<2022.1.27 K.Kotani>不定期連載・自主制作アニメについて考える 3.自主制作アニメの経済性


毎月読める日本で唯一の自主アニメ情報誌

月刊近メ像インターネット


2022年01月27日

不定期連載・自主制作アニメについて考える 3.自主制作アニメの経済性



 前回までは、「自主制作アニメとはなにか」「なぜ自主制作アニメを作るのか」という事について考えてみた。今回は、「自主制作アニメはお金になるのか」という事について考えてみたい。
 この考察のきっかけになったのは、ネット上にあった一つの座談会である。

【座談会】自主制作アニメで食べていけるか? 個人作家が語る“生き方”への本音

 この座談会では、個人としてアニメーション製作に関わっている5人の若手作家が現在の状況や将来の展望について語り合ったものである。
 結論としては、「個人でアニメ制作に関わって食べて行く事は出来る。」という事と、「個人の自主アニメで食べて行ける可能性がある。」という2点のようである。ようである、というのはこの記事では、「自主制作アニメで食べて行ける」という明確な結論は出されていないからだ。もう一つ、「個人でアニメの仕事を受注して収入を得る。」という事と、「個人が自分の作品を作ってそこから収入を得る」という事は別の事なのだが、ここがはっきりと区分されていない。
 現在の商業アニメのアニメーターの大半は会社に席(「籍」ではない)は置いているが、形態としては個人事業主だ。しかし、個人でアニメを作っている訳ではない。この座談会で、「個人でアニメを作って食べている」とされている方々も、商業作品に関わって収入を得たり、個人でMVなどを受注して作ったりなどしている方々で、個人の作品を作ってそこから直接収入を得ているわけではない。
 かって、70年代にアニメーションワークショップの講師をされていた日本アニメーション協会の作家の方々も、基本的にはCMなどを製作して収入をえておられた。個人で自主制作をされていた方もいたが、そこからの収入は微々たるものであったか、大幅な持ち出しになっていたはずだ。
 私の知っている限り、現在でも日本で個人で自分のアニメーション作品を制作してそこから収入を得て生活している方はいない。

高揚期の幻想

 かって、アニメーションを志した若者達が、「自分のアニメーションを作って、それで生活して行ける時代が来るかもしれない」と思った時期があった。一つは、自主制作アニメーションの高揚期であった1970年代後半から80年代の初めにかけてである。「そんなばかな」という人もいるかも知れないし、「その当時作っていたが、そんな事は思っていなかった。」という方もいるだろう。しかし、一部にそういう思いを持っていた若者達がいた事は確かである。
 なぜそんな事が起こったのか。一つには、ただならぬ自主制作の盛り上がりがあった。プライベート・アニメーション・フェスティバルを始めとする自主制作アニメ上映会はどこの会場も多くの観客で埋まっていた。各自主制作サークルには、次々と新メンバーが入り、上映会後は参加者・出品者による熱い論戦がいたる所で行われていた。こんな事は過去に起こった事はない。過去に起こった事はない、という事は、「その次はどうなるか判らない」という事だ。自主アニメで食べて行ける様な状況になっても不思議ではない、というひとつの幻想が生まれたのも当然かもしれない。



 もう一つ、アニメーションの個人制作の「教祖」として、各地で上映会・講演を行っていた相原信洋氏の存在である。相原氏は、当時、「もう少し作品がたまったら、仕事をやめて作品を持って全国を観せて回りたい。観たい、という人がいるんだから大丈夫ですよ。」と語っていた。実際、相原氏ならある程度はできたかも知れないが、氏は「みんなも作品を作って観せて回ったら生活できるようになりますよ。」とは言ってはいなかった。しかし、相原氏直系というべき地球クラブのメンバーや、アニメ塾の面々が、その頃数年間に渡って各地を回って巡回新作展を行っていたのは、この影響であろうかと思われる。
 この70年代後半から80年代の初めにかけての高揚期は、やがて様々な原因で終息していくが、その後、もう一度、2000年代初めに高揚期が現れた。この高揚期は、先の高揚期とは違った原因で発生した。
 その頃、ヤマト・ガンダム等のブーム以降盛り上がった日本のアニメーションが世界的に評価されるようになり、「クール・ジャパン」の一角として、公的な認知を得られるようになっていた。そして、学生の減少を見越して、大学等の学部・コースの新設認可に消極的だった文科省が、「映像・アニメ等に関しては新設してよろしい」という態度をとるようになり、全国の大学等が一斉にアニメーション関係の学部・学科の新設に走った。
 この学部・学科が短期間に増設されたことによって、当然、教員・教材は一時的に全国的に不足した。私は2001年に、宝塚のピピアめふで「ピピアめふアニメ教室」を開設したところだったのだが、映像系の学科の学生さんがアニメの作り方を習いに来たり、はては映像系の先生が作り方の教え方を聞きにこられたりしていた。「はて、なんでこんな事が」と思っていたが、後日、そういう事情だったのかと判ったのである。のちに、アニメ学会の大会で、当時の教員の方から「あの時は何々がお世話になりまして。」とご挨拶いただいた事もある。
 この頃は、いわゆるアートアニメの上映会にも一杯人が入った。梅田のHEPナビオという大きなファッションビルの大ホールを観客が埋めていた記憶がある。観客の方の会話を聞いていると、なんとなく当時は、アートアニメを観る事がおしゃれな芸術体験として一般の方にも認知されていたように感じられた。
 この頃、新設された映像系芸術大学の学部の学生の方等の話を聞いていると、「これからはアニメーションだ」「バスに乗り遅れるな」という気運が感じられた。なにしろ国が応援しているのだから、皆そう思うのも仕方がない。
 残念ながら、この盛り上がりもやがて消えて行った。「現実」は変わっておらず、「アニメーションをやっていれば食べて行ける」という状況ではない、という事に皆気付いたのだと思う。

お金を払う人々



 何かで食べて行くのには、誰かがそれにお金を払わなければならない。もし誰かが自主アニメで食べて行くのであれば、誰かが自主アニメにお金を払わないといけない。かって、PAFが盛況であった頃、観客のみんなはPAFで上映される作品を観るためにお金を払って入場したのだろうか。そういう人もいただろう。しかし、会場で上映される自分の作品を観に来た人、それから「PAFとはどんなもんかい」と様子を偵察に来て、「これならやってやろう」と、製作を始めるきっかけにした人も一杯いたはずだ。観客=制作者の状態である。
 これでは落語の「花見酒」である。酒屋兼客の二人の間でお金とお酒が行ったり来たりして、結局お酒がなくなってお金は残らない。芸術で商売をするためには、「鑑賞するだけ・お金を払う人」一杯と、「製作して発表してお金をもらう人」少し、という状態でなければ、経済的に成り立たない。
 芸術のジャンルによっては、少しのお金持ちのパトロンがいれば、お金を払う人が少なくても商売として成り立つ事がある。絵画などはそうで、「この絵はいい」と高い金を出して買う客が少数居れば、芸術家の生活は成り立つ。画廊で展示されていたり、個展で展示されていたりする絵を見るのはタダである。売るために現物を商品見本として並べているわけだ。しかし映画はそもそも大衆芸能として始まったものだから、小額の鑑賞料を出す人が一杯いないとダメなのである。絵画はオリジナルを売るものだが、映画は観せて入場料を取り、あるいは複製をビデオやディスクで売って稼ぐものなのだ。
 自主アニメでは、2000年代の高揚期には、少しは普通のお客さんも来ていたが、「これは面白いじゃねえか。よし、これからずっと観てやろう」と、自主アニメの固定客になった人は残念ながら、あまりいないようである。
 「カメラを止めるな」という自主製作映画が大当たりした事があった。最初は小さな映画館の限定公開だったが、「面白い」という口コミで観に行った人が、「聞いた通り面白い」と情報を拡散し、どんどん上映館が増えて自主映画としては異常な大当たりとなった。本当に面白ければみんな見に来るのである。
 では、自主アニメは面白くないのか、というとそんな事はない。ただ、「観方」が判っていないとちっとも面白くない。昔、個人実験映像の上映会を観に来られた一般の方が「いつ映画が始まるのかと思って観ていたら、始まる前に終ってしまった。」と感想を述べられていたが、「映画は物語があるもの」と思っているのだから仕方が無い。スポーツ観戦でもそうで、ルールと最低限の競技に対する知識が無ければ両方のチームの選手があっちいったりこっち行ったりするだけでちっとも面白くない。将棋や囲碁でも同じで、ある程度の観上手になると、盤上での双方のやりとり等を観ながら「次はこう打つはずだ」「こう打ったらどうなる」などと先を予測しながら観戦し、おもわぬ妙手が出ると「おお、その手があったか」などと大変面白いらしい。私は囲碁も将棋も一応打てるが、小学生レベルの初心者なので、新聞の対戦図などを観てもどっちが勝っているかもよく判らない。残念である。



 この「自主アニメの観方・楽しみ方」の判っている人が非常に少ない、という事が、自主アニメで食べて行く事が難しい原因の一つである。
 では、「カメラを止めるな」はどうだったのか。この映画は超低予算で作られているし、いわゆる「スター」も出ていないが、鑑賞にあたっては、普通の映画を観るように鑑賞すれば十分理解できる映画であった。だから、普通の人が普通に観ても面白いのである。
 自主アニメの場合は、どうも観客=ほぼ作家、という図式から抜けでる事が今の所出来ないようである。現在、日本中で個人で作品を作り続けている作家は、芸術系大学の学生を除けば百人もいないのではないか。各地の自主製作アニメ上映会等の入場者数などをみても、大体その程度の数字にとどまっているようである。
 それでは、「自主アニメは面白いですよ、素晴らしいですよ」とドンドン訴え続ければ徐々に普通の観客が増えて自主アニメの作家は食べて行けるようになるのだろうか。
 残念ながら、そんな事は起こらないだろう。観客の発掘については、過去数十年に渡って、自主アニメ作家・自主上映企画者が取り組んで来たが、昔と今ではほとんど状況は変わっておらず、映像をネットで公開する傾向が増して来た現在ではリアル会場の来場者は逆に減る傾向にあるようだ。

ユーチューバーとしての可能性

 昔は、個人で映像を作って生活する、という人はまったくいなかった。しかし、インターネットが普及した現在では、「ユーチューバー」という、ネットで映像を公開して、それで生活出来るだけの収入を得ている人が結構いる。
 最近では、小学生の憧れの職業にユーチューバーが入っているという。
 では、自主アニメーションはどうか、というと、多くの作家が作品をネット上で公開しているが、「収入」を得ている、という話はほとんど聞かない。
 現在、ネット上での動画公開でのビジネスモデルは、ひとつは「視聴者が動画を観る」「動画を観る時に出て来るCMを見る」「CMが見られた回数によって、CMのスポンサーから広告料が動画をUPした人に支払われる」という仕組みになっている。(他にもあるが長くなるので省略)
 この収入を得るための動画の再生回数というものはおびただしいもので、トップクラスのユーチューバーになると、数百万の単位の再生回数になることもあるらしい。
 この動画の内容というのが、ユーチューバーが芸をしたり、どこかに行ってレポートをしたり、というテレビのバラエティ番組のようなもので、人気ユーチューバーになると、「毎日」新作の動画を撮っては編集し投稿しているそうである。
 これでは、年に1-2本、5分10分の作品を制作して発表している自主アニメ作家では勝負にならない。
 以前、広島フェスの常連のスイスのアニメ作家ジュビツゲーペルの作品がネットに上がっていて、ネット上のアニメ関係者の間で「すごいアニメが上がっている」と話題になった事があったが、それでも、観ている人はアート系のアニメが好きな人だけで、一般の人が「すごいアニメだ」と皆観る、というような事は起こらなかった。たとえノルシュテインやバックの作品の配信でも、一般の方相手では無理だろう。

例外

 先に、自主制作アニメで生活できるだけのお金を稼いでいる人はいない、と書いたが、一人だけ例外がいる。
 「ほしのこえ」のDVDを大ヒットさせた新海誠氏である。新海氏は「彼女と彼女の猫」という作品をCGアニメコンテストに出して大いに評価された。そして、中編「ほしのこえ」は、自主制作アニメの当時の自主アニメの限界を遥かに超えた作画のクォリティで観客を驚かせ、DVDは売れに売れて、「億」の単位の収入を新海氏にもたらした。

例外の原因

 だが、当時、アニメ学校の先生に聞いた話であるが、「みんな作品ではなく、付録についていたメーキングを観るためにDVDを買った」そうである。確かに「ほしのこえ」はもの凄い自主制作アニメではあるが、この程度の作品であればTVアニメで比肩しうる作品はいくらでもある。しかし、この品質で25分の作品の映像部分をほぼ一人で作った、というのは、前人未踏の領域である。同じように30分もののTVアニメを一人で作った蛙男商会の「鷹の爪団」ものがあるが、こちらの方は、「なるほど、こうすれば30分ものが一人で作れるのか」と普通に納得のいくものだった。しかし、「ほしのこえ」は違う。「どうやったら出来るのか」という事をアニメーションを学ぶ学生達が知りたくてDVDを我先に買って観たのも無理は無い。

そして

 私もYouTubeは観る。何かのやり方(「肉じゃがの作り方」や、「車のラジオの交換の仕方」等など)を調べる時に、ネット検索すると、「動画付き」で解説している動画が一杯出て来て、観ると皆親切に説明してくれる。昔は本屋にいってハウツーものの本を買ったりしていたが、今は大抵自宅で検索すると間に合う。本が売れないはずである。(その動画を観ていると、「これが、あなたへのお奨めです。」とばかり、歴史物や戦記物の動画の紹介が横にならび、ついつい観てしまうと時間がいくらあっても足りない。)
 「ならば」と、「アニメの作り方」を検索すると、無い事はないが、数が少なくレパートリーも少ない。人形アニメは何本かあるが、砂アニメの作り方になるとなかなか見つからない。また、説明も大雑把で、「人形アニメの骨格は針金でつくります。」ですましていたりする。これはアニメを作ろう、という人が少ないのと、アニメを個人で作っている人が、「肉じゃが」を作りたい人より圧倒的に少ないからだと思う。(何しろ、百人単位の世界なので。)

だから

 これからは、自主アニメ作家は、作品を上げるだけではなく、メーキング映像をどんどん作って公開していくべきではないだろうか。それも、「少しずつ違った絵を沢山書いて行きます。撮影すると、ほら、動きます。」というような単調なものではなく、「動画を書く時に、ただ単調にすこしずつずらして描くのではなく、緩急を付けて動かすと、生き生きした動きになります。緩急の付け方は・・・」とか、「目線を左右に動かす時に、「目パチ」をいれると、ひと味違います。「目パチ」とは・・」とか、「紙の動画で、離れた位置の絵の中割りをする時は、「タップ割り」をすると楽です。「タップ割り」とは・・・」とか、「針金で人形の骨格を作る時は、関節の部分の形を工夫すると、針金が折れにくくなります。そのやり方は・・・」という風に、なるべく具体的な現場での工夫を入れ、実際に作った作品や、その素材の見本を入れた動画がいい。これは、実際に個人制作アニメの現場で製作している個人自主アニメ作家でしか出来ない事だ。
 以前、某大家の書かれたアニメ入門書を読んで、ある部分で、その方が実際にはその本に書かれた方法で撮影した事が無いことがまるわかりになる部分があって悄然とした事がある。(以後、人に教えるような場合は、必ず自分で一回やってみて、その方法でできる事を確認してから教えています。)現場で今作っている人間は強い。
 「そんな枝葉末節の話しでは無く、「基本」からしっかり入るべきではないか」というご意見もあるだろうが、物事はまず具体的ななにかから始まるものである。野球の64ジャンピングスロー3のダブルプレーを見て、「あれをやってみたい!」と野球を始める男の子は必ずいるはずである。

 それでは、「食べて行く」という話はどうなるのか、「ほしのこえ」みたいにメーキングでお金が入って来る訳ではないではないか、という事になるが、ちゃんと説明はあるのである。
 今、個人でアニメを作ってみたい、という人はある程度いるだろうし、一回作ってみてそれきり、という人もけっこういるだろう。しかし、芸術系映像系の学生とは違って、普通の人には身近に教えてくれる人はいないのである。ネットで検索してもざっとした説明しかない。ちょっとずつ違った絵を何百枚も描いて動画を作ってみた、なるほど面白いが、もう一回同じ事をやる気にはならない、という人も多いだろう。しかし、そういう人も、ちょっとしたコツ・ティップスを教えてくれる動画があれば、「あ、こうすればもっと面白くなるのか」と、そこをもっとやってみたい気になるのではないか。
 そういう風に、作る人をちょっとずつ増やして行き、今百人くらいの個人自主アニメ作家が一万人位になれば、その中のトップ10人くらいは食べて行けるようになるのではないか。「花見酒」も一万人で花見に行けば、ちょっとした経済となる。
 「あとの9990人はどうなるのか」という話だが、芸術やスポーツではなんでも食べていれるのはほんの少数のトップだけである。ゴルフ競技人口は数百万以上だが、プロとして収入を得ているのは数千人である。ゴルフで「シングル」と呼ばれるハンデ1けたの人たちは滅茶苦茶上手いが、それでも食べていけないのである。フルマラソンで男子3時間を切ればたいしたものだが、とうていそれで食べて行く事はできない。絵画書道俳句カラオケなんでも街の達人は一杯いて、みんなものすごく上手だが食べてはいけない。
 それに、個人アニメ製作人口が増えれば、アニメで作品製作以外で食べていく人も出て来るだろう。今、町の画材屋をのぞくと、どの店にも全部「マンガ用品コーナー」がある。今や町中にあふれかえるマンガ雑誌、ネット上のネットマンガ、それにコミケ会場を埋め尽くす同人マンガ家(ある程度の収入もある方もけっこういるらしい)達。昔は日本のマンガ家の大半がアパート一軒に収まっていた時代もあったが、今や、全部収容しようとしたら、「ニュータウン」が一つ必要なのではないか。そして、そのマンガ家たちへの用品・消耗品を製造供給する事がひとつの産業になっているのが現状である。
 昔アメリカのゴールドラッシュで一番稼いだのは、金を探しにきた人々に宿泊と食事を提供した業者のみなさんだったという。タップやトレス台はもう古いかもしれないが、「人形アニメ用関節」や、「クレイアニメ用粘土」などは、ユーザーが多くなれば商売になるのではないか。
 そんな時代がくればいいのになぁ、と本当に思う。

(次回は、「自主制作アニメと音楽)

 

近メ協のページに
もどる
近メ像のページ
もどる
アニメのページにもどる
ホームページにもどる