書籍紹介

書名 おどろきの発見 (岩波ジュニア新書 330)
著者 松田道弘
出版社 岩波書店
価 格 700円(税別)
発行日 1999年9月
ISBN 4-00-500330-3

1999年9月18日


おどろきの発見松田さんの新しい本が「岩波ジュニア新書」のシリーズから出ました。手品の解説書ではありません。読み物が中心です。

この本を読むと、人が、「驚き、驚かせる」ために、どれほどのエネルギーをそそいできたのか、また、なぜそこまでやりたいのか、そのようなことを様々な題材を用いて紹介してあります。たとえば私が子どもの頃、駄菓子屋で売っていた玩具で、突き刺すと刃の部分が引っ込むナイフがありました。このようなおもちゃのナイフは、元々は中世のヨーロッパで、「魔女裁判」の道具として使われたものなのだそうです。

似たような道具で、五寸釘のようなものが手の甲を完全に貫通しているように見えるものがあります。実際は釘の一部が横にU字形に曲がっています。離れたところから見ると、実際に手の甲を釘が突き抜けているように見えます。

中世、ヨーロッパでは多くの女性が魔女裁判にかけられ、殺されました。魔女かどうかを判断するのに、キリで腕や背中をついて、痛みを感じないような女性がいたらそれは魔女だと判断されて、処刑されたのです。このとき、先のような仕掛けのナイフやキリが使われました。実際の魔女などいないのですから、要は適当な理由さえつけて処刑できればよいのです。気に入らない女性がいたら、魔女かどうかを判断する場所に連れてきて、そこでこのような道具を使って、魔女に仕立てていたのです。そのような理不尽なことをやめさせるために、レジナルド・スコットによって、最古の奇術書といわれる『妖術の開示』"Discovery of Witchcraft"(1584年)が書かれました。キリを突き刺しても痛がらないのはキリに仕掛けがあるからであって、決してその女性が魔女だからではないことを世間に知らせるために書いたのです。

この『おどろきの発見』は、何も全編、このような恐ろしい話ばかりではありません。パズルから腹話術、SF、ミステリー、それにすぐに実演可能なマジックも数種類紹介されています。

それにしても、人間というのは不思議な生き物です。お金を出してまでわざわざ驚きたいのです。マジックショーに行くのもそうでしょう。遊園地にある「絶叫マシーン」や、「バンジー・ジャンプ」もそうです。このようなことは人間以外の生き物では考えられません。これはひとえにイマジネーションの力です。人はイマジネーションの力を知っています。使い方ひとつで、それこそ地球を動かすくらいのことも出来ます。比喩としてではなく、本当に、ある一人の人物が思い浮かべた夢想とも錯乱とも思えるようなことが、数年後、十数年後に地球を動かしてしまうこともあります。

人が何かに感動するとき、そこには必ず驚きがあります。しかし、驚きの中には必ずしも感動があるとは限りません。感動がないような驚きなら、端から驚きたくないという人もいます。しかし、最初から感動する目的で感動を捜しても見つかるものではないでしょう。感動は天恵です。驚くことを捜していたら、何かの拍子に感動もやってきます。人はどのようなときに驚くのか、そしてそのような驚きを起こすメカニズムはどうなっているのか、それがわかれば、何かの役に立つことがあるのかも知れません。とにかく、理屈抜きで驚きたい人は読んでみることをお薦めします。

魔法都市の住人 マジェイア

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