製品情報

製品名

OMNI DECK
オムニ・デック

購入先Hank Lee
原案者 Jerry Andrus & Dunny Korem
価 格 $12.00
分 類 クロースアップ、カード

OMNI DECK

1998年10月20日(2004年2月21日補足を追加)


最初に

「ディレイド・セット・アップ」(Delayed Set-Up)という言葉をを知っていますか?一言でいえば、クライマックスを盛り上げるために、そこにたどり着くまでにさまざまな伏線を張っておいて、最後で一気に不思議さを強調しようというくわだてです。

例えば「赤裏」のトランプで、ごく普通のカードマジックをひとつかふたつ見せておいて、最後に、今まで使っていたトランプがすべて「青裏」になってしまうといった現象などがそうです。つまりかばんから出してきたばかりのトランプで「カラー・チェインジング・デック」(Color Changing Deck)を見せるより、いくつかそのトランプでカードマジックを見せておいてから、最後に今まで使っていたトランプの裏模様をすべて変えるという演出です。

勿論デック・スイッチをおこなえばいつでもできますが、途中でスイッチなしで上記のような現象を実現するのが「ディレイド・セット・アップ」です。実際には最初からネタを仕込んだデックを使っていたのですが、それを気づかせないように他のマジックを演じるのがポイントです。これを使うとマニアでも簡単にひっかかります。というより、ある程度知識のあるマニアほど先入観を持って見ていますから、ひっかかりやすいのです。このようなマジックは1970年代後半、いっとき流行っていました。ディレック・ディングルやジョン・F・メンドーザなども好んでやっていました。

このタイプのマジックが成立するためには、伏線となる現象をしっかり観客がわかってくれる必要があるのですが、実際にやってみると、マジシャンが期待していたほどには観客は注意深く見てくれていません。特に一般の人にこのような伏線を張ってもほとんど気づいてくれません。この種のマジックにひっかかって驚くのはたいていマニアなのです。私も当時はこの手のものが好きでよくやっていましたが、マニアの前でやらなくなってからは、ほとんどすべて、この種のものは私のレパートリーから消えました。ただごく小数ですが、一部残っているものもあります。それがこの「オムニ・デック」です。原案はテキサス在住のアマチュア・マジシャン、ジュリー・アンドラスです。日本にも来たことがあり、帝国ホテルでコンベンションがあったとき、継ぎはぎだらけの服を着て、平気でホテルの中を歩いていましたから、それだけでもちょっと変わっているのがわかるでしょう。でも実際は「変人」というより、素朴な田舎のおじさんといった感じの人です。普段はテキサスにある大きな自分の農場で仕事をしているので、どこに行くのもその格好なのかもしれません。マジックの世界では「安全ピン」を使った「リンキング・ピン」、コインマジックの「マイザーズ・ミラクル」、トランプの超特殊技法「パノラミック・シフト」等の考案者としてもよく知られています。

「オムニ・デック」はこのアンドラスが原案者です。これを商品化し、売り出したのがダニー・コーラムです。10数年位前に売り出し、世界的なベストセラーになりました。現象の意外性という面では飛び抜けていますから、カードマジックの最後に演じるにはよいトリックです。

現象

トランプを一組、テーブルに裏向きのまま一列に広げます。観客に一枚抜いてもらい、覚えてもらいます。マジシャンはサインペンを取り出し、そのトランプの表にサインをしてもらいます。残りのトランプは集めて、マジシャンが手に持っています。サインをしてもらったトランプを一組の中程に押し込みますが、おまじないをかけると、一組の一番上から出てきます。(いわゆるアンビシャスカードの現象です)

これを2、3度繰り返した後、観客に手を出してもらいます。サインをしたトランプを、一組の中程に押し込んだ後、トランプ一組を観客のてのひらに置きます。さらにもう一方の手で上から押さえてもらいます。観客の両手の間に、52枚のトランプがしっかりと挟まれています。

「今からあなたのトランプだけを残して、他のトランプは全部消してしまいます」と説明します。観客にすれば、自分の手の中にあるトランプが消えるなんて信じられないため、半信半疑です。おまじないをかける動作をした後、「消えた感触がありますか?」とたずねてみます。しかしまだ手の中に残っている感触があるので、「いいえ」という返事が返ってきます。そこで、ゆっくりと上の手を取り除いてもらい、調べてもらうと、一番上に先ほどサインをしたトランプがあり、他のトランプは全部「消えて」、上の写真のような、透明なアクリルのかたまりになっています。

コメント

このマジックは意外性があり、観客の驚きもかなりのものなのに、意外なくらいマニアの間では演じられていません。技術的な難しさはたいしてありませんが「ディレイド・セット・アップ」の部分をどう処理するかが難しいのでしょうか。その部分が面倒であればこれだけを単発で演じても十分可能だと思いますが、何かのカードマジックの後に続けたほうが観客の驚きは増えることは間違いありません。

私は面倒なので、「デック・スイッチ」をしています。最初普通のデックで何かカードマジックを見せたあと、デックをすり替えるのですが、ダイ・ヴァーノンがよく使っている方法が便利です。つまりいったんデックをカードケースにしまって、マジックが終わったという雰囲気にします。カードケースをポケットに入れます。テーブルの上を見ると、ジョーカーが一枚残っていることに気がつき、ポケットからもう一度さきほどのデックを取り出し(実際にはこのとき、最初から入れておいた別のデックを出してくる)、ジョーカーをケースに戻そうとして、「あっ、ひとつ思い出しました」という雰囲気でスイッチされたデックで続ける方法です。これも大変すぐれた方法です。このスイッチの原案はエド・マーローであったかもしれません。

しかしオムニデックではアル・ベーカーの方法のほうが適しているでしょう。このあたりのハンドリングや、オムニデック自体のハンドリングも松田道弘氏が東京堂出版から出しておられます『松田道弘のカードマジック』を参照してください。

松田さんがこの本で解説しておられるのは、D.B.カードを1枚使い、ヴァーノンの古典的なアンビシャスカードを2,3回演じる方法です。松田さんの手順ではトップパームが必要ですが、トップパームくらいはできますよね?

おまけのTips

私はさらに、最後の1枚、観客の選んだトランプもスライハンドで消しています。別に難しいことをやっているわけではなく、左の手のひらに一枚だけおいて、右手でカヴァーするとき、左手の親指でキックして、ラッピングするだけです。タイミング良くやると、消えたように見えます。

補足(2004/2/21)

オムニデックを演じる人を見ますと、多くの人がアクリルのかたまりに気づかれないようにという思いからか、デックの扱いが大変ぎこちなくなっています。これはサムチップなどと同じで、自分はすでにその存在を知っているため、気になって仕方がないのですが、観客はデックがすでにすり替わっていることなど知りませんので、相当大胆に扱っても大丈夫です。実際、鏡の前で練習をしてみますと、これがばれるとすれば、意識過剰で手に余計な力が入り、扱いがぎこちないのが最大の要因であることがわかると思います。リラックスして、普通のデックで演じているときと同じようにあつかえば気づかれることはりません。


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