<2003.07.21 K.Kotani>フィルムとビデオ


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月刊近メ像インターネット


2003年7月21日

フィルムとビデオ



 現在、個人制作のアニメーションの大半はビデオで制作されています。といってもビデオカメラで直にコマ撮りしている人は少なく、大半の人はコンピュータを用いて映像を制作し、それをビデオに出力するという形を取っています。

 しかし、現在でもフィルムを使用して制作している人も少数ながら存在します。16ミリと8ミリがどの程度の比率なのか分かりませんが、現在では16ミリがフィルムの中では多数となっている様です。

 昔はアマチュアが映像を制作する方法は8ミリ以外の選択肢はありませんでした。16ミリは高根の花(現在でもそうですが)個人用に使えるビデオカメラは存在しませんでした。多くの人が8ミリフィルムを用いての映像表現にチャレンジし、ありとあらゆるバリエーションが試されました。フィルム直描き、人間コマ撮り、多重撮影、シネスコ、複数映写機の同調映写など、当時の専門誌の技術記事などは使用しない者にとっても中々楽しいものでした。

 1985年の広島フェスティバルは8ミリから16ミリへの大きな転機となりました。8ミリフィルムで制作した作品は出品応募すらできないのですから。また、当時8ミリの主要な機材の生産が終わりを告げた事もあるでしょう。

 そのあたりからビデオ機材は急速に充実を続け、コマ撮りのできるカメラもぼちぼち出現していましたが、民生用としてはともかく作品製作用としては不十分な機能のものでした。アマチュアは乏しい8ミリ機材で制作を続けるか、思いきって16ミリに進出するかという選択を迫られました。

 こうして自主制作アニメーションは、一時、機材的な問題による縮小を余儀無くされました。そして、コンピュータの飛躍的な性能向上と低価格化、観賞に耐える高画質の実現により、ふたたび多数の人々がアニメーション制作に算入して今日に至ります。

 こうして入ってきた人々は最初からビデオによる作品制作しか知りませんから、「ビデオかフィルムか」という二者択一をしてきたわけではありません。しかしながら、たとえば学校でアニメーションを学ぶ人にとっては、教える立場の人がかってはフィルムで制作をしていたわけですから、フィルムを選択する可能性もありますし、現に選択している人も少数ながらいます。

 フィルムとビデオの違いは、よく「CD」と「LP」に例えられますが、メディアの関係としては、むしろ「LP」と「カセットテープ」の関係に近いと考えられます。8ミリビデオやVHSはデータがデジタル化されているわけではありません。

 フィルムとビデオの本質的違いは、フィルムとCCDの差にあります。人間の眼は非常に高性能で、明暗の範囲を非常に広く感じ取る事ができます。フィルムの能力は肉眼の約半分、CCDはさらに約その半分と言われています。つまり、人間の眼が0-10までの明暗差を見分ける事ができるのであれば、フィルムで撮影した場合は4-8までの範囲しか表現できず、0-3までは真っ黒、9-10は真っ白になるわけです。CCDの場合はさらに5-7までの範囲しか表現できず、0-4までは真っ黒、8-10は真っ白になるわけです。天気のよい日に撮影したビデオで人間の顔の光の当たった部分が白く飛んでしまったり、また、暗い室内でデジカメでストロボ撮影した場合に、ストロボの光のあたっている部分は写っているが、背景は真っ黒になるという現象はこの結果と思われます。ただしこれも放送用のカメラに使われている高性能のものでは克服されており、ミュージシャンのビデオクリップの本編ではきれいに写っていた歌手の顔が、家庭用のカメラで撮影されたと思われるメーキングの部分では飛んでしまっている事がありました。お金に余裕のある方はどうぞ放送用カメラをお求め下さい。

 それではフィルムで撮ればなんでも階調豊かにきれいに写るのか、うちのデジカメはきれいに写るが、という方に説明します。CCDの最大のメリットは「今写っている画像をリアルタイムでモニターできる」点にあります。フィルムの場合、現像しないと、実際にどんな画像が写っているのか結果がでません。ほとんどのカメラは自動式の露出計を内蔵していて、それで最適な露出に近い露出に調整しますが、例えば大きな黒い者が画面に入ってきたり、画面の中で何かが光ったりすると、「画面全体が暗くなった」叉は「明るくなった」と判断して露出がずれてしまいます。CCDのカメラではそれがリアルタイムで肉眼で結果が判断できますから、「いまは黒い者が画面に入ってきたが、画面が暗くなったわけではない。」としてマニュアルで露出を元にもどしたり、画面を観ながら適当な価に調整したりできます。

 フィルムでもっとも適切な価に露出をコントロールしようとすると、フィルムを一本使って、本番撮影と同じ条件で、露出値をいろいろに変更して、もっとも適切な値を選ぶほかありません。照明毎に条件が違う人形アニメの場合など特に大変です。このテストが、8ミリフィルムで2000円以上、16ミリフィルム(ネガの場合)で20000円くらいかかります。16ミリでネガで撮影すると多少調整も利きますが、基本的にフィルムで露出が狂うと、暗いと色が濁り、明るいと飛んでしまいます。

 ベテランの人形アニメ作家になるとこのへんの露出の値が経験によって体にはいっており、カットによって最適の露出を決める事ができるわけですが、経験の浅いアマチュアではどうもそうもいかない。

 また、この他に、特に粘土アニメなどでは粘土に蛍光塗料で色づけがしてあり、肉眼で観た目とフィルムで撮影したものが全然違うとこともあるそうです。これも、ビデオであれば克服できる問題です。

 ところが、最大の問題はやはり「ビデオでは写らないものがある」という点です。フィルムで制作してフィルムの感覚が身に付いている作家は、ビデオで撮影した時の表現力に違和感を覚えざるを得ません。

 これは、フィルムの方がビデオより優れているという問題では無く、映像という、テクノロジーに依存した形のアートに共通の問題です。美術をしている方に先日おうかがいしたのですが、最近の油絵は、一見油絵に見えても実は水性のアクリル絵の具で描いてあるものが多いそうです。結果として見える絵は同じようなものなのですが、水性のアクリル絵の具は乾燥が油絵の具に比べて早いため、短い時間で連続して作業しないとうまく描けない。油絵の具は乾燥が遅いので、描きかけでしばらくおいておいても、続きの作業ができる。だから油絵の具でなれている人はアクリルでの作業を嫌う事があるそうです。

 現在はビデオでスタートしてビデオの感覚で制作する人がほとんどです。しかしながら、フィルムにはフィルムにしかできない表現がある事、同様にビデオにはビデオ特有の長所があることを知りながら制作している人は少なく、ただ「そこにあるから」使っているというのが現状です。(もちろん、かっての8ミリフィルムも、「そこにあって、それしかないから」使われていましたが。)

 「ビデオはだめだ」「フィルムは古い」というのではなく、それぞれの利点を活かして制作していきたいものです。

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