらって遊んでいました。

とにかく、昔はマジックを始めたら、ほとんどの人が一度は練習したものです。ところが最近は全然人気がないようで、マジックショップでも「四つ玉」を置いていない店さえあります。私も「四つ玉」を手にしたのは古いのですが、できるのはせいぜい添付されている解説書に書いてあるような、ごく簡単なものだけです。本気で取り組んだことはありません。

アマチュアのマジッククラブが年に一回開く発表会などでは、「ビリヤードボール」は今でも定番の一つだと思います。しかし、それ以外では誰も演じることのない、まったく人気のないマジックになっています。国内、海外のプロを見渡しても、これをレパートリーに入れているマジシャンはきわめて限られています。これがあまり好まれない理由は、難しくてマスターするのに時間がかかる割には現象が地味で、それほどウケないからでしょう。こんな難しいことをやらなくても、昨今の「超魔術ブーム」ですっかりお馴染みになったメンタルマジックをやっているほうが、一般ウケもしますし、指先のテクニックもほとんど不要ですから、「四つ玉」が敬遠されても無理ありません。

それと、「四つ玉」をやってみたくなるようなよい解説書やビデオがなかったのも大きな理由の一つだと思います。実際、現在入手できる「四つ玉」の専門書はほとんどありません。昔の『奇術研究』、7号、33号に特集がありましたが30年以上前のものですから入手不可能です。加藤英夫氏がマジックバイエルのシリーズとして、『第1巻 四つ玉』を出されたのも25年ほど前のことです。この加藤氏の「四つ玉」は、基本的なセットででき、特殊なテクニックを使わなくても演じることのできる大変すぐれたものでした。最後は1個のボールを空中に投げあげるとシルクになって落ちてきて、それをキャッチして終わります。この本も、もう手に入らないでしょう。東京の荒井晋一氏は、昔からビリヤードボール」が好きでよく演じておられます。氏が個人で出しておられる専門書に"JAZZY BALL"というものがあります。これは荒井氏に直接申し込めば入手可能かもしれません。 日本奇術連盟が教則本のシリーズで、確か「四つ玉」を出していました。これは連盟に直接申し込むか、トリックスなどでも見かけましたから、現在も入手可能でしょう。また大変高度な技法を使うものとしては、天海賞委員会から、フロタさんのものと島田晴夫さんのものがあります。これも現在、入手できるかどうか不明です。とにかく、「四つ玉」「八つ玉」を練習しようにも、適当な入門書も、中級から上級につながる適当な解説書がほとんどないのが実状です。

それと、技術的なことで言えば、上級のレベルになるとよく使われるものに、シェルを複数個使ったダブルシェルの技法があります。ところが、これを実際に練習してみると、とてもできるような技法ではないのです。練習中はできても、ステージなどに立って、そこで安定して扱えるようになるには膨大な練習量が必要です。

今回、ビリヤードボールを紹介する気になったのは、つい先日、アイビデオから出ています島田晴夫さんの『ビリヤードボール』を見て、感激したからです。

島田晴夫

これを見ると、私のような不器用な人間には絶対できないと思っていた、「ダブルシェルの扱い」「1個のボールを片手で4個に増やす技法」が随分簡単にできるのです。1時間ほどビデオを見ながらボールを触っていたら、曲がりなりにもできてしまいました。これらの技法は、「四つ玉」に本気で取り組んだ人が、何ヶ月もかけて練習し、それでもほとんどの人が途中で挫折してきた技法です。ところが、島田さんのオリジナル技法を使うと、これが今までの技法とは比較にならないくらい確実にできます。また、この技法以外にもすばらしい技法が解説されています。今回、「四つ玉」の紹介という形を取っていますが、実際にはこのビデオの紹介と言ってもよいくらいです。

現象

島田さんのフルルーティンは、デビュー当時からすると随分簡略化されていますが、それでもボールやシェルをそれぞれ十数個使いますから、準備が大変です。もし本気で島田さんのルーティンを練習したいのであれば、ぜひビデオをごらんになって研究してください。

ここでは、テンヨーから発売されています、最も一般的なセットで出来るものを紹介します。ただ、これが「四つ玉の定番」とも言えるようなルーティンはありません。ごく基本的な現象は、1個のボールが指の間で2個、3個と増えて行き、最後は4個になります。 途中、ボールが消えたり、服を貫通したりします。ざっとこんなところが一般的なものですが、最後も4個出して終わるものや、すべてのボールが消えて終わるもの、両手にそれぞれ4個出し、8個を持ったまま終わるものなど様々です。

バリエーションも数限りなくあります。増え方で言えば、1個から一挙に4個になったり、途中で白いボールが赤いボールに変わったりします。 テンヨーのボールは、作りはよいのですが、添付されている解説書は、テンヨーの解説書としてはあまりにもお粗末です。ごく簡単なシェルの扱いが書いてあるだけで、ほとんどルーティンになっていません。このあたりにも、これがあまり演じられない理由かも知れません。全面改定版の解説書を作ってほしいものです。

コメント

島田晴夫さんと言えば、最近マジックを始めた人なら「ドラゴン」や「パラソル」をすぐに連想するでしょうが、島田さんがプロとしてデビューしたのはこの「ビリヤードボール」がきっかけです。

今から40年ほど前、まだ中学生くらいであった島田晴夫さんが、偶然、テンヨーの売場で「四つ玉」に興味を持ち、これを購入し、練習したところから始まります。

東京の三越劇場で毎年夏に開かれているテンヨーの大会で、ビリヤードボールを手にしてからわずか数年後に、この「ビリヤードボール」でデビューしました。そのとき初めて島田さんの「四つ玉」を見た人たちは、今までの一般的な「四つ玉」からは考えられないような衝撃を受けたそうです。数分間の演技の中で、ボールは百個以上出たように見え、それまでの「四つ玉」はせいぜい両手いっぱいの8個であったのですから驚くの無理はありません。ボールを捨てても捨てても、出てくる現象に圧倒されたのでしょう。しかも、ただ数が増えるだけでなく、今までなら、1個ずつ順に増やしていたのに、指先で一瞬に1個から4個に増えるテクニックもみんなを驚かせました。この技法は昔からあったことはあったのですが、大変難しく、手に汗をかいたりすると、すぐにボールを落としてしまい、自信を持ってステージで演じることはほとんどできなかったのです。島田さんのルーティンでは、途中、何度かこの現象が出てきますが、いつ見ても安定しています。実際にこの技法を練習したことがある人から見れば、それも驚異的であったはずです。

1961年の三越劇場でのデビューは大成功でした。十代の少年であった島田さんの演技は、その時点でビリヤードボールなら世界的なレベルでもナンバーワンになってしまったのです。そのとき開発した技法が、今回紹介するビデオには詳しく解説されています。勿論、簡単ではありません。どれも相当な練習量が必要なのですが、今までの技法が、いくら練習しても、安定して見せることができなかったのに対し、島田さんの技法では、練習を重ねれば、できるようになるという感触があります。これが一番重要なところです。人は段階を踏んで達成感を味わえるのなら、途中の苦労も苦労とは感じません。練習そのものが楽しくなってきます。しかし、昔の技法では、「賽の河原の石積み」のようなもので、いくら練習を重ねても、永遠に出来そうにないのです。これでは誰だってやる気をなくしてしまいます。島田さんの技法では、その点、練習すれば確実にできるようになると思います。このような技法は、何かにきちんと記録として残しておかないと、そのまま消えてしまいますから、今回のこのビデオはそのような意味でも貴重です。

また、このビデオの中では、聞き手を高木重朗氏が担当しておられます。高木先生は、マジックの講師歴40年以上の方でしたから、一般の人がどこを難しいと感じているか、どの辺りがわかりにくいかを熟知しておられます。そのため、島田さんへの質問も的確です。ポイントとなる部分は何度も実演してもらい、見ている側からすれば、これ以上の教材はありません。

このビデオは1本20,000円ですので、少し高いと思うでしょうが、ビリヤードボールを練習したい人にとっては決して高くありません。時間を大幅に節約できるのですから、本気で取り組みたい人にはタダみたいなものです。また、将来、ステージなどでやる予定がなくても、練習するだけで十分楽しめます。

いくつかのアドバイス

1.「手を洗う」

「四つ玉」の練習前には石鹸で手を洗っておき、途中でも汗をかいたらボールを柔らかい布で拭き、手も洗いに行くか、おしぼりでも用意していおいて、手も拭くことが大切です。終わったときも同じようにボールやシェルを拭いておきます。特に、白いボールを使っているのなら、汗をつけたままにして放っておくと変色してきます。

手が滑りやすい人には二通りあります。一つは汗をかいて、手の油で滑りやすい人と、手にほとんど汗をかかないので、逆に手がカサカサで滑りやすい人もいます。汗をかく人はこまめに洗うのがベストですが、カサカサのタイプは、商品名「メクール」とかいう紙をめくるときに使うものを指に塗るとよいという話も聞いたことがあります。もしくは、塗れたおしぼりを置いておき、それで手に湿り気を与えてもよいと思います。

2.「ボールの選択」

外国では本物のビリヤードボールと同じくらいのボールで演じているマジシャンもいますが、こうなると大きすぎて、指先のテクニックは使えません。日本で一般的なものは直径が40ミリのものでしょう。一部、45ミリも販売されています。昔は「一寸三分」といった尺貫法で作られていたようです。そのため、今のボールと比べてみると、微妙に大きさが違っています。

大きい方が見栄えがしますので、無理なく使え、入手できるのであれば45ミリでもよいのですが、普通は40ミリで十分です。女性や手が小さい人には、35ミリも以前は発売されていました。あまり大きすぎるボールを使うと技法によっては指先の微妙なテクニックが使えなくなりますので、自分の手の大きさと、テクニックに合わせてボールを決めてください。

ボールの色は、普通は「赤」か「白」です。白は、背景やマジシャンの服が黒のときはある程度観客とステージが離れていてもよく見えてよいのですが、背景が黒以外の時は逆に見えにくくなります。また、客席とステージが近い場合、赤はパームしているボールが安全な角度から少々はみ出しても見えないこともありますが、白はすぐに見えてしまいます。 よほど大きな会場でやるのでなければ、赤玉のほうが安全かもしれません。

 

魔法都市の住人 マジェイア


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