2003.07.05 K.Kotani>
アニメーション教育に思う
毎月読める日本で唯一の自主アニメ情報誌
月刊近メ像インターネット
2003年7月05日
アニメーション教育に思う
東京では東京工芸大学でいよいよアニメーション学科がスタート、京都でも京都造形芸術大学で通信過程でアニメーション科が作られるなど、アニメーションの教育はますます充実してきました。また、テレビの巨人戦ではしばしば「代々木アニメ学院」の球場の広告が映るなど、アニメーションの教育はいまや一大産業になりつつあります。
この盛況を反映して、各種の上映会には新進の作家が次々登場し、また、急増する需要に講師が追い付かず、作家が次々にかり出されて教壇に立っています。
ところが、一部(あるいは大部分?)の学生の間に、「アニメーションを勉強してアニメーション作家になるとアニメーション作品を制作してメシが食える」という「幻想」のようなものがあるようです。
確かに、アニメーション作家というものはあり、アニメーション作品を制作するかたわら、当然生活をしているわけですが、収入をアニメーション作品から得ているという人は非常に少ないのです。
大体日本アニメーション協会会長・数々のフェスティバルで受賞を重ね、作品の大半がビデオ・LD・DVD化されている川本喜八郎氏ですら、生活は人形制作でまかなわれていて、アニメーション作品の製作費は別に稼いで作品に注ぎこんでいたり、新作のように一口10000円のサポーターを募って製作費を集めている状態です。
また、上記のような形で学校の講師としてアニメーションを教えて収入を得ている人も少なくありません。
最近の例外としては、「頭山」でアヌシーのグランプリをとったやまむら浩二氏がありますが、やまむら氏は作品を制作してNHKその他に納入し、それで得た収入をもとに「頭山」を自主制作で作っているわけで、「自分の作品」で収入を得ているとは言いがたい部分があります。もちろんNHKなどで放映されている作品が高く評価されているという事実はありますが、よほどの事がないかぎり放送用の作品は制作する上で一定の妥協はせねばならず、純粋に自分の創作意欲に忠実に作っているとは言いにくいと思います。氏のアマチュア時代の諸作品とプロになってからの作品ははっきりと「わかりやすく、毒気がない」という点で違っていると言えます。
また、「ほしのこえ」で大ヒットして巨額の印税を得たという新海誠氏の場合も、「作品としては同時収録された「彼女と彼女の猫」の方が良い」「作品自体よりも、メーキング部分が欲しくてDVDを買った人が多い」と言う声もあり、となるとDVDの購入者の多くが将来の作家志望の若者と言うことになってしまい、「深海さんの作品が好きで欲しくて買った」という人は少ないという事になると、「作品を制作してそれで収入を得て生活する」という姿とは少し違うかもしれません。また、作品自体としても、「ほしのこえ」は「ほとんど一人で作った」という点をのぞいて、一本の作品としてみた場合、手法的にも内容的にも従来のプロで作られているセルのOVAの作品群との差があまりありません。
もともと芸術系の大学で「卒業後作家として生活できる」人は非常に少なく、音楽大学などはほとんど卒業後即失業者またはフリーター状態になるか、花嫁修行としてのお稽古事のごついものとしての進学であったり、卒業後ピアノ教室の講師になったりして生活している人も多いのですが、また、世間でもそういうものとしての認識があるわけですから、「音大に進んで演奏家として生活する」という事ができなくても問題はないようです。文学部を出て作家になる人がほとんどいないように。
または、映像関係は映像関係でちゃんと産業があり、CM制作やプロモーションビデオ制作、番組制作の下請けなど技術者としての需要はちゃんとあり、きちんとした技術さえ身につけていれば就職して生活する事は(大変なものではありますが)可能です。ただし、自分の作品制作とは程遠いものではあります。また、それで得られる収入と言うものが、芸大の学費などと比較して少ないという事実があります。
また、「作家」としてCMなどの受注作品を制作する方もありますが、そういうレベルに達する為には、少なくとも大学在学中または卒業後2-3年の内に国際レベルのフェスティバルなどで入賞せめて入選する程度の実績を残さねばなりません。そういう方はごく少数である事を考えれば「17-18才で作品づくりを初めて、22-3才になるとほとんどの人が作品作りをやめてしまう」という現状は、自分の実力がわかって「作家」として生活できないと悟った時にやめてしまうという事でしょうか。
どちらかというと「ギョーカイ」に就職してアート的な仕事に携わって楽しくカッコよく生活したい、今はアニメーションがおしゃれらしいという事で入ってこられた方はその方がよいかもしれません。
最近は「アートアニメーション」という言葉が定着し、上映会にも多数の入場がありますが、「いつかはこの上映会が拡大して、生活を支えるに足る売り上げがあがる。」事を期待しているのであれば、現状ではまずそれは考えにくいでしょう。
アニメーションの教育が充実する事は素晴らしく、制作者の幅が広がる事は全体のレベルの底上げにつながるのは間違いないのですが、この「アニメを作って生活できる」という幻想が消えた時、下手をするとこの「バブル」がはじけてしまうかもしれません。
kotani@mx1.nisiq.net