<2022.5.24 K.Kotani>不定期連載・自主制作アニメについて考える 5.自主制作アニメと音楽(後)


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2022年05月24日

不定期連載・自主制作アニメについて考える 5.自主制作アニメと音楽(後)



 <前編より続く> 近畿アニメーション協議会では1985年に開催が決まった広島アニメフェスに出品を決定、16mm撮影の準備と、応募作品の制作と公募を開始した。
 5月に公募作品上映を含む自主上映会を開催、公募作品の中から16mm化の候補に残った2作品があった。
 一本は当時高校生だった篠塚勉君の「風 1分40秒」疾走する騎馬武者群を背景ぐるみ動画で描いた大変な力作である。
 もう一本は、森健二氏の「A long way to go」同名の洋楽曲の歌詞に合わせて列車が走る様子をこれも背景ぐるみ動画で描いたこれも大変な力作だった。
 森健二氏は当時すでにベテラン作家として活躍しておられ、当時「小型映画」にもアニメ製作のコーナーを連載で持たれており、アニメ自主製作の他、「1・2・3のフラクタル」というフラクタル理論を元にしたユニークな著書を出されたり、商業映画に俳優として出演されるなど、多芸多能なアーチストだった。お仕事の件はお伺いした事はないが、どうも鉄道模型関係の仕事をされていたのではないかと思う。
 この二本の作品が届いた時、「おっ、これは凄い作品が来た! 」と思ったし、上映会のアンケートにもこの2作品をベスト作品として評価する声が多かった。
 さて、いよいよ16mm化を進めるにあたって、問題が起こった。「A long way to go」に使われていた曲である。洋楽曲であって、しかも国内発売された曲ではなく、輸入盤だった。レコード会社も海外、アーチストも海外の方、森さんに許可を取る方法はないかと聞いてみたが、「アーチストに手紙を出して、この目的だけで使わさして欲しい、という形で話をしてみるしかないのではないか。」という事だった。締め切りが迫っており、とてもそんな時間の余裕はない。曲を差し替えできないか、ともお伺いしてみたが、「曲にぴったり合わせて作ってあるので無理」という事だった。やむなく、森氏の作品は断念、公募作品からは篠塚君の作品だけを16mm化して出す事にした。「風1分40秒」はサイレント作品なので、動画をそのまま撮影すればよかった。なお、16mmの場合、ネガフィルムでの撮影になるので、撮影して現像に出すと、ネガフィルムと、それをそのままポジに焼き付けたフィルムが戻って来る。そのポジを編集して元のネガと一緒にプロの編集室の方に渡すと、ネガをポジと同じ形に編集してくれる。(もちろん有料)このネガを再度現像所に回すと、最終プリントの出来上がりである。金がかかるわけである。なお、アマチュア用のスプライサーで自力でネガ編をして現像所に持って行ったら、断られた、という話を当時聞いた。妙なつなぎ方をしたフィルムが焼き付け機の中で引っかかっては困る、という事かもしれない。



 さて、当時16mm化に金がかかりまくっていたため、「風1分40秒」については、同時プリントのポジをそのまま出品に使った。(ホントは良くないらしいけど)つくづく安く上がった出品だった。
 さて、その後、「風1分40秒」は近メ協出品作品の中では唯一予選を突破してコンペに入り、なんと「デビュー賞」受賞という結果となった。「高校生の作品が入賞した」という事で話題となり、テレビ番組の中でも何回も取り上げられた。広島の歴代受賞作品の中にその名前は残っている。
 一方、「A long way to go」の方は、当時作品を観た方の心には残っているかもしれないが、現在は作品の行方も不明、ご本人とも連絡はとれなくなって久しい。素晴らしい作品だっただけに、惜しいな、と思う。もちろん、「A long way to go」が音楽著作権をクリアーして応募できていれば入選・入賞できたかどうかはわからないのだが、音楽関係の問題が明暗を大きく分けた事はまちがいない。

 広島以後、自主制作作家の「音楽」に関する意識は大きく変わったと思う。音楽関係をきちんとクリアーして、作家の作品としてきちんと発表する道を選ぶ人もいれば、そのへんの事は適当にしておいて、個人で勝手に楽しむ方向で作る人もいたが、適当に楽しむ方も、「音楽著作権はクリアーしないと、自分の作品として権利は主張できない」事は判って来たと思う。



 現在は、知り合いに曲を作ってもらう方もいれば、ネット上で音楽を作ってくれる方を探す方法もある。また、「フリー音源」として、無料で使ってかまわない曲をネット上で公開されているアーチストも多く、結構そういう曲を活用されている方も多い。しかし、フリー音源の場合、曲数が限られている事もあって、「同じ時期に発表されたアニメ作品の「音」がかぶる」という事も起こる。
 「5秒ルール」という謎のルールの話を聞いたことがある。なんでも、5秒以内であれば、既成の曲を作品内で使っても怒られない、というルールだそうだが、ネットで探してもそういうものは見当たらない。どうも、カメラで盛り場を流して撮っているような時にテレビの音やらラジオの音が偶然入って来る事があり、そういうものをいちいち許諾をとっていたのではきりがないし、第一音の断片だけではどういう曲なのか判別がつかない事もあり、そういうのはいちいちうるさく言わなくていいんじゃない、という事ではないか。よく判らない。
 「非営利であればかまわない」という事を言う方もあるが、非営利であっても権利の生きている音楽は当然ダメである。
 任天堂のゲーム機で、クラシック曲を「指揮」できるというソフトがあった。プレイヤーが「指揮」して演奏された曲は、プレイヤーの演奏著作権になるのか。そうすれは、曲自体の権利は切れているから、自由に使える事になる。当時調べてみたが良く分からなかった。ソフト自体に入っている曲のデータは任天堂が入れたわけだから、任天堂に権利があって勝手に使えないのではないか、とも思える。
 「自分で曲まで全部作ればいいんじゃない?」と言う事になるが、曲を作る、演奏する、というのは結構大変である。コンピュータ化で省力化された分が全部吹き飛ぶくらい、あるいはもっと大変である。
 赤ペラで、「じゃーん、じゃんじゃん」と全部口で音をつけていた人もいた。なかなかユニークなものではあるが、限定された作品にしか使えないようである。
 最近、「自分で曲をアレンジして自由に使えます」というソフトの広告がネットで出ていた。試しにお試し版を使ってみたが、どうも自分である程度音楽を作れる人がならば、簡単に音楽が作れる、という程度のもののようである。
 今、ふと思いついたのだが、アカペラの「じやーん、じゃんじゃん」という音を分析して普通のオーケストラで演奏したような音楽に変換できるようなソフトがあれば、アマチュアのあまり音楽の素養のないような人でも、ある程度イメージに近いような曲ができるのではないか。「マーチ」とか、「タンゴ」とか、「雅楽」とかのパターンを選べるようにすればさらにいい。
 誰か、作ってくれないかね。

(次回は、「自主制作アニメのインフラ(予定))

 


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