<2005.11.24 K.Kotani>「はりま・シネマの夢」展見学記


毎月読める日本で唯一の自主アニメ情報誌

月刊近メ像インターネット


2005年11月24日

「はりま・シネマの夢」展見学記



 「はりま・シネマの夢 銀幕を彩る映画人たち」と題する催しが兵庫県の姫路文学館で2005年10月から12月11日まで開催中。11月12日には瀬尾光世の戦中アニメ「桃太郎の海鷲」が上映されたのでその報告をかねて記す。
 この催しは播磨(播州地方)出身の映画人として日本映画発展に貢献した人たちの業績を展示されたもの。日本の名女優となった吉永小百合のデビュー作「キューポラのある街」を演出した浦山桐郎自身も同作が監督としてのデビュー作となった。また浦山は東映動画(現東映アニメーション)で松谷みよ子原作の「竜の子太郎」を長篇アニメ化し監督を担当している。
 喜劇の中に痛烈な風刺を込めた作品を発表した前田陽一。
 グランプリを受賞した「羅生門」や、大作時代劇「七人の侍」、名作「砂の器」などの脚本家・橋本忍は黒澤明監督の信任も厚かった。
 夫の市川崑監督と名コンビで多くの脚本を執筆した女流脚本家の和田夏十。
 若き劇作家として映画界の活躍が期待されている鄭義信。
 アニメ作家の瀬尾光世は政岡憲三の門下生としてアニメ制作者となった。戦中の日本アニメ初の長篇「桃太郎の海鷲」「桃太郎・海の神兵」は戦意高揚アニメとして批判する人もいるが、戦時情勢下、海軍省の依頼に反抗する事は不可能であったろう。
 播磨という土地から多くの映画人を輩出したが、同展では上記五名にスポットを当てている。
 各コーナーの展示は充実していたが、アニメ作家としての瀬尾のコーナーを紹介しておこう。ケースに飾られた玩具の映写機が珍しい。戦前に製造されたライオン製の貴重品だ。なぜオモチャの映写機がでんじされているのかは、瀬尾が画家を志し上京し、浅草の仲見世で子供相手の玩具店が客寄せに店頭でオモチャ映写機でアニメや時代劇を上映してみせた。
 瀬尾はそのアニメに興味を持ち、アルバイトとしてオモチャ用の1、2分の超ミニ短編アニメを制作したのがアニメ道に入るきっかけであった。コ−ナ−のTVでは瀬尾が制作したと推定されるオモチャ用の時代劇アニメや、プロ作家として制作した「お猿の三吉」シリーズなどの貴重な作品がエンドレスで上映されている。
 他の展示では「桃太郎の海鷲」(昭和18年、1943年)に公開された本物の35ミリ映画のフィルム缶が目を引く。日本海軍のシンボルでもあった海軍省の錨マークがフィルム缶のラベルに押印されているのだ。
 瀬尾は戦後、東宝で公開すべく日本漫画映画社でミュージカルタッチの5巻のアニメ「王様のしっぽ」を制作。私財を投じてまで制作された労作だったが、テーマに問題ありと、配給先の東宝がオクラにした。あおりを受けて会社は倒産。失意の瀬尾はこれを機にアニメ界と決別。二度とアニメにタッチする事はなかった。そして幼児向けの絵本や雑誌の童画家に転身し、売れっ子の作家となる。当時の絵本や幼年向け雑誌が展示されているが、これらも貴重な資料であろう。
 瀬尾光世というアニメ作家は今や世界のアニメ作家として有名になった宮崎駿や押井守らと比べて忘れ去られた存在だ。しかし、瀬尾のアニメ作家としての業績は日本初の長篇アニメを制作し、技術的にも初の四段マルディプレーン・スタンドをスタッフの持永只仁と共同制作しているし、「海の神兵」では透過光という技法も開発した。
 おそらく瀬尾の業績に対するこのような充実した展示は最初で最後であろう。関西の姫路市でひっそりと開催された映画展は有意義な催しであった。関西だけでなく、関東のアニメファンにも見てほしかったと惜しまれる展示であった、と言えよう。
 また、150人収容の講堂で上映された16ミリ版の「桃太郎の海鷲」の観客の大半は老年の男性が多かった。多分、子供時代、このアニメを親に連れられて公開をリアルタイムに見られた人たちではないだろうか。私自身も小学生時代、「海鷲」封切時、母に連れられて梅田小劇場(現在の梅田ナビオ阪急シネコンになっているが)でこのアニメを見た記憶がまざまざとよみがえった。
 文学館は世界遺産となった姫路城の反対に位置するが、景観の素晴しい建築だ。近くの公園の樹々の紅葉をながめながらの有意義な秋の一日であった。同展は12月11日まで開催されているので映画に興味のある方は是非姫路まで散策がてらでかけられたい。(文中敬称略)
・開催期間 2005年10月28日〜12月11日
・開館時間 午前10時〜午後5時
・休館日 毎月曜日
・会場 姫路文学館北館2F特別展示室
・観覧料 一般500円、大学高校生300円
・交通 JR姫路駅より市バス、神姫バス7分、「市之橋・文学館前」下車、徒歩3分
アニメーション研究家 渡辺泰さん
姫路文学館のホームページ

近メ協のページに
もどる
近メ像のページ
もどる
アニメのページにもどる
ホームページにもどる

kotani@mx1.nisiq.net