2018.11.04 K.Kotani>
NEW BOOKS 「きらめく映像ビジネス!」純丘曜彰著
毎月読める日本で唯一の自主アニメ情報誌
月刊近メ像インターネット
2018年11月04日
NEW BOOKS 「きらめく映像ビジネス!」純丘曜彰著
「きらめく映像ビジネス!」純丘曜彰著 集英社新書 税別720円、ただし絶版。(KINDLE版あり)
NEW BOOKSのコーナーで紹介しているが、初版2004年9月で、版元では既に紙ベースでは絶版になっており、この本は古書店の100円コーナーで入手した。
商業芸術としての映像の歴史から始まって、映画興行の始まり、各映画会社の栄枯盛衰、テレビの登場とネットワーク権のやりとりなど、「世界史」の古代帝国の盛衰のあたりを読むようで中々面白い。アニメーションに関する記述もあちこちに出没するが、フレデリック・バックからルパン三世までをカバーするのには、どうも著者の専門知識が及ばなかったようで、「誰か」に聞いたうわさ話・裏話をそのまま事実として記述しているような部分も多く、それはそれで、「業界」でアニメーションというのがどう見られ語られているのか、という事がよく分かって面白い。
特に面白いのが、映像を商売としてとらえた場合、どういう風に企画が立てられてどうお金が集まり、どう使われるのか、という部分で、ハリウッドの超大作から日本のアニメ映画まで具体的な説明があり、「なるほど、ファンが「こんなのを作って!」とワイワイ騒いでもだめなのはこういう仕組みなのだな」という事が良く分かる。
作って配給する側は商売なのだから、どんなに素晴らしい作品でも客が来なければ作らないし、どんなに下らない作品でも、客が入って当たる、という見通しがあれば企画は通る。ただ幸いな事に、あまりに下らない作品は「あの映画は面白くない」といううわさがアッという間に広まって客がすぐに来なくなるから、結果として送り手もあまりにつまらない作品は作らないだけの話である。とはいえ、昔某出版社系の映画会社が作った、大々的にテレビ・新聞で宣伝をして無理矢理ヒットさせた退屈な「超大作」群を、「どんなに面白い映画か!」と期待して観に行ってガックリした、という人も多いだろう。
また、東映動画で「ホルスの大冒険」を作った時、製作サイドの人が現場に入り、スタッフが予算も納期も考えず、作品品質第一で勝手に「超大作」を作っているのを見て「お前らは、プレハブを作れと言ったのに、鉄筋コンクリートのビルを勝手に建てている」と嘆いたのはこういう事だったのだろう。
となると、大赤字確実の「かぐや姫の物語」を50億円もかけて作ったジブリ・鈴木プロデューサーはなんだったのか。まじめに商売をする気はなかったのか。
この本を読んでいると、ずっと「違和感」がつきまとう。というのは、我々アニメファンは映画を「作品」として捉えているが、この本の著者は、「商品」として扱っているからだ。よって、「より良い作品」を作る為にはどうすれば良いか、という視点は無く、「売れる作品」を作るためにはどうすれば良いか、という事のみを追求している。「より良い作品」は面白いから、「売れる作品」になる事が多く、(「この世界の片隅に」を見よ! 「カメラを止めるな」を見よ!)、ファンと送り手の指向する方向が一致する事も多いが、「同床異夢」とはこういう事か、と思う。
鈴木プロデューサーは実は商売人でなく、高畑監督の「ファン」ではなかったのか。高畑監督に好きなように映画を作らせるため、ジブリを作り、宮崎さんにせっせと稼がして、貯めたお金をドーンと使ったのではないか、などという妄想の広がる本でもある。
もちろん、「映画ビジネス」を初めから勉強したい方には、初心者にも分かりやすくかつ詳しく書かれているので、丁度良い入門書でもある。古書店で見かけられたら、購入をお勧めしたい。
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