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1998/10/12


"Do-as-I-do"


私の真似をしてごらん

 


"Do as I do"とよばれるカードマジックがあります。日本では、「私のするようにしなさい」、「私の真似をしてごらん」などと訳されています。これは指先のテクニックがまったく不要ですので、初心者でもすぐにできるセルフ・ワーキング・トリックの代表のように扱われています。そして多くのマニアがこのトリックを見過ごしています。

基本的な演出は、トランプを二組使い、マジシャンと観客が同じようなことをすると、偶然にも選ばたトランプも同じものになってしまうという現象です。原理自体は「キー・カード・ローケイション」を使った大変シンプルなものですので、様々なヴァリエイションが考えられます。実際、何人ものマジシャンが独自の方法、演出を発表しています。大変優秀なマジックなのですが、マジックを長くやっている人でも、これが実際に演じられている場面に出会ったことはないと思います。理由は、大抵のマジシャンがこのトリックの優秀性に気がついていないことと、演じるにしても、技術的にはあまりにも簡単であるため、今更マジシャンの前で見せるのには気が引けるからでしょう。

マジックしかし、多くのすぐれたマジックがそうであるように、原理が単純であっても効果は予想外に大きい場合があります。あるトリックが芸として成立するかどうかは、タネではなく演出です。このことを端的に示してくれたのが、今から20年ほど前に見た映画、『マジック』です。この中で、主人公のコーキーが演じる"Do as I do"の演出は出色です。

この映画の原作者でもあり、脚本家であるウイリアム・ゴールドマンは、『明日に向かって撃て』、『大統領の陰謀』、『遠すぎた橋』、『華麗なるヒコーキ野郎』等でよく知られている小説家であり、脚本家ですが、趣味でマジックをやっているアマチュア・マジシャンでもあります。『マジック』の中に出てくるいくつかのトリックについての描写は、大変正確に記述されています。マジックをやっている人なら、映画を見るなり、本を読んでおいても損はありません。翻訳は早川書房から『マジック』として1979年に出ています。この149ページから159ページで、"Do as I do"を演じている場面があります。

★現象

二組のトランプを用意します。観客から借りたトランプでも構いません。裏の模様は、赤裏と青裏、またはまったく違うデザインのものを使った方が混ざりあったりしないのでよいでしょう。

二組のトランプをそれぞれ観客によく切り混ぜてもらいます。好きなほうの組をひとつ選んでもらいます。ここでマジシャンは後ろを向いて、観客が今からおこなう動作を一切見ません。

観客が選んだ組から一枚のトランプを適当に抜き出してもらい、そのトランプをしっかりと覚えてらいます。覚えたら、一組の山の一番上に戻して、トランプをカットしてもらいます。カットというのは、トランプの上半分を適当に持ち上げ、いったん右に置いて、残っている下半分を今置いた上半分に重ねる動作です。これで、観客が覚えたトランプは一組の中程に行きました。何なら、この動作を、後、数回繰り返しても構いません。観客自身、自分の覚えたトランプがどこに行ってしまったかわからないくらいカットしてもらっても構いません。最後にトランプをよく揃えてもらいます。

ここでマジシャンは観客の方に向き直ります。観客が覚えたトランプが入っている組を受け取ります。もう一組、先ほどから残っているトランプを観客に手渡し、今覚えたトランプと同じものをこっちの山から抜き出してもらいます。この間、マジシャンには絶対見せないよう、気を付けて抜き出してもらいます。部屋の隅に行って誰にも見られないような状態でおこなっても構いません。とにかく先ほど自分が覚えたのと同じトランプを抜き出したら、表が見えないようにして、そのトランプだけを手に持ってもらいます。

ここで一度、今までおこなったことを確認します。
トランプを二組、観客自身によく切り混ぜてもらい、マジシャンが後ろを向いている間に一枚抜き出し、覚えてから、また一組の中に戻し、カットしました。この観客が何のトランプを覚えたのかを知っているのはこの観客以外、誰もいません。そして今、観客は自分が覚えたのと同じトランプを別のトランプから抜き出し、手にしっかり持っています。そこまで確認したら続けます。

心の中で、覚えたトランプを強くイメージしてもらいます。はっきりと、色、マーク、数字などを思い浮かべてもらいます。最後に、そのトランプ全体を頭の中にイメージしてもらいます。一切、言葉は不要です。何も喋ってはいけません。

マジシャンは観客から送られてくるイメージを必死でキャッチします。だんだん、それがはっきりしてきたようです。テーブルの上に残っているトランプから、観客がイメージしているトランプと同じものを抜き出し、裏向きのままテーブルに伏せて置きます。

観客に、手に持っているトランプをテーブルの上に出してもらいます。それが「ハートの10」であったとします。マジシャンがテーブルの上に伏せて置いたトランプを観客に表向きにしてもらいます。すると、それも「ハートの10」です。

★コメント

最初に言ったように、これはまったく技術不要の易しいカードマジックです。しかし、演出ひとつで超一級のメンタルマジックになってしまうことがわかると思います。

マジックのタネは素材に過ぎません。料理の素材と同じです。それをどのように料理し、どのような雰囲気の場所で、どのような食器に盛りつけて出すかで、誰に出すかで、まったく変わってきます。

★追加のコメント

上で紹介した演出では、必ずしも"Do as I do"という名前と現象が一致しませんが、不思議さという面ではこのほうがずっと不思議な印象を与えます。

実は、この"Do as I do"は以前から紹介しようと思いながら忘れていました。今朝起きて、毎日何度か訪問する、映画に詳しい方のサイトに行ったら、『マジック』について触れてくれていましたので、思い出した次第です。Thanks>H.Y.さん


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