<2017.12.18 K.Kotani>「アニメ業界、“日中”逆転のタイムリミット 日本人アニメーター“海外流出”危機も」ニュースの嘘


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2017年12月18日

「アニメ業界、“日中”逆転のタイムリミット 日本人アニメーター“海外流出”危機も」ニュースの嘘





 ネット上を賑わすニュースは多いが、中には「ビュー数を稼いで、広告代を儲けるのが目的」のものも多くあり、「目立てばなんでもいい。」とばかりにセンセーショナルな見出しと内容の記事を無責任に打ち上げる輩が後を絶たない。残念ながら、この記事もその一つである。

 あたかも、「中国ではアニメーターの待遇改善が劇的に進み、日本ではブラック待遇が恒常化していて改善の見通しは無く、このままでは日本のアニメーターが中国に大挙流出して日本のアニメーションが崩壊するのは時間の問題」と言わんばかりの内容である。

 記事から読み取れるのは、「中国では現在国産アニメの需要が急増し、アニメーターが一時的に不足して、待遇が「現在は」非常に良くなっている」という事である。アニメーター不足によりアニメーターの確保合戦が起こり、待遇が一時非常に良くなったのは日本でもテレビアニメの勃興期に起こった事で、当時の日本のアニメーターの給料が非常に良かった事は、津堅信之氏が著書で明らかにしている。高度成長に伴う、公害の発生や海外旅行でのひんしゅく買いなど、過去に日本で起こった事が中国で追っかけて起こっている事はしばしば報道されているが、その一環にすぎない。

 この記事には、中国のアニメーターの収入の絶対金額が、故意なのか過失なのか記載されていない。中国のGNPは日本の2倍程度だが、人口は十倍ある。一人当たりの平均所得の絶対金額は日本の5分の1くらいのはずで、アニメーターの収入も基本的にそれに比例しているはずである。その中で一時的に相対的に高くなっているだけで、日本のアニメーターの収入よりも高い、などと言う事は普通には考えにくい。国内での動画単価は200円前後、海外は100円程度らしいから、日本人のアニメーターのように毎月500枚の生産能力とすると、(同じ日本のアニメ用の絵を描くのであれば、同じ枚数しか描けないと思う。)月収は日本の半分の5万円程度。だが、所得格差を考慮して5倍にすると、月収25万程度相当になる。これは食べていける金額だろう。

「実際、ベテランクラスで中国の制作会社に移ったアニメーターもいるようだ。」という記載もあるが、本当なのか。事実向こうに渡って仕事をしているのであれば、「いる」と記述するだろう。「いるらしいよ」という「噂」がある、というのが本当ではないか。きちんと調べて記載しないのがいかにもうさん臭い。(このベテランクラスのアニメーターって、まさか持永只仁さんの事ではないでしょうね・・・)

 面白いのは「中国ではアニメの質に対する要求のレベルが日本ほどではないこともあり、“仕事量”と“収入面”で余裕が出来ています。」という記述で、昔の日本のテレビアニメのアニメーターが一発描きでバンバン枚数を上げていたのと同じような状況が中国でも起こっているようだ。(1970年代の日本のテレビアニメの動画職アニメーターの収入は、物価上昇率その他を勘案すると、現在の二倍以上あった。)
 中国で国産アニメ用の動画をもし日本の70年代アニメーターのように1300枚描いたとすると、絶対的月収金額は13万円、所得格差を考慮すると、なんと月収65万円相当。しかも原画職はもっと高い、となると、記事にあるように「家が建つ」というのも不思議ではない。

 ともあれ、この記事で読み取れるのは中国のアニメ業界が量的に急速成長している事で、その作品を日本で観る機会が少ないのが残念ではあるし、この記事からも具体的状況はあまり読み取れない。

 商業アニメの世界的な標準的なモデルは、自主制作ベースと公的支援を受けた短編アニメ、および長編アニメ、並びに若干のテレビシリーズの組み合わせ、という形である。日本では、このテレビシリーズの部分が異常に肥大して、毎週百本以上のアニメが製作される、という、世界的にも特異な状況になっており、かつ「クール・ジャパン」として世界から評価される状況にもなっている。日本の短編部分については、近年山村浩二氏や故・片山雅博氏などのご尽力により、若手の育成が急速に進み、ようやく世界で戦える若手が続々出現して活躍しつつある。

 中国のアニメ状況はどうなのか。東京芸大の卒展作品上映などで若い方の短編を観る機会はあるが、最近大量生産されているという作品はいったいどんなものなのか。何か、昔の日本の一部のテレビアニメの様に怪しげな作品がまんえんする中、会社の監督が行き届かないのをいい事にやりたい放題のケッサクが製作されているかもしれない。

 そんな事をきちんと調べて書いていただきたかったのであるが、そんなまともな記事を書いてもだれも読まないから、こんな記事になったんでしょうね。残念。

「アニメ業界、“日中”逆転のタイムリミット 日本人アニメーター“海外流出”危機も」

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