2019.01.03 K.Kotani>
鉄腕アトムはなぜ壊れない?
鉄腕アトムはなぜ壊れない?
上のコマは「デッドクロス殿下」の中でエネルギーが切れて墜落したアトムが地面に激突して壊れるシーンである。この巻を収録した単行本の中では、手塚治虫がこのシーンについて、再描したカットと共に「当時「ザンコク」と言われたものです。」と述べている。アニメと違ってマンガの方のアトムは手足がもげたり、頭が溶けたりするシーンも結構あったのだが、輸出を前提としたアニメでは、「ザンコク」な描写は避けたようで、アニメ版の「デッドクロス殿下」では、アトムは墜落するだけで壊れない。ところが
上は「メラニン一族」の中の一コマであるが、エネルギーを補給して元気を回復したアトムが「エーイッ」と、素手で石造りの牢屋の壁をぶち抜いている。
? 墜落して地面に激突するとバラバラになるアトムが、素手で石の壁をぶん殴って、手は壊れないのか?
「それは、「鉄腕」だから、ゲンコツの部分は特別に頑丈に出来ていて、壊れないのだ」という説明もあるかも知れない。それは、ゲンコツが金槌の頭のような特殊な鋼鉄の固まりであれば、そうかもしれない。しかし、アトムの「手」はかなり複雑な作業もこなす上に、飛行時には折り畳んで腕の中に格納するものなのである。(下のコマは「ロボイド」より。)
ここでアトムの構造を再確認してみよう。プラスチックのボディーの中にロボットの機械部分が格納され、ボディーの上を薄い人造皮膚を覆っている、という説明になっている。この状態で通常の状態ならば銃弾程度ははじき返す。現在でもケプラー製の防弾チョッキでピストルの弾程度ならば防げるから、未来のプラスチックが銃弾をはじき返してもさほど不思議ではないのだが・・・(下のコマは「地上最大のロボット」より。)
さらに、「ミドロが沼の巻」では、磁力銃に撃たれて倒れたアトムを重機(セリフでは、ブルドーザーとあるが、ロードローラー(道路の凸凹を平にするやつ)だね、これは。)で踏みつぶそうとする悪者が登場する。確かにプラスチック製のマネキンのようなものであれば、ぺしゃんこになって粉々になるだろう。
ここで、「つじつまが合わないなあ。マンガだし、しかたないか」とすませて仕舞わさない所が、このページのエライ所である。
「ロボット宇宙艇」にアトムがバラバラに分解されるコマがある。このコマを見ると、本体をカバーするプラスチック部分は沢山のパーツに分解されるようになっている。
アトムの構造では、このプラスチックのボディーの上をさらに薄い人造皮膚で覆っているのだから、人造皮膚をカッターか何かで切らないと、ボディーをバラバラには出来ないはずだ。そして人造皮膚というものが、ゴムかビニールのような合成樹脂で出来た薄いシートなのであれば、一旦切ったら、張り替えないとつながらないはずである。
現在でも、木材や鉄材のようなものであれば、接着したり溶接したりしてつなぎ合わせる事が可能だが、紙のように薄いものはある程度の面積を張り合わせないと繋がらない。
また、プラスチックやゴムのようなものは雨風にさらしておくと風化して変質したり表面が傷だらけになる。アトムの中で、表面の人造皮膚を定期的に張り替えているという話はない。だんだんボロボロになって来ても不思議ではないのだが・・・
ところで、電気絶縁用のテープで、「自己融着テープ」というものがある。テープにのりは付いていないが、引き延ばしてぐるぐる巻き付けると、テープ同士が融け合って接着するというもので、後でテープの回りからのりがはみ出したりしないのでなかなか便利なものである。
この自己融着するテープの原理を応用して、この世界の人間型ロボットの人造皮膚も、一旦切り離しても、再度断面同士を接触させると繋がるようになっているのではないか。また、表面の方も、人間の皮膚の様に風化すると自己更新して、常に新しくなるようになっているのではないか。
となると、このコマ(「ウランちゃん」より)にある、アトム達が毎朝起きると体を磨いてつやを出す、という表現と矛盾するようではあるが、人間の体の皮膚だって常時更新されているにもかかわらず、定期的に風呂に入ったりシャワーを浴びたりしないと汚れて臭くなるのだから、同じ事だとすればつじつまは合う。
ところで、ここでまた矛盾する表現が出て来る。上のコマは、上記の「メラニン一族」の壁をぶち破るコマの次のコマであるが、前のコマでは汚れていたアトムの体がきれいになっている。なんでだろう?
「メラニン一族」のここまでの話では、アトムはメラニン一族のロボットゴリラと戦い、勝ったもののアトムの体はガタガタになってしまう。その後メラニン一族・ブルボ王子にさらわれたウランを追ってブルボの城に忍び込んだアトムは落とし穴に落ち、エネルギーが尽きて脱出もならず、地下牢でブルボ王子に壁に叩きつけられるわ鞭でしばかれるわでボロボロに汚れてしまう。
なお、このコマは雑誌連載時のもので、単行本ではカットされているが、アニメ版ではほぼ同じ構図のカットがある。ここではアトムは汚れていない。アニメでいちいち汚れを描くのが大変だから描かなかったのかな、とも思うが、ちゃんと汚したカットもある。
と思えば、後のカットではまたきれいになっている。マンガと違って、いちいちそういう所まで行き届かない様子である。
この、戦闘などで汚れたアトムが勝手にきれいになる、という描写はマンガの中では時々ある。ただし、アニメ版では無い。そもそも、アニメ版のアトムは「汚し」を描くのが大変なせいか、中々汚れない。その替わり、アニメ版に時々出てくるのが、敵の攻撃をまともに食らって気絶したアトムが気が付くとエネルギーが切れていて、エネルギーを入れると元気に戻る、という描写である。
マンガ版では、お茶の水博士が「真空管」を交換したりして修理する、というシーンが多く描かれているが、アニメ版では、敵の攻撃を受けて動かなくなった、あるいはエネルギーが切れたアトムにエネルギーを入れると元気百倍、たちまち形勢逆転して敵に勝つ、という描写が時々ある。
また、「アトム今昔物語」では、現代(1960年代)にタイムスリップしたアトムが、周りの人間に「普通の子ども」として受け入れられている。プラスチックの体に薄い人造皮膚を貼ったような構造では、いくらロボットになじみのない現代人とはいえ、手の質感や顔の表情などに「おかしい」と違和感を感じるはずである。
最近開発されている、人間そっくりのアンドロイドでは、かなり厚手の人間の顔をゴムのような素材で作り、中に機械を入れてこのゴムを動かして表情などを出したりしているようである。
アトムの構造も、実はこうではないのか?
従来は、かなり厚いプラスチックの殻の上に薄い人造皮膚が被せられている、ととれる表現となっている。3枚目6枚目の絵を見ると、アトムの外殻はかなりの厚さがある。しかし、人形を作った事のある方なら判ると思うが、人形をこんな構造で作ったら、関節の部分が自由に動かなくなる。
「ガンダム」もそうで、最初のガンダム・RX78は折り畳んだ小型戦闘機(本体操縦席部分兼用)を肩から上のAパーツと腰から下のBパーツで挟み込んだ構造だが、いったいどうやったらこの胴体構造のロボットがアニメみたいに腰をひねったポーズがとれるのか不思議である。コア・ファイターはゴムみたいに機体全体が柔軟に曲がるのだろうか? (当時、最初のガンプラがこのガンダムで、とても良く出来ているのだが、腰はひねれない、肘は回らない構造で、アニメのシーンのような射撃ポーズがとれず、当時はガンプラが品不足で新品が中々手に入らなかったという事もあり、暇にあかせて組み立て塗装済みの1/144のガンダムをばらし、腰の所で胴体を二つに切って回るようにし、肘にポリキャップのパーツをいれてポーズがとれるように改造して悦に入っていた。なお、その後発売された「ザク」では、肘がちゃんと回るようになっていて、「おー、進歩しとる。」と、感心したものである。)
「GIジョー」という、兵隊のフィギュアがある。全身可動、様々なポーズがとれる、という触れ込みの男の子用フィギュアで、実際人間に近いような動きはするが、手足の関節には「球体関節」というようなパーツがはさまっていて、マンガのアトムのようなシンプルな構造ではなく、全身が細かいパーツに分けられていて、継ぎ目だらけである。(実際、アトムのファンアートでは、こういう継ぎ目だらけ・球体関節付きのアトムを描く人がいる。)
同じ頃の女の子向けフィギュアのリカちゃんでは、この手足の継ぎ目を嫌ってか、肩と腰の部分以外は継ぎ目が無く、柔らかいビニールの筒の芯に針金が入っていてポーズを取らせるようにしていた。(当時、手足の細いキャラクター人形で、針金の骨格を柔らかいゴムで覆って自由自在な形が取れる、というものもあり、それで人形アニメを作った、という人もいた。しかし、この針金芯の人形は繰り返して遊ぶと、針金が金属疲労で折れてしまい、手足がぷらぷらになるという欠点もあった。
また、「顔」については、アトムは当たり前だが中々表情が豊かでダイナミックな顔の動きをするし、けっこう微妙な表情の変化も見せる。もし「顔」を固い材料で作ったら、「サンダーバード」のキャラクターみたいになってしまう。「サンダーバード」は登場人物全員がああいう風だから誰も変には思わないが、普通の人間に混ざってサンダーバードみたいな人がいたら、思いっきり変である。(前の会社にそういう雰囲気の顔の人がいて、女の子に「サンダーバード」というあだ名をつけられていた。)
最近、「スーパーフレキシブル」という人形のフィギュアが出て来た。GIジョーの骨格に分厚い柔らかい素材を被せたもので、手足を曲げると筋肉が盛り上がって中々リアルな感じである。アトムがこういう構造であれば、一見人間の子どもの様に見えても不思議は無い。また、顔の表情も「サンダーバード」よりも自由に出せる筈である。
しかし、この柔らかい分厚い人造皮膚で覆われた体で、石造の壁をぶんなぐったり、鋼鉄製のロボットのボディに体当たりして、マンガみたいに相手を壊せるものだろうか? また、銃弾をカンカン弾き返したり、電撃や爆発に耐えられるのであろうか。
同じ手塚治虫の「プライム・ローズ」というマンガがある。この主人公エミヤは、女剣士なのだが、あまり強くはない。あまり強くはないが、相手から刀で切られると、瞬間的に体を石のように固くして相手の刀を弾き返す。相手は切っても切っても切れないのでエミヤには勝てない、という設定になっている。
これだ。アトムも、相手をぶん殴ったり体当たりをするときは瞬間的に体が鋼鉄のように固くなれば良い。敵の砲撃や爆発にも、その瞬間に体が固くなれば、耐えられる。このコントロールには「エネルギー」を消費するであろうから、強烈な攻撃を受けた際には多量のエネルギーを消費するだろう。(新ヤマトの波動防壁みたいなもんかね。)
(画像は「空飛ぶ町」より。敵の念力攻撃を受けるアトム。この後、エネルギーが切れて敵に捕まる。)
石の壁や鉄のロボットをぶん殴ったりする際も、精密な構造の手の骨格部分を柔らかい素材で覆い、さらにその外側を鋼鉄のように硬化させているのであれば、相当の衝撃を与えても壊れる事はあるまい。
また、敵からの思わぬ直撃をアトムが受けても、その瞬間に体を固くすれば、破壊される事はあるまい。ただし、エネルギーは消費するので、攻撃の強さによっては、それが原因でエネルギーを使い切ってしまう、という事もあるだろう。
「白熱人間」の中で、人間がアトムを素手で殴るシーンが出て来て、アトムの頭が固いので「アイテッ」となるシーンがある。人間でも頭は固いのだが、衝撃を受けて固くなったアトムの頭は相当に固いものと思われる。
「体の汚れがきれいになる。」という点についてはどうだろう。説明としては、アトムには、元々ある程度体の表面についている汚れを弾き飛ばしてをきれいにする機能があるが、エネルギーが不足している状態では、省エネモードになっていて、その機能が停止している。そしてエネルギーを補充すると、機能が復活して、徐々に体がきれいになる、というのはどうだろう。
「デッドクロス殿下」や「ロボット宇宙艇」で、「体がバラバラになる」というのはどうだろう。アトムの体は中の機械は全部組み合わさっているが、外側の部分は多くの部分に分割されていて、組み合わせてエネルギーを入れるとこの部分同士が、磁石で引っ付けるように一時的につながる。柔らかいので、隙間も見えにくくなる。(任意で外せる機能もあるはずで、アトムが自分で首を外すシーンがある。)エネルギーが切れると、このつながりがなくなり、「デッドクロス殿下」のように落下の衝撃で外側の部分がばらばらになったり(中の機械はほぼ一体のまま、という事が一枚目の絵でわかる。首の部分と胴体とは元々外せるようになっていて、スプリングのような線一本で繋がっている。)、「ロボット宇宙艇」みたいに手で外してばらばらに出来るようになる。(ここでも、中の機械は一体のままで、首だけが例のスプリングを残して外れている。)
「エジプト陰謀団」の中には、アトムのお尻にひびが入り、海水がしみ込んで来る、というシチュエーションがある。その直前には、アトムは鋼鉄製の人造クジラの超高熱の体内に閉じ込められていて、次第に体が溶けて来る、という危機にあったのだが、エンジン室の壁を破って脱出、水中で戦闘中に浸水に気付く、という話だ。その前には敵の「よっぽど特別な耐熱ひふを持ってるんだな」というセリフもあるのだが、さしものアトムの人造皮膚も、溶けかけるまでいってしまっては多少は変質するようだ。プラモデルのプラスチックでも一旦熱で溶けて固まったものは、元のプラスチックよりも固くもろくなるし。
と、いう訳で、アトムの外側は、「エネルギー」によってコントロールされる柔らかい分厚い人造皮膚におおわれていて、その人造皮膚はいくつかの部分に分割されているが、エネルギーが通っている状態だとお互いに引っ付きあって一体化している。また、この人造皮膚は、外部から衝撃等を受けると瞬間的に外側が硬化して内部を守るようになっている。また、外側の汚れも自動的に弾きとばしているが、エネルギーが切れかけると機能しなくなる。エネルギーが完全に切れてしまうと、お互いのくっつき合う力も無くなり、分解したり、墜落するとバラバラになったりする。のではないか、というのが今回の結論です。「そんな設定は聞いた事がないぞ。」と言われるかもしれませんが、今ここで私が勝手に考えた事なのでご了解下さい。
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